第21話 取り調べ

 こうして魔王ミナキリキザムの事件は幕を閉じた。俺は保健室で目覚め、あれから何があったのかをメアリー婦人から聞いた。


 まず、戦闘実技の授業は中止。1年1組の全員が強制帰宅となり、学園側は今回の事件の調査を行ったそうだ。しかし魔王の痕跡は発見できなかったらしい。


 1年1組の生徒、羽山 風舞が何者かに操られ同じ組の生徒に襲いかかった。それが翌日学園が発表した今回の事件の概要だ。つまり、今回の事件は羽山の責任ではないと学園は判断した。


 冒険者のタマゴである俺達は、常人とはかけ離れた力を持つ。ゆえに、俺達が暴力沙汰なんて起こそうものなら厳しい処罰が下るらしい。なにより羽山に殺意があったのは白市、砂原さんの証言によって確認されている。本来なら重いペナルティがあってもおかしくはなかった。しかし、実際に羽山から魔王が出てきたのを目撃されているので、羽山は魔王に精神を操られていたのだと学園は解釈したようだ。


 しかしここで食い違いが生じる。学園が生徒及びその保護者に向けた発表には、羽山 風舞は何者かに操られた、とされている。しかし学園側は羽山 風舞は魔王に操られたと認識している。このことから学園側は魔王の存在を知っており、それを世間に隠したいと思っているのではないか。俺はそういぶかしんだ。


「そういえば定気、お前この後取り調べがあるらしいぞ。」


「と、取り調べ?」


 起きてそうそう、メアリー婦人から取り調べなるものの説明を受けた。取り調べとは、冒険者ギルドが今回の事件について当事者から話を聞くことを指すらしい。なんで学園の中で起こった出来事に冒険者ギルドが首を突っ込んでくるのだろうか。


 とにかくいかなくてはならない。時刻は16時42分。俺は丸1日寝込んでいたらしい。理由は分からないそうだ。多分、日頃の疲れが溜まっていたからじゃないかと言われている。あんまり疲労を溜めた覚えはないけど。


「おー、小優も来たか。」


「し、白市!?」


 メアリー婦人に教えてもらった場所に向かう途中、白市とバッタリ遭遇した。というより目的地が同じっぽい。


 そして白市はなんと上半身と下半身がくっついていた!


「メアリー婦人が治してくれたんだ。スナの腕もだぜ。あの人すげぇよ。」


 ほへぇ、あの人すごいんだなぁ。


「お前も取り調べだろ? 場所分かるか? 1年1組教室だぜ。」


 1年1組は今日、臨時休校となっている。多分アイツら今頃家でゲームしてる。かぁーっ、羨ましい。


 俺達が1年1組の教室に入ると、そこには砂原さんとクリーム女もいた。イスに腰かけ、怪しい黒服の男と何かを話している。


「来たか。定気くんと白市くんだね。座りたまえ。」


 黒服の男の顔はサングラスでよく見えないが、多分40代くらいに見える。ガタイがよく、頭も回りそうな雰囲気だ。なにより威圧感がある。


「私は冒険者ギルドのエージェント。黒服と呼んでくれ。」


 あ、名前そのままなんですね。


「冒険者ギルドを代表して君達に聞きたいことがあってこの場を設けさせてもらった。先に言っておくがここで聞いた全ての話は他言無用で頼む。」


 ほう、守秘義務ですか。なんだかワクワクする響きですね。


「では単刀直入に言おう。君達は魔王と戦ったのかい?」


「あぁ。俺達が戦ったのは確かに魔王と名乗ってたぜ。名前はなんだったか……。」


「魔王ミナキリキザムと名乗っていました。」


「あぁ、そうそうそれ。」


 魔王ミナキリキザム。なんかどこかで聞いたことあるネーミングセンスの魔王だった。


「その魔王は安倍さんが倒したわけだね?」


「正確には違います。魔王には致命傷を与えましたが倒すことはできませんでした。」


 えっ、あれ倒せてないの!? どう見ても消し炭だったけど!?


「取り逃がしたということか……。」


 黒服さんの顔が曇る。取り逃がしたらまずかったのだろうか。いや普通にまずいわ。あんなのが町に出たら皆死んじゃうよ。


「つっても私ら学生だし仕方ないんじゃね? むしろ誰も死なずに帰ってこれたことが奇跡っしょ。」


「それは同意しよう。君達が魔王と戦い生還したのは奇跡だ。1人1人が最善を尽くし、運に恵まれた結果だ。あの場で全員が死んでもおかしくはなかった。」


 その言葉にクリーム女が反応した。


「私は負けない。もう1回戦っても勝てる。」


「強がりはよせ。勇者の称号は魔王への特効があるのは知っているが、あくまで特効だけだ。魔王から受けるダメージが軽減されたりはしない。君だって奴の攻撃に防御が間に合わなければ普通に死ぬ。」


 そうなんだ。というか魔王への特効ってなに? もしかして称号ってそんななんか加護みたいな効果あるの?


「おそらく魔王が姿を現したのは、勇者の称号が継承されていることを知らなかったためだろう。少なくとも、君達が見た魔王は本来の力を取り戻せていなかった。だが油断していたんだ。たかが学生に負けるはずがないとね。だから勇者の存在は魔王にとって誤算だった。」


「というか、そもそも魔王ってなんなんだ? 俺達、アイツから名前を聞くまで魔王なんて聞いたこともなかったぜ?」


「ふむ……。」


 黒服さんは顎に手を置いて悩ましげなポーズを取ったが、すぐに顔を上げた。


「いいだろう。魔王について教えてやる。だが、さっきも言ったがこのことは他言無用で頼むぞ。」

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