第23話 新たなスキル

「というわけで聞いてたかおんどりゃ大魔王デスミナゴロスさんよぉ!?」


 取り調べが終わった後、俺は寮に戻って大魔王デスミナゴロスに向けて怒鳴っていた。ちなみに寮は防音バッチリなのでどれだけ騒いでも大丈夫である。


「さっきからなに黙り決めこんどんねんワレェ! なんとか言わんかいカスゥ!」


 しかし大魔王デスミナゴロスはうんともすんとも言わない。黙秘権を使うようだ。


「こちとら勇者呼べんねんぞコラァ! 誠意見せんかい!」


「ふむ、矮小なる人間よ、なにをやっておるのだ?」


 なんと、開けておいた窓から大魔王デスミナゴロス(虫)が入ってきた。こいついつの間に俺の外へ?


「ハッ、そうか。俺が気絶している間に逃げていたのだな!」


「逃げていたとは人聞きの悪い……ゲェップ。我は少々所用で出かけていただけだ。」


 人の腹は家じゃねぇんですのよ大魔王さん。


「して、我になんの用だ?」


「誤魔化しても無駄だぞ! お前、死の厄災を司る魔王なんだってな?」


「…………知らんな。」


「嘘じゃん! ぜーったい嘘じゃん! 知ってる間じゃんそれは!」


「えぇい、知らん! 我厄災とか知らんし!」


「嘘だ! 死の厄災だぜ。お前の名前デスミナゴロスじゃん! どっからどう読んでも死を司っちゃってるじゃん!」


「たまたま、偶然だ!」


「ふざけるな、そんな偶然あるか! お前も俺を操って世界を破滅させようとしてるんだろ!」


「そ、そ、そんなことしようとか、お、思ってないんですけどォ!?」


 なんだこの大魔王。分かりやすすぎる。


「しらばっくれる気だな。勇者呼んじゃおっかなー?」


「それだけはやめてくださいなんでもしますから。」


「ん? 今なんでもするって言った?」


「い、言ってない! 聞き間違いだ!」


「あもしもし安倍さーん、ちょっと魔王がいてぇ。」


「やめてぇ、許して、殺さないで! 許してください!」


 クリーム女に電話をかけるふりをするだけで大魔王は地べたに頭を擦りつけた。恐るべし、クリーム女の魔力!


「言っとくけど、お前のことなんていつでも殺せるんだからな。勇者は俺の腹の中だけを正確に攻撃することもできる。」


「な、なんだと!? あの勇者がそこまで成長していたとは……。」


「ん? あの勇者? あれれ、おっかしいなー。そういえば君ってなんでこの世界の勇者知ってるのー? 異界の勇者に倒されたんじゃなかったっけー?」


「そ、それは、あ、えと、PTSDだ! 異界の勇者に討たれたせいで勇者と聞くとPTSDを起こすのだ!」


 へー、ふーん、ほんとかなー? 嘘ついてんじゃないのー?


「と、とにかく、この話はこれで終わり! おしまい! 勇者なんてどうでもいいだろう!」


「あれ? なんで君が話の主導権握ってるの? あー勇者呼びたくなってきたなー。」


「申し訳ございませんでした許してください。」


 ドゥワーハハハハハハハ! 虎の威を借るって楽しいなぁ!


「じゃ、とりあえずキモい虫がいつまでも視界にいるのは耐えられないからさっさと腹の中潜ってくれる?」


「は、はい。参らせていただきます。」


「いいよ来いよ。」


 俺の口目掛けて大魔王は飛び込んできた。なんだかもう慣れてきたなぁ、この感覚にも。


「というわけで矮小なる人間よ。邪悪ミッションを達成したことで邪悪ポイントが増えておるぞ。」


「邪悪ミッション? 俺なんかやったっけ?」


「あぁ。あの羽山とかいう女に暴力を振るったではないか。」


 あれ暴力判定になるんだ。まぁスキルで叩きつけたと考えると暴力か。


「というわけで新しいスキルを解放してやろう。」


 まじかやったー。って痛い痛い痛い痛い、そういえば潜在能力の解放って痛みが伴うんだっけ。クッソ、なんだこの痛みは。腹の中を寄生虫にぶっ刺されてるようだ。


「む、上手くいかぬな。あれをこうして、そこをこうして……。」


「上手くいかないことなんかあるの!? ちょっとなるはやでお願いできませんかね!?」


 数分間後、俺はようやく苦痛から解放された。脂汗をにじませながらステータスを確認する。


 ■□■□

 定気 小優

 レベル1

 HP 112/112

 MP 40/40


 攻撃 44

 防御 68

 技術 36

 敏捷 12

 魔法 39

 精神 48


 スキル一覧

 ・上下左右

 ・切除



 戦闘力 254

 ■□■□


「なんだこれはたまげたなぁ。」


 ステータスが爆伸びしてるんですが。これあれか。HPが0になったから超回復により潜在能力が解放されちゃったヤツか。いやぁ嬉しいね。戦闘力も3桁乗っちゃったよ。これもう白市より強いんじゃね?


「しかし矮小なる人間よ、レベリングも大事だぞ。レベルこそが正義だ。レベルの低い人間は危機感を持った方がいい。」


「んなこと言われても上がらねぇもんは上がらねぇんだもん。仕方ないよねー。とりあえず潜在能力の解放は任せたぜぃ。」


「まったく、大魔王使いの荒い……。」


 とりあえず新しいスキルの詳細を確認しますかねぇ。


 ■□■□

 スキル

 ・切除

 触れた物体を切除する。生物には効果を発揮しない。

 消費MP4

 ■□■□


 効果はそのまんまか。とりあえず近くにありそうな物で実験してみようかな。ただ生物には使えないのか。残念、メインウェポンになりそうな予感がしたのに。


 とりあえず俺は冷蔵庫にあった人参を取り出した。


「〈切除〉ォ!」


 しかし何も起こらない。もしかして人参くん生物判定受けてます?


「だったら牛肉だ! 死んでるし行けるだろ。〈切除〉ォ!」


 しかし何も起こらない。いや死んどるやん! 死体もダメなの?


「し、仕方ない。だったらこれでいいか。」


 俺はプラスチックのコップを取り出し、〈切除〉を使ってみる。するとコップはパキンと音を立てて切れた。どうやら効果は俺の想像通りのようだ。


「でもこれ、生物ってより有機物には使えないって説明の方が合ってないか?」


 その後、俺は訓練場に向かい、新たなスキルの練習を行うのだった。

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