第45話 悪魔が誘う

「この学校には賭博部がある。」


 ボブカットは話し始めた。彼女の背後ではトランプの格好をしたエックスが店じまいを始める。どうやら話は長くなりそうだ。


「もちろん、部として認定されているから賭博行為なんかはしない。普通にポーカーとか麻雀とか、そういう遊びをひたすらやってるだけだよ。ただし、あくまで表向きは、だ。」


「つまり裏の顔があるのか。」


「そ。賭博部は違法ギャンブル行為を学園の中で行っているんだ。」


「学園の中で? 風紀委員会はなにをやっているんだ?」


「さぁね? 普通に知らないだけじゃないかな。とにかく、賭博部は法外なレートでギャンブルを行っている。ボクの計画では、そのギャンブルに乗り込み――。」


「そこにいる悪い奴らを一網打尽にするってことか!」


「一網打尽にしちゃったらお金を絞れないでしょ! ボクが言いたいのは、そのギャンブルでイカサマをしてお金を巻き上げようって話だよ。」


「イカサマ? それってOKなのか?」


「いや全然? バレたらコンクリ詰めで海に捨てられるけど?」


「いやリスクが高い!」


 つまり大体分かった。この女は賭博部のギャンブルに参加してイカサマを行い、金を得ようとしているんだ。ただしイカサマがバレたら普通に殺される。わりに合わないだろそれは!


「ボクのイカサマの手口はこうだよ。まず、マジックの要領で手札のカードを……こういう感じで……。」


 ボブカットは手を駆使してなんとか説明しようとしてくれている……が、圧倒的下手! この場にトランプがないから上手くできないだけかもしれないが。いや違う。普通に下手。もはやマジックとかそういう次元じゃない。よくそれで計画とか作戦とかほざけたなこいつ。


「どう? まさに完璧な――。」


「いやどこが完璧やねん!」


 ダメだこいつ。このままじゃオホーツク海かシベリア、あるいは希望の船行きだ。


「ダメかなぁ。」


「ダメだろ。ダメダメだよ。諦めた方がいい。」


「えーっ。じゃあどうやってお金を稼ぐのさ!」


 知らないよ俺に言われても。真っ当にバイトでもすればいいんじゃないかな。俺は嫌だけど。


「やっぱりこの方法しかないよ! ねぇ、エックスもそう思うよね!」


「ンーフ、わたぁしはこう思いますよぉ。イカサマとはあくまでギャンブルの舞台を移しただけであると。」


 ギャンブルの舞台を移しただけ?


「なるほど。ギャンブルは運。そしてイカサマがバレるかどうかも運。つまりどちらにしろ運であることには変わりないってことね。」


 あ、なるほど。そういうことね。


「ことイカサマに関しては技術がモノをいいまーす。ですので、下手なイカサマはかえって敗北の原因となぁります。」


「じゃあどうしろってのさ!」


「簡~単~。勝てばいいのです。」


 確かにそう。確かにそれはそうなんだけど、そんな簡単な話でもないんだよ。


「よし、そうと決まればさっそく行こう!」


「いやなにもそうと決まってないが! なにを言ってんだよ!」


「いやいや、エックスの話聞いてた? 勝てばいいんだよ。」


「それができたら苦労しないって。」


「それができるんだなぁ。ボク、こう見えて意外に便利なスキル持ってるんだよ。」


 なるほど。スキルか。確かにスキルを使えば、バレずに勝率を上げられる。イカサマみたいなもんだけど、付け焼き刃のイカサマよりはよっぽど信用できるイカサマだ。


「でもなぁ……。」


「うーん、さっきから渋ってるね。陰キャくんはお金が欲しくないの?」


「いや、欲しくないわけではないんだけど。動機はあるんだ。ただあと1歩、背中を押してくれるものがあれば協力できると思うんだよなぁ。」


「強欲だね。よし、じゃあこうしよう!」


 ボブカットはいたずらな笑みを浮かべて俺の顔を覗き込むと、その青い視線で俺の瞳を射貫く。


「もしこの作戦が成功したら、君をボクの彼氏にしてあげるよ。」


「……え?」


「だって陰キャくん、彼女いないでしょ? だからボクが付き合ってあげる。嬉しいでしょ?」


 え? いや、どうして急にそんな話に……。いや、嫌なわけじゃないけど……。というか、正直こんなにキレイな人が彼女になってくれるなら願ったり叶ったりなわけで……。そもそもこのボブカット、顔面偏差値はヒカリちゃんと同じくらい高い。しかも爽やかイケメンタイプ。なかなかお目にかかれるものじゃない。なんだか手の内で転がされてるよう気がしなくもないけど、そんな条件を出されたら、俺は、俺は……。


「どう? これならやる気出た?」


「やります。やらせてください。」


「フッフッフ。よろしい。そうと決まればさっそく賭博部の部室に行こう! 輝かしい未来がボクらを待ってるよ!」


 そう言ってボブカットは歩き出す。が、すぐになにかを思い出したかのように突然振り返る。


「そういえば君、名前は?」


「定気 小優です。」


「なるほど、陰キャくんだね。」


 話聞いてました? さては名前覚える気ないなこいつ。


「じゃ、陰キャくん。ボクのことは不定ちゃんって呼んでね。間違ってもボブカットなんて呼んだら怒るから。」


 こいつ読心術の使い手か? なんかこの学園そういう人多い気がする。っていうか名前……それ名前? 本人が言うなら、名前……なのかな。


「それじゃ、改めて行こっか。ボクのパートナーくん。」

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