第27話 宝箱の中身は

「ギギ……。」


「ハッ!」


「ギギ……。」


「フッ!」


 タワーリシチさん、出会ったレッサーオートマタをことごとく両断していきます。この人俺に1体くれたりとかしないかな? しないですね。全部自分で狩ってます。まぁそれも俺が悪いんだけどね。


「あっ、タワーリシチさん、ちょっと待って。」


「どうした? モンスターか?」


 俺はダンジョンの壁に駆け寄り、そこに巧妙に隠されていたスイッチを押した。するとダンジョンの壁が割れ、中から宝箱が現れた。


「驚いた。まさか知っていたのか?」


「いや、ただなんかスイッチが見えたから押しただけだよ。トラップだった可能性もあったけど、タワーリシチさんがいるしなんとかなるかなって。」


 タワーリシチさんはすごい人だ。八英ってことは白市と同じくらい強いってことだもんな。これは頼りになる。実際彼女が戦闘してくれるおかげで俺はダンジョンの細部を観察することができる。


「なるほど。そうだったか。まぁいい。早く宝箱を開けるといい。その宝箱は君が発見した物だから君の物だ。」


 いやぁ、嬉しいね。では早速ご開帳。えー、中身はビンが2つ? かーっ湿気てんな。1つは回復薬ともう1つは……。


「えっ……えーっ!?」


「どうした? なにかすごい物があったのか?」


「い、いや、えっと、そんなことはなかったよ。」


 宝箱の中にはピンク色のビンに『M』のラベルが貼ってある薬が入っていた。俺は以前、図書館で世界アイテム大百科を見たから知っている。


 これは固有アイテム、モテ・マクールだ!


 固有アイテムとは、量産アイテムと唯一アイテムの中間的なレア度のアイテムで、発見こそされるが量産アイテムより数が少ないアイテムがここに振り分けられる。


 そしてこのアイテム、モテ・マクールは飲むだけで24時間異性にモテまくるようになるという、全ての男子が手に入れたがる逸品。かつてオークションにて1億円で落札された噂もある。つまりめっちゃすごいアイテムなのだ!


 俺はそれを手に取り、リュックに押し込んだ。これは俺の物だ。誰にも渡さない。しかし悩ましいな。使うか、売るか。使えば彼女どころかハーレムを築くことも可能だし、売れば最高1億円。一気に億万長者だ。悩ましい。実に悩ましい。使うべきか売るべきか、それが問題だ。


「いいアイテムがあったのか? やけにニヤニヤしながらリュックに隠したみたいだけど。」


 まずい! 俺がモテ・マクールを手に入れたことを知ったら奪いに来るかもしれない! モテ・マクールは1億円。彼女といえどもその魔力には逆らえないだろう。ここは隠し通さねば!


「そ、そんなことないっすけどねぇ~。ヒュ~ヒュ~。」


「それ口笛? 下手だね。」


「あ、あはは。あそうだタワーリシチさん、これあげるよ。宝箱から出た回復薬! 持ってても困らないでしょ。俺は戦わないしいらないから。」


「これを私に……? そうか。君はなんていい奴なんだ。先ほど君を弱者と言ったことを撤回しよう。君の精神は強者のそれだ。」


 よ、よかった。どうやら誤魔化せたみたい。タワーリシチさん回復薬見てニタニタしてる。もしかしたらちょうど切らしてたのかも。


「よし、この調子でどんどん奥まで行っちゃおーう!」


「そうだな。私も楽しくなってきた。歩くペースを上げようか。」


 こうして俺は1億円アイテム、モテ・マクールを手に入れウキウキな気分でダンジョンを歩いた。リュックにはモテ・マクール、前にはロシア系美女。いやぁ最高だな。来てよかった、ダンジョン体験会!


 俺達はダンジョンをどんどんと進み、ついに3層へ続く階段を見つけた。


「2層は1層より広かったしモンスターも強くなっていて、階段を見つけるのに時間がかかってしまった。」


「3層から下は進めないので、3層では階段を探さなくていいのは嬉しいですね。」


「あぁ。ここからはモンスターとの戦闘と宝箱探しに専念できる。」


 階段を下り、3層に降りるとそこには例のごとくたくさんの生徒がたむろしていた。


「おい、誰か回復薬を持っていないか!? こいつのHPが危ないんだ!」


「お、おいもう無理だって。おとなしく転移装置で帰ろうよ。」


 そこでは多くの生徒がうなだれていたり、意気消沈といった様子だったり、怪我をして動けなくなっていた。回復薬を求めて声を張り上げる生徒の足元には、ぐてっとして動かない生徒。HPが少ないのかもしれない。


「あ、あれもしかしてタワーリシチじゃないか?」


「八英? 八英のタワーリシチが3層に来たのか?」


 おぉ有名人。しかし彼女は騒ぐ生徒達を一瞥すると無視して歩いていく。


「タワーリシチさん、あの回復薬渡してあげようよ。可哀想だよ。」


「なにを言っているんだ? あの回復薬は私がもらった物だ。どう使うかは私が決める。手放してなるものか。」


 なんでただの回復薬にこんなに固執してるんだこの人。


「さぁ、進もう。宝箱探しは任せたぞ。」


 タワーリシチさんはそう言って先行してしまう。あの人とはぐれると大変だから着いていくしかないか。はぁ、なんで八英ってなんかこう変な人ばっかりなんだろう。

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