第39話 極振りの時間

「極振り!?」


「そう、極振りだ。」


 極振りって、ラノベとかでよくあるステータスを1つの項目だけに振りまくるアレ!?


「で、できるのか!? 極振り!?」


「無論だ。枷を外すとはそういうことよ。さぁ、どのステータスの枷を外す? オススメは攻撃、技術、防御、敏捷辺りだな。」


 攻撃を上げれば相手に与えるダメージが大きくなる。

 技術を上げればスキルや武術の精密さが増す。

 防御を上げれば受けるダメージが減る。

 敏捷を上げれば速く動ける。


「う~ん、いやぁ迷うなぁ。」


「貴様の直近の課題は、遠距離攻撃がなく、近距離でも大した火力が出せないことだ。やはり攻撃を上げて火力を増やした方がよい。」


「いや違う。それは違う。大切なのは耐久力だ。攻撃を上げても、耐久力がないと相手から攻撃を喰らって死ぬ。ここは耐久力を上げよう。」


「だとしたら防御か?」


「いや、防御はダメだ。防御力は確かに魅力的だけど、世の中には固定ダメージというものがあるらしい。」


「なるほど。確かに防御力は無敵のように見えてかなり穴の多いステータスだ。だが、他に耐久を上げられるステータスなど……。」


「HPだ。HPを上げよう。」


「HPだと……?」


 今日の人造人間戦を見て俺は思った。完全に効いていないのより、効いてるけど立ち上がってくる敵の方が怖いのだ。俺はあんな戦い方がしたい。


「しかしHPを上げると、HPが0になってから回復した時の潜在能力解放ボーナスが貰えなくなる可能性が高いか。」


「いや、そこは心配せずともよい。我と契約し枷を外せば、今後貴様は我以外の方法で潜在能力の解放ができなくなる。」


「えぇ!? なにそれ!? じゃあ筋トレとかしても意味ないってこと?」


「いや、それは大丈夫だ。筋トレや経験値による潜在能力の解放は人間に備わった基本機能。失われることはない。我が言いたいのは、潜在能力解放ボーナスがもらえなくなるということだ。」


「なぁんだ。それならいいや。というか潜在能力解放ボーナスってなに?」


「人が死に陥った時や、大切な人を失った時。あるいはどうしようもないピンチに直面してしまった時、人は潜在能力を無理矢理解放する。それが潜在能力解放ボーナスだ。貴様は今後それがもらえなくなる。まぁ普通に我による潜在能力解放の方が効率はよいから安心しろ。」


 なら安心……なのか? うーん、ちょっとよく分からない。


「では、枷を外すステータスはHPでよいのだな?」


「あぁ。そうしてくれ。」


「ではこれより契約の儀式を始める。」


 大魔王デスミナゴロスがそう言った途端、突然腹からとんでもない痛みがやってくる。それは徐々に胸や下半身にまで広がり、最終的には頭までやってきた。


「ぐ……くぅ……。」


「我、汝と契約し、汝、我と契約する。我は汝。汝は我。死の厄災の名の元に、破滅と絶望のために。」


 頭の中で声が反響する。破滅と絶望のために。破滅と絶望のために。


「我が名は――その――我が――ために――。――の――厄災――。今解放――。」


 耳鳴りがする。全身の痛みに悶えることしかできない。床に倒れ、体は痙攣し、無限とも思える苦痛が続く。


「我の邪悪ポイントを全て使い果たした。我はもう眠る。」


 苦痛の中でそんな声が聞こえた気がした。だけどあまりの痛みにそれどころではなかった。俺はとにかく、この地獄が終わるよう、祈ることしかできなかった。


 気がつくと、既に夜中だった。痛みはもうない。俺は全身の汗を拭いながらステータスを開く。


 ■□■□

 定気 小優

 レベル1

 HP 100000/100000

 MP 40/40


 攻撃 44

 防御 68

 技術 36

 敏捷 12

 魔法 39

 精神 48


 スキル一覧

 ・上下左右

 ・切除

 ・魔王化



 戦闘力 5423

 ■□■□


「はは……。」


 なんかHPがとんでもないことになっている。えっ? 10万? しかも〈魔王化〉とかいう謎のスキルまであるし。戦闘力も20倍近く上がっている。


 今のところまったく変わった実感はないけど、俺、大魔王と契約したんだよな。


 ため息をつきながら、俺は冷蔵庫からお茶を取り出した。


 これから俺はどうなるのだろうか。大魔王の操り人形になってしまうのだろうか。そうなったら嫌だけど、まぁ自業自得だよな。せめて人に迷惑のかけない生き方をしよう。


 その日、俺は風呂にも入らずそのまま泥のように眠った。次の日からまた学園生活が始まる。きっと俺はもう、どこか取り返しのつかないところまで来てしまっているのだろう。だけど、せめて、短い時間だけでもいいから、俺はまた……。

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