第43話 法に触れてみよう!
放課後。俺は男子トイレの個室でステータス画面を開いていた。わざわざ個室で開くのには理由がある。実は邪悪ミッションが更新されたのだ。そしてその邪悪ミッションの内容が、あまりよろしくない。
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定気 小優
レベル1
HP 100000/100000
MP 40/40
攻撃 44
防御 68
技術 36
敏捷 12
魔法 39
精神 48
スキル一覧
・上下左右
・切除
・魔王化
戦闘力 5423
☆邪悪ミッション
・法に触れてみよう!
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いや触れてみよう! じゃないが。なにを言っているんだ。要は犯罪をしろってことじゃないか。バカじゃないのか。俺は正義と道徳を愛する健全な青少年。犯罪なんてするわけがない。
俺がステータス画面を開いたのは、ひょっとしたら風紀委員に捕まったことで法に触れた判定になったのではないかと思ったからだ。しかし邪悪ミッションはまだ消えていない。風紀委員に捕まったくらいでは法に触れたことにはならないようだ。法律の当たり判定どうなってんだよ。
とはいえ、嘆いていても仕方ない。犯罪さえ、犯罪さえすればいいのだ。最悪人のいない場所で下半身でも露出すれば犯罪にはなるだろう。尊厳は失うが、邪悪ミッションのためだ。これは仕方ない。仕方ないったらないの。
そんなこんなで俺はいつものように訓練場に行く前に、人のいない場所を探すことにした。旧校舎の裏とかまさにピッタリだろう。あそこには部室もなければ会室もない。あるのはただの物置小屋と自由を謳歌する雑草だけだと聞く。そこでなら安心して法に触れられるにちがいない。
俺は旧校舎を出て、壁伝いに裏まで回った。聞いていた通り誰もいない。あるのはただの草。それからボロボロの建物。多分あれが物置小屋なんだろう。よーし、じゃあちゃちゃっと下半身露出して邪悪ミッションを終わらせますか。
「おんや、こんなとぅころでどぉ~したのですぅ?」
ズボンのベルトを外し、チャックに手をかけたところで背後からネットリとした声が聞こえた。男の声だ。おそるおそる振り返るとそこには……トランプがいた。
「まぁるで不審者でぇも見る目ですぅね。」
「ふ、不審者だ……! 不審者がいる!」
トランプだ。そう。ハート、ジャック、スペード、ダイヤ。4つのマークを特徴にした、赤と黒のカードゲーム。それだ。そのカードゲームの擬人化が、そこにはいた。ジョーカーのカードの着ぐるみを着ており、手足は白タイツに覆われている。顔はピエロのように真っ白な化粧をしており、常に笑っているように見えるメイクが施されている。背は普通。
「不審者ぁ? そぅれは怖いこわぁい。」
「お前のことだよ。風紀委員呼んでやる。」
「ふぅ~きいいん~?」
まさか知らないのか? いや、よく考えたら制服着てない時点でこの学校の生徒じゃないな? もしかして本当に犯罪者?
「おおおっとぉ、もぅーし遅れました。わたぁしはエックスと言います。普段は闇商人をぅーやっておりぃまして。色んな役に立つものを提供できぃますぅよ。どぅーです?」
エックスと名乗る怪人は、パン、と手を叩く。するとどこからともなく美しい布が現れ地面に広がり、そこに様々な物が出現する。
「こぅーちらは唯一アイテムの千本まち針。刺した相手の移動を封じるアイテムとなぁります。そしてこれは武装系アイテムの罪龍刀。一見ただの青龍刀のよぅーですが、切った相手の罪に応じて様々なペナルティを付与することぅができまーす。」
武装系アイテム。それは量産、固有、唯一に関わらず、戦闘においてメインウェポンにできるようなアイテムのことだ。つまり冒険者用の不思議な武器。普通は冒険者ギルドを介さないと手に入らないような代物で、学生のほとんどは持っていない。
「こぅーちらは経験値の輪。この輪を回すと経験値が生まれまぁす。そしてこれは邪悪な技能。ただの黒い種のように見えますが……食べるとなんらかのスキルが身に付きまぁす。推定固有以上のレア度とされていまぁす。」
すごい。千本まち針も経験値の輪も教科書に載っているようなアイテムだ。しかも千本まち針に関しては冒険者ギルドが管理していたのを数年前に紛失して、以来行方が分からなくなっていたヤツじゃん。
「これ、1ついくらなんですか?」
試しに俺は邪悪な技能を指さして聞いた。
「ニヤリィ、2000万円。」
に、に、2000万円!?
「もっともぉ、わたぁし以外から買おうとすればその5倍は必要ですがぁね。」
な、なんということだ。謎の商人エックス……。こいつはいったい何者なんだ? 世界的にも貴重なアイテムを低価格で学生に売るなんて……。いや全然低価格ではないんだけど。
「ふいー、エックスの旦那やってるぅ? 今日も可愛いボクが来てあげたよ~。」
商品をガン見していたら聞き覚えのある、具体的には昼休み頃に聞いた声が聞こえた。そいつは青のインナーカラーにボブカット。見間違えるはずがない。見間違えようがない。
「あーっ! さっきの女ァ!」
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