第31話 人造人間戦(1)
「クソッタレがァ!」
白市は紫電を放出しながら人造人間に殴りかかった。しかし何度殴り蹴ろうとも明確な有効打にはならなかった。
「白市! 一旦引け!」
「引いてたまるかよ! 俺は紫竜の白市だ! こっちにもプライドってもんが――。」
再び人造人間が手を振りかぶる。まずい。〈切除〉が間に合わない!
「意地になっているな。」
人造人間の腕が振り下ろされる瞬間、タワーリシチさんが白市を抱えて間一髪回避した。そのまま衝撃波を利用してこちらまで転がってくる。
「君のスキルは精密なコントロールさえできれば遠距離攻撃も可能なはずだ。なにより狭所では君は竜になれない。ここは君の出る幕ではない。」
「クソが! 俺は戦えるんだよ!」
「白市、落ち着け。俺達は耐えるだけでいいんだ。江津くんが先生を呼んでくるまで耐えれば。無理に戦う必要はない。」
とはいえ、人造人間の歩みを止める方法が見つからない以上、なんとか攻撃はしてみないといけないわけだが。
「白市と砂原は遠距離攻撃で支援を頼む。私は近距離でなんとかいなしてみせる。」
「俺は?」
「待機。」
まずい。戦力として数えられていない!
「私は回避特化の戦闘スタイルだ。敵を引きつけることには慣れている。」
タワーリシチさんは人造人間の前に躍り出ると、素早く5回切りつけた。案の定、攻撃は通っているが有効打にはなっていない。
人造人間は再び右腕を振り上げ、叩きつけた。タワーリシチさんは回避などすることもなくその腕を受け止め――ることなくすり抜けた。
凄まじい衝撃が再び起きる。その後、タワーリシチさんはヌラリと3歩ほど左に避けた。俺からしてみれば全く無意味な移動。最初にタワーリシチさんと会った時も俺の剣をすり抜けてみせた。あの時と同じ現象。そしてあの時も、タワーリシチさんは俺が攻撃した後にその場から動いた。
まるで、攻撃を受けてから回避しているみたいだ。
タワーリシチさんは再び人造人間に太刀を振るう。美しい日本刀だ。剣術も美しい。まさに侍と呼ぶに相応しい戦い方だ。しかし戦っているのは人とも妖怪ともとれない異形。彼女の美しさと対比しているような、醜い怪物だ。
人造人間は再び右腕を振るう。そしてまたしてもタワーリシチさんの体をすり抜け、その後タワーリシチさんはその場からなにかを避けるようにバックステップを取った。
「今だ! 〈簡易版ライトニング・ブレス〉!」
白市は手から紫電のレーザーみたいなのを発射した。あのスキルってそんなこともできるんだ。ブレス要素はどこにもないけど。
「こっちも忘れんなよ!」
砂原さんは手をスナイパーライフルに変化させ、正確に人造人間の脳天をエイムして射撃した。しかし人造人間は怯みもしない。ただ銃弾を頭の筋肉だけで受け止めてしまった。
しかし、光明が見えてきた。タワーリシチさんには攻撃は当たらないし、遠距離攻撃持ちが2人もいる。確かに人造人間は厄災に数えられるほどの脅威だけど、天才中の天才達が集まったこの学園の生徒ならなんとかなりそうだ。
と俺は一瞬たりとも思ったことを後悔することになる。
人造人間はタワーリシチさんに攻撃が当たらないことを悟ると、突然床に手をついた。
「!?」
ニュルリと筋肉から何本も鉄パイプのような物が生えてきて、そこから水蒸気を出す。しばらく水蒸気を出すと、鉄パイプを筋肉の中に納め、再び立ち上がった。
あれは多分、肥大化した筋肉を操ることによって発生する代謝運動なのだろう。もしかしたら人造人間には発汗機能がないのかもしれない。代わりにあのようにして体内の水分を出しているのか。だとしたら、あの行動は強攻撃の溜めや必殺技の準備などではなく、ただの単なる隙。
俺は油断した。もしかしたらあの隙を突けば、俺でもなにか役に立てるのではないかと思ったのだ。だから俺は待機するように言われていたのだが、次にあの排蒸気行動を行った時、攻撃できるように人造人間に近づいてしまった。
人造人間は、手を振り上げた。両手を振り上げた。その瞬間、その攻撃が今までの攻撃と違うことを理解する。今までの攻撃は全て右手だけで行ってきた。なにより誰かを狙って攻撃していた。だが今は違う。タワーリシチさんは人造人間の射程外にいる。他のみんなもだ。だから人造人間は誰かを狙って手を振り上げたわけではない。
「グォア!」
唸るような声と共に、人造人間はその腕を振り下ろし、ダンジョンの床に思い切り叩きつけた。爆弾でも爆発したみたいなとんでもない衝撃が俺を襲った。あまりの威力に耐えきれず、俺は衝撃に吹き飛ばされてしまった。
そしてダンジョンの壁に叩きつけられ、そのまま意識を失った。
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