第41話 普通に騙された
普通校舎の北側にある剣道部の部室。多分ここだ。昼休みだからかまったく人通りがない。
「ここで待ってりゃ来るんだよな。」
俺はアタッシュケースを握りしめ、部室の前で待った。そして5分くらい経った時点でもうなんとなく察しがついてきた。
「もしかして俺騙されたんじゃ……。」
なんということだ。10万円の魔力に釣られてまんまと騙されてしまった。決してボブカットの顔が好みだったからとかではないが、決してそうではないのだが、騙されてしまった。しかしまぁプラマイで言えば俺みたいな陰キャが女子と話せただけでプラスでは?
「ちょっとそこの君、いいかな?」
振り返るとそこには黒い制服を着た男子生徒がいた。
「私は風紀委員会2年、
あれこれまずいのでは? よく見ると風紀委員会の腕章つけてますよこの人。えっ? マジ?
「どうした? 早くそのアタッシュケースを渡しなさい。大丈夫。ちょっと中を見るだけだ。我々風紀委員会は君のような小市民には痛いことなどしないよ。」
堅山先輩はそう言いながら俺の肩に手をかけた。背は俺より高い。体もガッチリしている。もしかして逃げられない……?
「ちょ……やめてください。令状あるんですか?」
「はっはっは、面白いジョークだ。……そのアタッシュケースの中身を見せろ。これは警告だ。」
顔を近づけてドスの利いた声で脅してくる。こんなのって、こんなのってないよぉ……。
「う、う、俺はなにもしてません!」
俺は手を振り払い走り出した。後ろで先輩が叫ぶ声が聞こえる。
「違反生徒発見! 応援を要請する!」
すると突如として曲がり角や壁の隙間、排水溝の中から風紀委員会の腕章をつけた生徒が這い出てくる。黒い制服も相まって、その様子はまるでG。
「対象を拘束する!」
「うわあああああ!」
幾人もの生徒に取り押さえられ揉みくちゃにされる。そしてとうとうアタッシュケースを奪われてしまった。
「陰キャ顔だから油断していたが、まったく……手間をかけさせてくれる。」
俺そんな陰キャ顔かなぁ? なんか悲しくなってきたよ。
「これよりアタッシュケースの中身を検める。爆発物の可能性もあるため、みんなは離れてくれ。」
堅山先輩はモブ風紀委員達を遠ざけると、そのアタッシュケースを開いた。そして一瞬目を白黒させた後、大声で叫んだ。
「な、なんだこれはァーッ!」
堅山先輩はワナワナと後退りし、信じられない物を見たという表情で、俺とアタッシュケースを交互に見る。
「なんという、なんということだ……。」
「そのアタッシュケースの中にはいったいなにが入っていたんです?」
「ど……ドギツいSMエロ本……。」
ドギツいSM本……!?
「なんということだ……。表紙だけで分かる。これは有害図書レベルのエロ本! こんなものを校内に持ち込むなんて、は、はは、破廉恥ではないか!」
「ちち、違うんです。そのアタッシュケースは俺の物ではなくてですね……。」
「ふ、ふざけるな! そんな言い訳が通じると思うな! 今からお前を風紀委員会の会室に連行する!」
俺は手錠をかけられ、連行されてしまった。風紀委員会の会室はスーパー校舎にある。手錠をしたまま風紀委員会に連れられた俺はまさに晒し首。道行く先輩方にヒソヒソ話をされてしまう。ちくせう、泣きたい。
「風紀委員長! とんでもない大犯罪者を捕まえました!」
会室に入るなり、堅山先輩はそう叫ぶ。そこにいたのは高級感漂う椅子に座った麗しい女性と、見知ったクリーム色の髪色をした女だった。
「奏明……。」
「定気だ。どうしたの?」
なんでこいつがここにいるんだよぅ……。
「堅山か。ご苦労様。」
椅子に座る麗しい女性は堅山先輩に声をかける。多分あの人が風紀委員長なのだろう。
「お疲れ様です風紀委員長! さっそくですが報告します。先ほど怪しいアタッシュケースを持った男を発見したため取り押さえました。そしてそのアタッシュケースの中身が……これです。」
「ふむ……。ドギツイSM本だね。」
ほ、本当にドギツイSM本だ。もう絶対にそうにしか見えないタイトルと表紙だ。誰だよこんなの学校に持ってきた奴。
「定気、こういうの好きなの?」
「違う! 誤解だ! 俺はこんな性癖持ってない!」
「そう……なんだ……。」
なんでちょっと残念そうなんだよ! 俺には分かんないよお前のことが!
「こ、このような破廉恥な本を所持していることは、大変風紀を乱すことであります。風紀委員長、この者に相応の処罰をくれてやってください。」
「違うんです! そのアタッシュケースは変な女に持たされただけで、俺の物ではないんです!」
「嘘をつくんじゃあない! この変態野郎が! 学園の外なら逮捕だぞ逮捕!」
逮捕にはならんだろ! アタッシュケースに入れて持ってたんだから!
「変な女……か、ふむ。それはもしかして、ボブカットで青のインナーカラーが特徴の女ではなかったかな?」
「!? そ、その通りです。俺はまさにそいつに騙されたんです。」
「……少し詳しく話を聞いていいかな?」
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