第3章 狂気のギャンブル編

第40話 怪しい仕事

 定気 小優、現在所持金1500円!


「き、金欠だぁ〜。」


「なかなか大変そうだな。学内バイトでも紹介しようか?」


 俺に優しく声をかけるのは1年2組担任のサッポロ先生。


「いえ、それは大丈夫です。」


「そうかい? でもお金がないと食事すらできないだろう。」


 とはいえ、俺は働きたくない。楽に金を稼ぎたいのだ。バイトなんてさっぱりゴメンである。


「しかしまぁ、なんだ。お金を得る方法はバイトだけではない。今だと、最近校内で好き勝手する輩が増えているから、そういう人を取り押さえてくれると学園側から報奨金が出たりもするよ。」


 現在6月5日。入学してから2ヶ月も経つと、調子に乗ってくる生徒も出てくる。昨日も同じクラスの紅ノブがセンコウ先生にめちゃくちゃ怒られてた。なにをやったのだろうか。


「残念だが私ではこれ以上君の助けになることはできない。せっかく相談してきてくれたのにすまないね。」


「いえ、突然やってきたのは俺ですし、先生は悪くないですよ。すみません、無理を言って。」


 今は昼休み。ほとんどの生徒が昼食の中、金欠の俺は節約のために昼飯を抜いていた。なんとかこの状況から脱するため、サッポロ先生の下にやってきたのだが、解決策は得られなかった。


「クッソ〜、もうバイトか? バイトするしかないのか? 働きたくね〜。」


 人気のない廊下を彷徨いながらそんなことを口にする。今いるのは俺のように金欠で昼食を抜いている生徒か、弁当を教室で食べている生徒だけ。ほとんどの生徒は学生食堂だ。


「金は欲しいが働きたくない。まさにこれが千年難題か……。」


 なんということだ。これ以上の難題は存在しないだろう。おそらく人類史上最高の難題。この問題を解決できる人がいるなら、それは稀代の天才に違いない。


「そこの陰キャくん。お金が必要なのかい?」


「何奴!?」


 廊下の曲がり角から現れたのは、女生徒だった。黒髪だがインナーカラーが青で、ボブカット。可愛いというよりカッコいい系の容姿だ。そして俺はこの人を見たことがない。


「まさか先輩……。」


「あはは、違うよ。同じ1年生。」


 なんだ、同じ1年生か。だとしたら俺がこの2ヶ月で目撃しなかったのはなぜだろう。たまたまかな。


「ところでなんの用です?」


「いやなに、さっきお金が欲しいって声が聞こえてね。もし良ければ、とーっても簡単な仕事を紹介したいんだ。」


「仕事ぉ? 俺は働く気なんて――。」


「15分で10万稼げる。」


「やりまぁす!」


 なんということだ。オイシイ話が転がりこんできた。きっとこれは神様からのご褒美だ。俺が普段からいい子にしてたからご褒美をくれたんだ。


「ちょっと待ってて。仕事の道具を持ってくる。」


 名も知らぬボブカットはそう言って姿を消すと、1分ほどで戻ってきた。


「はいこれ。」


「なんすかこれ。アタッシュケース?」


「そ。君にはそれをとある場所まで運んでほしいんだ。」


「えっ……。ヤバいブツっすか?」


「そんな大層なものじゃないよ。ただ、君が場所に着いたらすぐにサングラスをした生徒がやってくる。君はその生徒にそのアタッシュケースを渡すんだ。それで仕事は終了。」


「やっぱりヤバいブツじゃないっすか!? 中なにが入ってるんすか!?」


「あーダメダメ開けちゃダメ。中身はとっても貴重な物だから開けちゃダメなの。とにかく君はそれをこれから言う場所まで持っていってくれればいい。できる?」


 うーん、怪しい。怪しい臭いがプンプンする。なんというか、全部が怪しい。


「頼むよ~。陰キャくんにしかこんなことはお願いできないんだ。ね? お願い。」


「ぐっ……、こいつ男の使い方を分かっていやがるぜ……。心が揺れる……。」


「可愛いボクの頼みだと思って引き受けてよ、童貞くん。」


「お前今越えちゃいけないライン越えたなおい。」


「もし断るならここで大声出してもいいんだよ? 痴漢だーって。もしそうなったらまずいのは童貞くんの方じゃないかな?」


「ひ、卑劣! そう言われたら後に引けないじゃないか!」


「じゃ、やってくれるんだね。ありがと〜。それを持っていく場所は、普通校舎の北側の壁沿いにある剣道部の部室。そこの前で立ってればすぐに人が来るから。」


 後は頼んだよ〜と耳元で囁くように言いながら彼女は去っていく。おのれ、曲者だ。あぁやって何人もの俺のような哀れな陰なる者を誑かしてきたに違いない。しかし10万円のためだ。これは仕方ない。仕方ないことなんだ……。


 俺はすぐに普通校舎の方に向かった。これから起こりうる自身の凄惨な運命も知らずに……。

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