第35話 人造人間戦(5)

「〈ゆうしゃのいちげき〉」


 クリーム女の剣から光がほとばしり、人造人間を包んだ。人造人間は目をかっぴらき、恐ろしい咆哮をあげた。


「ウオィアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!」


 あまりの音量に思わず耳を塞ぐ。やったか!? と思いながら目を開くと、人造人間はクリーム女を蹴り飛ばしていた。


「ぐっ!」


 クリーム女は蹴りを剣でガードしたが、あまりの威力に3歩ほど後退する。人造人間はその隙に次の攻撃を……というところでクリーム女は再び剣を振るった。


「〈かいしんのいちげき〉」


 ズバンという小気味いい音が響き、人造人間の上半身に赤い切り傷ができた。大きな袈裟斬りだ。


「ィアアアアアアアア!!!」


 人造人間はあまりの威力に1歩後退した。痛みに顔を歪め、それでも威嚇しながらクリーム女を攻撃する。しかし今度は回避され、さらにカウンターを喰らってしまう。


「〈つうこんのいちげき〉」


 今度は再び人造人間の上半身に赤い切り傷ができる。先ほどのと合わせて傷がクロスになっている。


「アアアア!!!」


 人造人間は床を両手で叩いた。衝撃波により飛ばされそうになるが、心なしか先ほどより威力が小さい。クリーム女は衝撃など気にせず呟いた。


「あんまり効いてないな。」


 えっ、効いてないんすか? めちゃくちゃ叫んでるけどこれって効いてるわけじゃないんだ。


「だったら……。」


 クリーム女は飛び上がり、人造人間の首筋に狙いをつける。


「〈かいしんのいちげき〉+〈つうこんのいちげき〉+〈ゆうしゃのいちげき〉」


 剣が3種類の光を帯び、人造人間の首を大きく斬りつけた。


 クリーム女はスタッと着地した。人造人間はボタボタと血の流れる首を見て言葉を失っていた。


「フフッ、効いてる。あなた、弱いのね。」


 クリーム女はニヤリと笑った。人造人間はそれを見て、今日一番の咆哮をあげる。


「ギィヤアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!」


 眼は限界まで開かれ、筋肉は膨張して自壊を始める。


 俺の目には、人造人間の様子がおかしいように見えた。白市やタワーリシチさんと戦っていた時は無。ヒカリちゃんの攻撃を受けた時は怒りって表情だったのに、今の表情はなんというか、クリーム女を怖がっているように見える。


「ィヤダアアアア!!!」


 人造人間はクリーム女に拳を振るう。乱雑な攻撃は当たらないが、いかんせんここはダンジョンの中。数回回避をすればすぐに壁に追い詰められる。


「チッ。」


 クリーム女は回避を試みるより防御に徹することにしたようだ。人造人間の攻撃を受けながら、彼女は的確にカウンターを決めていく。


「〈かいしんのいちげき〉+〈つうこんのいちげき〉+〈ゆうしゃのいちげき〉」


 彼女の攻撃は人造人間に効いている。無敵みたいなHPを持つ人造人間でも、クリーム女の攻撃には焦っている。行ける。勝てる。頑張れクリーム女。俺には応援することしかできない。


「化け物同士が戦ってるのを端から見るのもなかなか面白いね。」


 ヒカリちゃんはダンジョンの壁に寄りかかり、体重を預けていた。


「クリーム女は化け物じゃないよ。」


「化け物だよ。ちょっとスロースタートなところがあるけどね。」


 スロースタート?


「見てれば分かるよ。それにしても、はぁ。なんか今日は疲れたなぁ。」


 確かになんかめちゃくちゃ疲れた顔してる。声もちょっと低くなってるし。


「あっ、今の攻撃クリーンヒットしたね。かなりいいダメージ入ったんじゃない?」


「えっ、見てなかった。どっちの攻撃が入ったの?」


「人造人間の方だけど……。見てなかったって……逆にどこ見てたの。」


 あなたの顔ですとは言えないよなぁ。


「私に見惚れるのはいいけど、流れ弾くらい自分で避けてよ。」


 心読まれてる!? エスパーか!?


「あっ。こっち来るよ。」


 こっち来る?


「イヤァァァ!!!」


 見るとクリーム女が人造人間によってブッ飛ばされ、こちらに飛んできていた。


「うお! 危ね!」


 あわや衝突というところでクリーム女を回避。いやぁ危なかった。


「受け止めてあげたりとかはしないんだ。」


 ヒカリちゃんの目が厳しい。いや無理だって今のは。弾丸じゃんほとんど。


「ハァ、ハァ……。」


「お、おいクリーム女、大丈夫か?」


「……楽しい。」


 突風を残してクリーム女の姿が消えた。かと思うと人造人間の悲鳴が聞こえる。一瞬で距離を詰めて斬ったみたいだ。


「あの子、安倍ちゃんはさ、そういうスキルを持ってるんだ。」


「そういうスキル?」


「自身が傷つけば傷つくほど強くなるスキル。多分回避じゃなくて防御に回ったのも、相手からより多く攻撃を受けるためじゃないかな。」


 攻撃を受けるためにって、なんかマゾヒストみたいだな。


「あのスキルを使うために防御に回ったのは、そうしないと勝てない相手だからだよ。当たり前だけど格下相手なら瞬殺すればいいだけだし。」


「……つまり人造人間ってクリーム女より強い?」


「そうなるね。あとそういう呼び方、ニックネームだとしても相手を傷つけるからよくないよ。」


 マジか。人造人間ってそんなに強いのかよ……。


「多分、彼女このままだと負けるよ。でも私じゃあの戦いに手を出すことはできない。小優くんは?」


「俺も無理。」


「じゃあ、私達は眺めてるしかないね。」


「あぁ。クリー……アイツが勝つことを祈ろう。」


「……下の名前で呼んであげればいいのに。」

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