第37話 人造人間戦、終了
人造人間は倒れた。もう動かない。もう起き上がらない。
「勝った……のか?」
「勝ったよ。」
ジュン講師は服の汚れを叩きながらこちらに歩いてきた。
「もうすぐ先生が来る。けどここの重傷者を保健室に運び出すのには人手が必要になる。集団転移装置が来るまで待つことはできない。特に重傷な人達を持って、個人転移装置で学園に戻ってもらいたい。」
「なるほど。保健室まで運ぶんですね。」
「あぁ。HPが0になっている人を優先して運びたいな。僕がスキルでHPを確認して、0になっている人の名前を呼ぶからその人を運んでほしい。」
ジュン講師によると、HPが0になっていたのはタワーリシチさんと安倍だけだった。白市はどうやらまだちょっとだけ残ってたらしい。あと、砂原さんに関しては既に意識があったようだ。それと突然倒れたヒカリちゃんのファンも、HPは1だけ残ってたみたい。
「じゃあ、タワーリシチちゃんは私のファン達に運ばせるから、安倍ちゃんは小優くんにお願いするねっ。」
ヒカリちゃんもいつものアイドルモードに戻っている。かわいい。
「HPが0になっていない人は僕の回復魔法でなんとかします。既にダンジョン体験会は中止となりましたので、動ける人は荷物をまとめてダンジョンから出るようにお願いします。」
なんということだ。ダンジョン体験会中止か。まぁ、勝手に4層に潜った挙げ句、人造人間と会敵したなんて普通に中止案件だよなぁ。
「じゃあ俺は安倍持って帰るから、あとのことは頼んだ。」
「うんっ、任せてね。あと、その子寂しがり屋だから、ちゃんと愛情を持って接してあげてほしいなっ。」
「う~ん、検討はしておく。」
俺は制服に着けた転移装置を発動させ、学園へと飛んだ。飛んだ先は校庭だったので、そのまま安倍を背中に乗せて保健室まで向かう。
「怪我人か。」
保健室に向かう途中、廊下でメアリー婦人に会った。
「やれやれ、おちおち昼飯も食えないとはな。中に入れ。」
「うす。」
保健室で安倍を寝かせると、メアリー婦人は彼女に手をかざす。すると温かな光に包まれた。
「HPが0になると普通の回復魔法では回復できない。蘇生魔法でHPを1まで回復させ、それから回復魔法を使う必要がある。」
「ほへぇ、そうなんすねぇ。」
「分かっていない顔をしているな。まぁ蘇生魔法も回復魔法の1種だから、理解が難しいのは分かる。」
こうしている間にタワーリシチさんも運ばれてくる。メアリー婦人は彼女にも蘇生魔法をかけながら、俺と話してくれる。
「それで、八英が2人も瀕死なわけだが、いったいなにと戦ったんだ?」
「人造人間です。」
「人造人間……? ふっ、なるほど。そういえば八英の1位は勇者だったな。彼女なら知っていてもおかしくはないか。それで、勝ったのか?」
「はい。ジュン講師が倒してくれました。」
「あぁ、あの新任の。意外だな。アイツに人造人間が倒せるとは思わなかったが……まぁいい。今はそんなことより……おや? 目が覚めたのか。」
安倍は目を覚ましていた。体の傷はまだ治っていないが、意識は回復したらしい。
「定気……くん……?」
「あぁ。俺だよ。目、覚めたか。」
「うん……。私、倒したよ……。」
いや倒したのお前じゃないけどな。まぁ、いや、うん。こいついないと俺死んでた可能性あるわけだし、まぁそういう意味では、命の恩人なわけだし……。う~ん。
「私……強いでしょ……?」
「あ、うん。そうだな。お前は強いよ。」
その時俺は思い出した。そういえばヒカリちゃん、こいつのこと下の名前で呼んであげてほしいって言ってた。でも俺みたいな陰キャにそれは厳しい……ってよく考えたらヒカリちゃんのことは自然にヒカリちゃん呼びしてたわ。う~ん、ここで引いたらまるでヒカリちゃんにだけ特別な感情を抱いてるって思われそうで嫌だな。いや、あの、俺は全然別にいいんだよ? 俺は全然別にまったく構わないんだけど、ヒカリちゃんが、嫌かな~って思っただけで……。
「うん。私は強い。知ってる。」
ムフーと満足気な顔をする。前々から思っていたのだがこいつはどこか子供っぽいところがある。強さに固執してるところとか。
「お前は強いよ、奏明。俺はお前を尊敬する。」
まぁ、今日くらいは、多少甘やかしてもいいよな。いいはずだ。奏明も頑張ってたわけだし。
「ふふ……嬉しい。」
「保健室はイチャイチャするのはやめてくれないだろうか。甘すぎてゲロ吐きそうだ。」
*???の視点
「人造人間の反応が消失した?」
暗い部屋。大量のモニターの1つを凝視する人間がいた。その背後から性別不詳の人間が声をかける。
「あぁ。これは……私立学園ギラのダンジョンに送り込んだ個体だな。」
「じゃあ問題ないじゃん。あんな量産型、また補充すればいいだけだし。」
「問題はそこじゃない。私立学園ギラの私有地で対Aランク用人造人間が破壊されたのが問題なんだ。普通のダンジョンで破壊されるのとはワケが違う。」
「なにが違うの?」
「私立学園ギラだぞ。強い教員なんて片手で数えられる。ましてや人造人間を倒せる人物なんて……学長と副学長、それからあとは……。」
「東海道。そういうのやめなって。雑魚の数なんて数えても仕方ないよ。それより現地に行ってギラ破壊してみない? そっちの方が早いよ。」
性別不詳の人間はニヤリとイタズラな笑みを浮かべた。顔立ちは端正。しかしその瞳は虚空のように黒い。
「西海道。そういう問題じゃない。なにより私立学園ギラには既にスパイが行っている。もし破壊したいなら人造人間を1000体ほど寄越せば地図から消える。問題はそこじゃないんだ。」
「じゃあどこなの?」
「私立学園ギラに、強い生徒か強い教員が入った可能性がある。もしそうだとしたらスパイが私立学園ギラを乗っ取る計画が邪魔される可能性がある。」
「作戦、計画。そういうの好きだよね。つまんない。全部破壊しちゃえばいいのに。」
「そうはいかない。私立学園ギラには厄災の苗床になってもらわないといけないんだ。私立学園ギラを手中に入れたら、私立学園ギラの名前で他学校に侵略、戦争を仕掛ける。人造人間を使えば負ける可能性はない。もし負けても私立学園ギラに全ての責任を押しつけて逃げればまたやり直せる。そういう計画だろう。」
「あーはいはい。分かった分かった。もういいや。……ところで南海道は?」
「買い出し。どっかの誰かが飯を食いまくるせいでな。」
「マジ? あの子買い出し……まぁはじめてのおつかいみたいに見られるだろうけど、いけるっちゃいけるか。」
西海道と呼ばれた人間はモニターに顔を近づける。
「ま、スパイがとっととギラを手に入れることを祈ってようよ。全ては血と硝煙のために、でしょ?」
「はぁ、お前の態度は……まぁいい。人造人間でも動かして遊んでいろ。俺は忙しいんだ。」
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