第38話 大魔王との契約

「以上で事情聴取は終わりだ。帰っていいぞ。」


 エージェント黒服さんの事情聴取を終え、俺は寮の自室に帰った。ちなみに黒服さんは俺が人造人間について知っていることにめちゃくちゃビックリしてた。奏明から聞いたということを教えると、「マジ? 全部教えるやんあいつ。えぐ。」と若干のキャラ崩壊を起こしていた。まぁ秘密を守る立場からしたらやってることヤバイよなぁ。


「というわけで、今日はなんか激動の1日だったなぁ。」


 部屋でリュックサックを下ろしながら呟く。しかし今日のダンジョン体験会で得られるものもあった。それはそう! モテ・マクールだ!


「さぁーてさっそくこのモテ・マクールを……モテ・マクール……あれ?」


 しかしリュックサックを漁ってもモテ・マクールは出てこない。代わりに出てくるのはビンの破片。あとなんかリュックサックの底がグッショリしていて……。


「あああああああああああ! 割れてるううううううう!」


 そういえば俺、めちゃくちゃ壁に叩きつけられたりしてたわ! あの時か! リュックサック背負ったまま戦ってたからその衝撃で割れたんだ。


「お、俺の1億円……俺のハーレム……。」


「人間。矮小なる人間。どうした、リュックサックの底など舐めて。遂に狂ったか。」


 あ、大魔王デスミナゴロスだ。


「矮小なる人間よ。邪悪ミッションが達成できているぞ。」


「邪悪ミッション? 確か、略奪をしよう、ってヤツだっけ? 俺なんか奪ったかな?」


 心当たりがない。全くない。う~ん、分からぬ。


「なにを白々しい。貴様はとんでもないものを奪ったではないか。」


「とんでもないもの?」


「女生徒の心だ。」


 なんだこの大魔王。ロマンチストかよ。うへぇ~。


「というわけで邪悪ポイントを獲得したぞ。さぁ、なにに使う? ステータスの強化か? 新たなスキルか? 自身の弱いところを補うもよし、長所を伸ばすもよし。好きに選ぶがよい。」


 そうか。いや、う~ん。そうは言われても。


 俺は頭の中で思い返す。今日の人造人間戦。俺はまったく戦力にならなかった。人造人間に近づけば死ぬと分かっていたから近づけなかったし、遠距離攻撃の手段もなかったからだ。


 正直、俺はステータスも上がってスキルも手に入れて、めちゃくちゃ強くなったと思っていた。しかし現実はそうじゃなかった。八英という本物の天才達の戦いを目の当たりにして、俺は自信を失った。強力なスキルとそれを活かす戦闘IQ。どちらも俺にはない。


「なぁ大魔王。俺はどうすれば強くなれると思う?」


「……強くなりたいのか?」


「当たり前だろ。そのためにこの学園に来てるんだし。」


「そうか。矮小なる人間。我は貴様が強くなる方法を知っている。しかしそれを貴様に教えたくはない。」


「はぁ!? なんでだよ!?」


「貴様は貴様が思っているより凡才なのだ。もし才能を超えて強くなろうとするなら……相応の対価が必要になる。貴様は我の眷属として、長きに渡り世界に影を落とさねばならぬ。ゆえに我は貴様が大切なのだ。」


 眷属になった覚えはないが……大魔王ってもしかして俺のこと心配してくれてる?


「だが、自身の望みを叶えることこそ生きるということでもある。ゆえに、我は貴様が望むのであればやろう。潜在能力の解放のその先を。」


「潜在能力の解放の先?」


「あぁ。それは人としての枷を外す行為。やれば絶大な力を得られるが、対価を支払わなくてはならぬ。」


 絶大な力……。俺は生唾を飲み込んだ。もしそんなものが手に入るのなら、俺は……。


「矮小なる人間よ。汝、力を望むか? 人としての枷を外し、潜在能力のその先を行く力を望むか? ならば我と契約せよ。さすれば我は、汝に力を与えん。」


 契約……。大魔王と? 死の厄災と? 俺はそんな奴と契約して大丈夫なのか?


「我は汝に力を与え、汝は我に力を与える。我が汝に寄生した時からその関係は築かれていたが、契約によって今一度その関係を強固なものとする。我は汝。汝は我。この契約に同意するならば、我は汝に力を与える。さぁ、どうする?」


 ど、どうするって言われても……。俺は、俺はどうすりゃいいんだ? 大魔王と契約して、力を与える? もしそうしたら、大魔王はなにをするつもりなんだ? もしかして俺も羽山みたいに操られて、誰かを傷つけてしまうのか?


「契約。対価。枷。貴様にはまだ早すぎた話かもしれん。しかしこれはまたとないチャンスでもあるはずだ。思い出せ。貴様の欲望を。貴様はなんのためにこの学園に来たのだ?」


「それは……強くなるため。」


「強くなってどうするのだ?」


「強くなって……また天才って呼ばれたい。みんなに褒められたい。」


「そうか。その欲望は個人の力だけでは達成できぬ。分かるか? 貴様が誰かから天才と呼ばれるためには、天才と呼んでくれる者が必要だ。それを忘れるな。忘れれば最後、貴様は目的を失い、生きる意味をなくす。」


「そうなったら俺はどうなるんだ?」


「お前は死ぬ。心に絶望を抱き、他者に危害を加えるようになれば、貴様は魔王の依り代として勇者に討たれる。」


 そうか。俺がここで契約して暴走したら、俺は勇者に、奏明に殺される運命になるのか。


「だったら安心だ。」


「安心?」


「奏明なら、俺を止めてくれる。アイツは強いから。」


「……そう……か。ならば、汝、我と契約をするか?」


「あぁ。するよ。」


「…………そうか。分かった。汝の覚悟を受け止めよう。では選ぶがよい。」


「選ぶ? 選ぶって……?」


「枷の解放はステータスの強化だ。しかし全てのステータスの枷を外すことはできぬ。枷を外すステータスを選ぶのだ。」


 枷を外すステータスを選ぶ? それってつまり……。


「極振りの時間だ。」

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