第2章 ダンジョン体験編
第24話 強くなった定気
5月も後半に差し掛かってきたある日、朝のホームルームでセンコウ先生からこんな話をされた。
「君達、ダンジョン講義は真面目に受けているかい?」
ダンジョン講義というのはこの学園の必修授業で、戦闘実技とか格闘術基礎みたいなもんだ。こういう授業は他にもあって、選択授業ではもっと多くのことを学べる。
ダンジョン講義はダンジョンについてのことを学ぶ授業だ。冒険者はダンジョンに潜って生活することがほとんどなので、まさに必修科目と言えるだろう。
「ダンジョン講義ではダンジョン内のことを多く学ぶ。歴史的なダンジョンの名前も、いくつかテストに出てくるため覚えている者も多いだろう。しかし百聞は一見に如かずということわざもあるくらいだ。君達はまだダンジョンについてほとんど何も知らないと言っていい。」
センコウ先生はニヤリと笑った。
「実は1年生の1組から6組までの全てのクラスが合同で、学園の管理しているダンジョンに潜る許可が下りてね。つまり、来る5月27日、ダンジョン体験会がある。」
クラス中が沸いた。なぜならダンジョンというのは学生や一般人がそうそう入れるものではないからだ。加えて、ダンジョンで手に入るアイテムは高価で取引される。万年金欠の学生にとっては一攫千金のチャンスなのだ。
「ダンジョンに潜るというのは危険な行為だ。いくら学園が管理しているとはいえ、ダンジョン体験会では毎年怪我人が出ている。浮かれず準備を怠らず、来週の体験会に備えてほしい。では、私はこの辺で。」
魔王襲撃事件から約2週間。クラスには劇的な変化が起きていた。
「ダンジョン体験会だってよ。どうするよ紅。」
「ワイ将はもちろん、ダンジョンに眠る財宝を掴むために駆け出すで! 今日から訓練場通いや!」
そう、あれだけわだかまりがあったクラスが1つにまとまったのだ。今のクラスには形式的にこそ1軍、2軍、3軍の分類が残っているものの、もはやそれらの垣根を越えた交流は珍しいことではない。以前に比べて皆の雰囲気も柔らかい。
しかし、全てがよくなったわけではない。羽山が不登校になった。あれから一度も学校に来ていない。メアリー婦人は時間が解決するだろうと言っていたけど、やはり心配だ。気を病んでいないといいけど。
「ダンジョン体験会だってさ。」
それから変わったことと言えばこいつ。クリーム女と交流するようになった。元々席隣だったし、なにかと話す機会はあったのだが、あの件以降積極的に話しかけてくれるようになった。
「興味はある?」
「もちろんだ。俺だって冒険者のタマゴだからな。」
「そんなに弱いのに?」
おのれクリーム女め。所詮Bランク冒険者程度の力しか持っていないくせに! ムキィー!
「意外だね。定気くんは自分の無力さにうちひしがれて全てを諦めてると思ってた。」
あの、あなた俺が毎日訓練場に通ってること知ってますよね? あのバカげた筋トレを見てそれを言ってるんですか?
「ふふっ、小粋なジョークだよ。」
「小生意気なジョークの間違いでは?」
とはいえ、俺が弱いことは事実だ。俺はもっと強くならなくちゃいけない。そのためにダンジョンに潜って経験値を稼ぐんだ! 大魔王デスミナゴロスにもレベリングは大事だよって言われたからな!
しかし、やはり基礎を固めなければ何事も始まらない。そうだろう? そうなのだよ。
というわけで俺は授業が終わると訓練場に来ていた。筋トレを済ませ、擬似戦闘場に向かう。
擬似戦闘場ではVRにより仮想敵を出現させて戦闘を行う。仮想敵の強さはタブレット端末で調整できる優れものだ。俺は早速、Cランクモンスタークラスの仮想敵を出現させる。
ブゥンという空間が揺れる音と共に、身長120cmくらいの甲冑が現れた。こいつはナイトと呼ばれる仮想敵で、比較的に人間に近い形をしているため対人訓練にも使える。
ナイトは全身を鎧で覆い、ショートソードを携えている。対する俺は素手……ではなく、俺の手にも木刀ほどの大きさのショートソードが握られていた。もちろん真剣だ。
「さて、やるか。」
タブレット端末を操作するとナイトが戦闘体勢を取る。
俺はナイトに向かって走り出す。まずはナイトの頭部に向かって剣を振り下ろした。が、ナイトのショートソードにより弾かれる。ナイトはカウンターを仕掛けようと一歩踏み込んできたが、一瞬早く俺はしゃがみこんで床に触れていた。
「〈切除〉」
ナイトの立っていた床が四角に切られ、ナイトごと浮いた。思わずナイトも姿勢を崩す。
そこに向かって俺は剣を横に薙ぐ。ナイトに当たり、その威力でナイトが転倒する。その隙を見て俺はナイトの足に触れた。
「〈上下左右・右〉」
ナイトは転んだまま俺にショートソードを振るうが、間一髪当たらない。俺は少し距離を取ると再び床に〈切除〉を使用した。
ナイトは再び隆起した床に浮かされる。しかし先ほどとは違い、今度は右側の壁に叩きつけられた。もちろん俺はそうなることが分かっていたので、〈切除〉を使用した瞬間に右側に走っていた。壁に叩きつけられたナイトの隙を見逃さず、力いっぱい剣を振り抜く。
剣はナイトの頭部を捉え、鈍い音が鳴った。ナイトはその場に倒れて動かない。つまり、俺の勝ちだ。
これが今の俺の戦い方だ。〈上下左右〉を付与し〈切除〉で浮かせて敵の転倒を誘い、隙を見て強力な一撃を叩き込む。素手では出せるダメージにも限界があるので、剣を買って練習し始めた。まだまだ型もヘッタクレもないが、確実に強くなっている。事実、俺は1人でCランクモンスターを倒した。まぁCランクモンスターの中でも最下級クラスだが。
ダンジョン体験会まで時間はそんなにない。筋トレと訓練をいつもより多くこなし、早く実力をつけなくては。邪悪ミッションも更新されないし、今俺にできることはこれしかない。
待ってろよダンジョン。よし、今のをもう10回だ!
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