第44話 モテたい

「やっ、さっきぶりだね。」


 爽やかな感じで普通に挨拶してくる。こいつマジかよ。


「な〜にがさっきぶりだ! お前のせいでこっちは散々な目に合ったんだぞ!」


「いやぁごめんごめん。でも陰キャくんのおかげで無事取引は達成できたよ。ありがとね。」


 わ、笑っていやがる。俺は尊厳を破壊されたというのに! 許さない。絶対に許さないぞこいつ。


「あ、これ報酬の10万円ね。」


 全て許します。


「風紀委員会がいないとこうも楽に取引できるなんて思わなかったよ。もしかしたら、また次の機会もお願いするかも。」


 そんな言葉は俺には聞こえていなかった。手渡された10枚の1万円札に釘づけだ。これさえあれば当分ご飯には困らないぞ。


「さて、感動の再会もここまでにして、エックス。いつものアレはある?」


「はぁいございまぁす。」


 エックスは懐から謎の小瓶を取り出した。懐どこにあんねんというツッコミはさておき。


「それはいったい……?」


「ンフフ、こぅれはモテ・モテール・エターナルSでございまぁす。」


 モテ・モテール・エターナルS!?


「普通のモテ・モテールは1日モテモテになるだけですぅーが、モテ・モテール・エターナルはその効果が永続する物なのでぇーす。」


 つまりそれを飲めば一生モテモテってこと!?


「その分効果は薄ぅいですが、永続的に使用者の魅力を高めてくれる素晴らしぃアイテムでぇす。」


 そ、そんな物があるのか!? ほ、欲しい!


「では、代金をお願いしまぁす。」


 エックスはボブカットから分厚い封筒を受け取ると、中身を確認する。ひい、ふう、みいと数えている間に、ボブカットは渡された小瓶を飲み干した。


「うん! まずい!」


 まずいんだ。


「確かに代金は頂きましたぁ。今後ともご贔屓にぃ。」


 謎の商人エックスと、怪しげな取引をする女……。これはなにか犯罪の臭いがする……!


「さて、それでエックス。アレはまだ取り置きしてあるかい?」


「はぁいもちろん。常連のあなた様のお頼みですからそれは懇切丁寧に取っておりますよぉ。このモテ・モテールXはね。」


「モテ・モテールX?」


 聞いたことのない名前だ。察するに、モテ・モテールの親戚だろうか。


「モテ・モテールXは通常のモテ・モテールの10倍の効果を持つ液体でぇす。これを加工することでモテ・モテール・エターナルを作ることができまぁす。」


「モテ・モテール・エターナルが手に入れば、ボクはさらにモテることができる。だからボクにはお金が必要なんだ。モテ・モテールXを買って加工してもらうためのお金がね。」


 ボブカットの瞳は情熱と覚悟に燃えていた。これほどまでに決意溢れる人はなかなか見ない。


「い、いったいなにがあんたをそこまで動かすんだ!」


「決まっている。……モテたいからさ。」


 ハッ!


「ボクはモテたいんだ。君にも分かるだろう、陰キャくん。人間はモテたいものなんだよ。誰かにチヤホヤされたい。誰かに愛されたい。そういう欲望は決して止められるものではない。」


「た、確かに。その考えは理解できる。」


 俺も、俺もモテたい。彼女が欲しい! だって高校生ってそういうもんじゃん!


「そうだろう、そうなのだよ! モテたいという欲望に果てはない。だからボクは素性の知らない怪しい奴に大量のお金を払って、ほぼ違法の取引を行っている!」


「いや違法だったんかい。」


「違法だよ。そもそもアイテムはダンジョンから見つかる未知の存在。その加工は違法だし、売買も冒険者ギルドを通さないと違法だ。」


 ガッツリ違法じゃん。じゃあ俺もなんか買ったら邪悪ミッション達成できるかも? いやでも10万円は食費に回さないと……。学長に泣きつけば食費くらい出してくれないかなぁ。


「しかし法なんて些細なものさ。ボクはボクの心に従う。ボクはモテるためならなんだってする! そのためにお金を稼いでいるんだ!」


 なんて熱い演説! しかし言ってることは普通にカスだ!


「なぁ陰キャくん。ボクはさらにお金を稼ぐ手段を知っている。しかしそれには誰かの協力が必要なんだ。もし、もし君がよかったら、可愛くてカッコいいボクのために生け贄……じゃなくて協力者になってくれないかい?」


 おい今生け贄って言いかけたなこいつ。


「ふんだ。俺あんたのことあんまり信用してないからな。だーれが口車に乗ってやるかってんだ。」


「この作戦が成功すれば億稼ぐことも夢じゃないよ。」


 なんだと? それは話が変わってくるな。


「億あればエックスからもなにか買えるだろう。武装アイテムでもいいし、普通のモテ・モテールだって買える。悪い話じゃないはずだ。」


 た、確かに……! モテ・モテールがあれば俺も彼女が作れる。武装アイテムを買えれば戦力強化もできる。世の中金だ。そして学生という身分で金を稼ぐ方法は限られている。


「頼むよ。お互いの利害関係は一致しているはずだ。頭でもなんでも下げるからさ。このとーり。」


 ぐっ、な、悩ましい。悩ましいぞ。


「ま、まぁ多少犯罪はしないといけないけど、そこは目を瞑ってね。」


 犯罪? それって、法に触れるってこと……?


「……作戦があるって言ってたよな。それについて話してくれないか。」

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