第6話 1ヶ月が経過した

 あれから1ヶ月が経過した。俺は1ヶ月間、毎日筋トレをし、ステータスアップ、ひいてはレベルアップを目指した。だが俺のステータスは全く変わらなかった。 


 しかし変わったこともある。それは素晴らしく劇的な変化であり、陰キャの俺には絶対できないだろうと思われたものの獲得だ。あぁ、つまり、友達ができた。


「朝から辛気臭ぇ顔してんなぁ。」


 登校中やたらと肩を組んでくるこの男。名前は白市しらいち 竜八たつや。そう、初日にクリーム女にブチ切れた、あの白市だ。


「おはよう白市。今日も朝から訓練場行ってたのか?」


「おうよ。放課後は色々忙しいからな。朝しか行けねぇんだ。」


 白市は陽キャだ。1軍男子だ。放課後はいっつもクラスの1軍男子や女子達とカラオケやらゲームセンターやらに行っているらしい。それどころか先輩達とも交流をしているらしく、既に複数の部活や委員会から声がかかっているらしい。なんというコミュ力。


「それで、定気はちょっとは強くなったのかよ?」


「いや全然。レベルも上がらないしスキルも生えない。ステータスだって1も上がってないよ。」


「カッハッハ。不遇だなぁ。ま、諦めるなや。あのクリーム女をブチのめすんだろ?」


 そう、クリーム女。あの女は初日の自己紹介でクラスの全員に向かって「うふふ、弱い人がいーっぱい! 私退屈しちゃいそうですわー!」みたいなことを言ったらしいのだ。白市から聞いた。んで、大阪最強の名を欲しいがままにしていた白市はそれを聞いてキレた。というところで俺が入ってきて、その後は俺が見た通りらしい。


「あの女、次の日から澄ました顔して登校してきやがったからな。ムカつくったらないぜ。」


 しかしクリーム女のおかげで俺は白市という陽キャに取り入ることができたのだ。ある日クリーム女のことを愚痴っていたら、それがたまたま白市の耳に入って意気投合。それからはずっと仲良くさせてもらっているって感じだ。


「センコウのせいで初日のことが学長の耳にも入っちまったらしくてよぉ。俺、次教室の中で暴れたらペナルティなんだとよ。」


 教室の外でなら暴れてもいいんだ……。


「しゃーないから大人しくしてやってるが、相変わらずクリーム女は何考えてるか読めねぇし、攻撃は当たらねぇしよぉ。」


 この1ヶ月の間、白市は何回かクリーム女に攻撃を仕掛けている。しかしその度にいなくなってしまうらしい。


「ありゃ多分瞬間移動のスキルだぜ。俺の攻撃を恐れてるんだな。最近は後ろからの不意打ちを意識してやってる。」


 白市はシュッシュッとシャドーボクシングをしてみせる。やる気マンマンだ。


「そういや、定気は最近学校どうよ。」  


「なんかお父さんみたいな話の振り方するね。」


「カッハッハ。俺ァまだそんなに貫禄出てねぇよ。」


 わりと出てると思いますが。 


「うーん、まぁぼちぼちかな。最初は若干除け者感強かったけど、白市のおかげで最近は安心して過ごせてるよ。」


 初日ではないのだが、最初の方で自分のレベルを公表する機会があった。その時、俺に向けられた眼差しのほとんどがよくない感情を含んでいた。あの瞬間、明らかにヘイトは俺に向いていたと思う。しかしその時、白市が言ってくれたんだ。


「人の価値はレベルで決まるもんじゃねぇ! って一蹴してくれたんだよな。あれがなかったら今頃は裏口入学者としていじめられていたよ。」


 まぁ、実際裏口入学なのだが。


「へへ、よせやい。別に、思ったことを言っただけだぜ。これから強くなっていけばいいだけだもんな。誰だって強くなりたいからこの学校に入ったんだ。だからこそ、弱い奴を嘲笑うなんて許せなかっただけだぜ。」


 俺は1ヶ月白市と過ごして分かったことがある。こいつはいいやつなのだ。光の陽キャなのだ。今なら分かる。白市がクリーム女に怒った理由は、自分のプライドが傷つけられたからではなく、クリーム女が弱い奴を侮辱したからだ。だから白市は怒ったんだ。 


「ま、とはいえ最近はクリーム女にも一定の支持者がいやがる。あんな女のどこがいいんだか分からんが、クラスの空気が悪くなってるのは事実だな。」


 そう、そうなのだ。現状1年1組のクラスの雰囲気は最悪の中の最悪なのだ。具体的にはいくつか派閥ができてしまい、それらが衝突している状態だ。


 まず、白市派閥がある。彼らは1軍と呼ばれ、基本コミュ強美男美女しかいない。しかもレベルも高めでわりと強い。まさに選ばれし者って感じの人間達だ。


 そして彼らに対抗するのが安倍派閥。彼らは2軍と呼ばれ、安倍派閥という名前だがクリーム女が率いているわけではない。ただクリーム女の熱狂的なファンがやっており、メンバーのほとんどが陰キャだ。中にはほどほどに陽の者もいるが。基本的に白市派閥に敵対的。ちなみに一番メンバーが多いのはここ。


 次に陰キャ派閥。彼らは3軍女子呼ばれる陰キャの集団だ。白市派閥と安倍派閥の戦いには介入しないが、陽キャ女子を視姦したり風呂に入らないまま学校に来たりと普通に悪行を重ねている。ちなみに担任のマッチョメンが一番警戒しているのは彼ららしい。


 さらに、安倍派閥とは別に安倍の派閥が存在する。ややこしいので俺達はクリーム女派閥と呼んでいる。文字通りクリーム女1人で構成された派閥であり、度々白市派閥と問題を起こす。具体的には、廊下を塞いで騒ぐ陽キャ達に対して、「どいてもらえる?」と声をかけてイライラさせたりしているらしい。専門家の俺から言わせてもらえば、これは正直陽キャ達の方が悪いと思う。


 そして最後の派閥。通称俺派閥。俺1人の派閥。基本的に他の全ての派閥から若干嫌われている。1軍からは「定気はなんか、ねぇ?」と言われ、2軍からは「白市のオキニだからって調子乗ってね?」と言われ、3軍からは「裏切り者ォォォ!」と言われる始末。ちなみにクリーム女とは毎日訓練場で顔を合わせ、その度に「まだいたの?」「いつまでやるの?」「帰った方がいいよ?」と言われる。言葉の全てが煽りに聞こえるのは俺の心が汚いからか? いや、そんなはずはない! そんなはずはないはずだ。ないはずだよな……?


「そういや、今日の1時間目って格闘術基礎だよな。体育館でやるらしいぜ。俺ずっとこれやりたかったんだよなぁ。」


 瞳をキラキラさせる白市。さすが陽キャ。体を動かすことが好きなんだろうな。

 

「授業ならクリーム女をブチのめせるからな!」


 あ、そっちですか。

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