第25話 たのしいダンジョン

 かくして5月27日は訪れた。今日という良き日には目覚まし時計など必要ない。自力で起きた俺はステータスを確認する。


 ■□■□

 定気 小優

 レベル1

 HP 112/112

 MP 40/40


 攻撃 44

 防御 68

 技術 36

 敏捷 12

 魔法 39

 精神 48


 スキル一覧

 ・上下左右

 ・切除



 戦闘力 254


 ☆邪悪ミッション

 ・略奪をしよう!


 ■□■□


 ステータスに関してはビックリするほど変化していない。うん、もういいもん。日々の筋トレ達はキチンと血肉になっていると信じよう。


 しかし邪悪ミッションが更新されている。略奪をしよう! か。略奪って具体的になにをすればいいんだ? まぁ邪悪ミッションに期限はないっぽいし気長にやるかぁ。


 ステータスと邪悪ミッションの確認を終えた後、俺は学校に登校した。今日は朝から校庭に集まれと言われていたので、教室には行かず校庭に直行した。そこには既に100人近い生徒が集まっていた。見たことのない人がほとんどだ。多分全員1年生なんだろうな。全員の名前覚えるの大変そー。


 しばらくするとセンコウ先生が来て列に並ぶよう指示した。乱雑に群れていた人々は徐々にそれぞれの組にまとまっていった。


 ホームルームの時間になると、校庭でバンキング学長のありがたーいお話を聞くことになった。もちろん内容などミジンコほども覚えていない。なんかダンジョンがどうたらこうたら言ってた気がする。


「では、これより転移装置を使って1組から無名のダンジョンに向かってもらいます。無名のダンジョンは学園が管理しているダンジョンなので危険は少ないですが、くれぐれも油断しないでください。」


 転移装置ってつくづく便利だよなーとか思っていたらいつの間にか暗い洞窟の中にいた。洞窟と言っても壁や床は整備されたかのように滑らかで、人工的に見える。


「はい皆さん、ここはダンジョンです。今からここを安全地帯とします。」


 センコウ先生はバックパックから魔除けの旗を取り出して地面に突き刺した。これで魔除けの旗付近にモンスターは近づけない。


「ダンジョンでは既に複数名の学園職員が徘徊しています。なにかあれば転移装置を使って帰還するか、職員を呼んでください。なお、安全性のため3層より下に潜ることは禁止とさせてもらいます。3層まではOKなので、それより下には絶対に行かないでください。」


 3層より下には行ったらいけないのか。まぁ深い層ほど出てくるモンスターは強くなるらしいし、当然っちゃ当然か。


「それと、できるだけ複数人で行動することをオススメします。冒険者の基本はパーティーを組むことから始まります。道中知らない人を見かけたら積極的に話しかけてコミュ力アップを図りましょう。では解散!」


 パーティーか。俺には無縁の話だぜ、クックック。というのも、クラスの仲は改善されても俺がパーティーを組めるほど仲のいい人はいない? え? クリーム女? 冗談キツイぜ。手柄全部取られるじゃん。


 というわけで俺は1人で行くことにした。孤高だ。まぁ無理そうならまた安全地帯に帰ってくればいいだけだし、適当に近所をブラついときますかね。


 最初は1組の見慣れた奴らが俺の近辺をウロウロしていたが、次第にそいつらは2層へと潜っていった。そして今度は顔も名前も知らない奴らがゾロゾロと現れた。多分、他の組の奴らだ。他の組とは直接的な交流がないから名前も知らないが、変な噂とかは聞かないので多分クラスの仲はいいんだろうなぁ。


 そういえば、他の組には八英っていうボス生徒みたいなのがいるんだっけ? 名前なんだったかな。あんま覚えてねぇけど、明らかに日本人離れした名前の奴が2人いたはず……。やっぱりそういう人らってクリーム女みたいな感じなのかな。だとしたらあんまり会いたくない……。


 俺は1層をブラブラ歩いていたが、モンスターとは遭遇しなかった。いや、遭遇するには遭遇するのだが、他の生徒と戦っている最中だったりする。横取りはよくないのでそういうモンスターには手を出さないのだが、そうすると戦えるモンスターがいないのだ。おまけにダンジョンの中に出現する宝箱も、ほとんど漁られている。


 俺は迷った。多分1層のモンスターは俺でも倒せる。しかしそれは他の生徒も同じで、1層はモンスターの需要と供給が追いついていない状態にある。だったら2層に降りればいい。しかし2層に降りればモンスターは強くなる。今の俺に2層のモンスターが倒せるかどうか……。


 迷った挙げ句、俺は2層に降りることにした。どっちみち1層にいてはモンスターとの戦闘なんてできないわけだし。なにより2層が無理そうならすぐに帰ってくればいいだけだし。


 2層へ続く階段は既に見つけていたのでそこを降りると、降りた先には複数のパーティーがたむろしていた。彼らの中には怪我をした人もいる。今後の作戦やパーティーメンバーの編成について話し合いをしているようだ。


 俺は静かーに彼らの横を通りすぎ、2層へと降り立った。やはり1層とは空気が違う。リュックから水筒を取り出して一口水を飲み、俺は歩き出した。2層では1層と違い、土のような臭いがしている。歩く度に足音が僅かに反響し、不気味な雰囲気を演出している。


「ギギ……。」


 曲がり角からモンスターが現れた。体長1.5m、体型痩せ形。こいつの名前はレッサーオートマタ。機械のように見えるがれっきとした生物で、全身を金属質の皮膚で覆っていることが特徴だ。顔はデスマスクのような容貌で、主に手足を使って攻撃を仕掛けてくるモンスターである。


「1体だけか。まずはお手並み拝見といこう。」


 俺はレッサーオートマタに向かって走り出す。まずはその細い首筋に向かって剣を振るった。が、レッサーオートマタはバックステップで回避し、鋭利な手を突き出してきた。


 俺は体をねじって避け、その腕を掴む。


「〈上下左右・上〉!」


 すぐさまその場から離れ、地面に手を触れる。


「〈切除〉!」


 レッサーオートマタの足元が切除され隆起する。その衝撃で一瞬自由落下状態になったレッサーオートマタは、ダンジョンの天井に叩きつけられた。


「ギギ……。」


「〈上下左右〉解除!」


〈上下左右〉の付与は直接触れる必要があるが、解除は触れる必要がない。俺はレッサーオートマタの〈上〉を解除し、その落下地点まで潜り込んだ。レッサーオートマタは重力に従い落ちてくる。そして地面にぶつかるその瞬間、俺は剣を振り抜いてレッサーオートマタに強力な一撃を浴びせた。


「しゃおら! 勝ったろこれ!」


 レッサーオートマタはダンジョンの壁に叩きつけられる。が……すぐに動き出した。


「ギギ……。」


「マジかよ。」


 どうやら俺の実力では2層は難しいらしい。今の攻撃が俺にできる最大の攻撃だった。それで倒せないならもう無理だ。あるいは剣で斬っていけば勝てるか? いや、レッサーオートマタの攻撃力は俺の防御力を軽く凌駕しているため、持久戦になると辛いのは俺の方だ。


「逃げ……か。」


「ギギ……。」


 俺は踵を返して走り出した。後ろからレッサーオートマタが追いかけてくる!

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