第32話 人造人間戦(2)

 *タワーリシチの視点


 私は昔から日本に憧れていた。日本に行ってみたいと思っていた。ロシアと日本は近いから、行くことは簡単だ。そして実際に旅行に行って、私は日本で暮らしたいと思うようになった。


 ママは応援してくれた。だから私は頑張った。2ヶ月ほどかけて日本語を習得した私は、日本の私立学園ギラに通うことになった。


 私はどうやら入学試験でよい成績を残したらしかった。八英という称号が与えられた。嬉しかった。だが慢心せず励まねばならぬとも思った。それが日本のサムライというものなのだから。


 私は当初、日本の学生と打ち解けられるか心配だった。日本語はネイティブとも問題なく会話できる程度身につけたが、やはり不安だ。少しでも親しみやすさを感じてもらうため、髪は黒に染めることにした。制服はちょっといじって和服っぽくしてみた。元々剣の心得があったので刀も持ってみた。


 準備は万端だった。そしていざ学園生活が始まると、私は孤立した。


 理由が分からなかった。だが確実にクラスから孤立していることは分かった。クラス全体の仲が悪いわけではないが、私だけが浮いているような感じではあった。特に親しい友達はできなかった。クラスメイトともあまり会話はしなかった。そのまま、1ヶ月が過ぎた。


 なにがよくなかったのだろうか? なにを誤ってしまったのだろうか? ただ語学を会得しただけでは、彼らの心のうちは分からないということだろうか。だが、その疑問に答えをくれる人はいなかった。


 私はこのまま孤独に過ごすことになるのだろうか。高校の3年間を、孤独に過ごすことになるのだろうか。それはとても寂しいことだ。私も友達がほしい。心を開ける友達が。


 ダンジョン体験会という催しがあるらしい。曰く、学園が管理しているダンジョンに潜るのだとか。しかも他の組と合同授業。もしかしたら、もしかしたらこの授業をきっかけに友達ができるかもしれない。私はダンジョン体験会を心待ちにした。


 そして当日、5組で特にパーティーに誘われなかった私は1人で2層まで来ていた。1層は既に多くの人がいて(しかもパーティーを組んでる人がほとんどで話しかけづらかった。)私のようなソロの生徒には居場所がなかった。だから早々に2層まで降りてレッサーオートマタをひたすら狩っていた。


 私を見かけた人は遠目でなにかヒソヒソ話をするだけで、決して私に話しかけてくるようなことはしなかった。悪口を言われているのかもしれない。そう思うと憂鬱になった。


「いやぁー! 助けてェー!」


 その時だった。誰かの助けを求める声が聞こえた。すぐ近くだ。私は向かった。ダンジョンの通路を数回曲がると見えたのは、レッサーオートマタに追われる男子生徒だった。私はレッサーオートマタを一刀で片付け、その男子生徒を見た。


 学園の制服。背は私より低い。体型は普通。髪型も普通。これといった特徴はなし。しかし、弱い。少なくともソロでやっていける実力じゃない。レッサーオートマタに追われていたのが根拠だ。あの程度も倒せないのであれば、パーティーを組むか1層に潜った方がよい。私はそのことを彼に伝えた。すると彼は丁寧にお礼を言って、去ろうとする。


 しかし私は寂しかった。彼に行ってほしくないと思った。だから、彼の実力など分かりきっているにも関わらず、適当に理由をつけて手合わせを申し込んだ。


 彼は手合わせ……と呼ぶにはあまりにも一方的だが、手合わせをしてくれた。動きはてんで素人。やはり見込みはない。私はやんわりとそのことを伝え、1層に帰ることを改めてオススメした。


 そして私はその場を去ろうとした。彼との会話は楽しかったから、またどこかで機会があればおしゃべりしたいと思った。


 しかし事態は思わぬ方向へ転んだ。なんと、彼は私とパーティーを組みたいのだそうだ。こんな無愛想な私と? よいのだろうか。こんなに嬉しいことはない。私はウキウキだった。


 それから、彼は私に回復薬をくれたり、スキルを使ってレッサーオートマタ改を撃破してみせたりした。ダンジョン探索は1人でも楽しかったが、誰かと一緒だとさらに楽しかった。私は彼に感謝している。私とおしゃべりをしてくれたこと。私とパーティーを組んでくれたこと。


「だから私は彼に報いなければならない。」


 眼前の怪物は膨大な筋肉を振り回し、私を潰さんとしてくる。しかしそれらの攻撃が私に当たることはない。


 私は自身のスキル、〈記憶操作・弱〉により私のことを視認する全ての生物の記憶を操作している。人造人間と呼ばれたこの怪物には、私の動きが数秒間遅れて見えている。つまり、こいつが攻撃しているのはこいつの記憶の中の私だ。


 しかしこれには弱点がある。それが先ほどの衝撃波のような範囲攻撃だ。実際、私は先ほどの衝撃波によりHPが3割ほど削られた。衝撃波だけでこのダメージなのだから、万が一あの腕に掠りでもしたら私は死ぬ。ここは早々に決着をつけなくては。


 人造人間が再び私に拳を振るおうと、天高く腕を持ち上げた。私は呼応するように抜刀の構えを取り、1歩踏み出す。


 その瞬間、人造人間は仰け反った。先ほど私が踏み出した瞬間、人造人間に『私に斬られて仰け反った』という記憶を与えた。生物は記憶に縛られている。実際には仰け反るような攻撃でなくとも、仰け反ったという記憶が与えられたなら仰け反ってしまう。それが生物なのだ。私の〈記憶操作・弱〉では前後数秒の記憶しか操作できないが、このような使い方もできる。


 私は隙だらけの人造人間の首に向かって居合切りを放った。


「〈一刀の粛清〉!」


 私の刀が粛清を表す赤に染まる。私のスキル、〈一刀の粛清〉はMP消費型の火力増大スキル。斬撃のダメージをおよそ10倍にしてくれる。そこにパッシブスキル〈剣術〉も乗り、今までとは規格外の一撃となる。


 これは私の必殺のコンボだ。〈記憶操作・弱〉により隙を作り、〈一刀の粛清〉を首筋にぶつける。このコンボで死ななかったモンスターはこれまでいない。おそらく、この人造人間にも致命の一撃となるはずだ。


 私の刀が、人造人間の首を捉え、切り裂いた。

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