第4話 めっちゃ最悪な初日
入学式の後は旧校舎にある1年生の教室に向かうはずだ。幸い、ここは旧校舎の壁沿い。少し回って玄関に行けばすぐに教室に入れるはずだ。
学園から送られてきた書類によると、俺は1年1組の所属らしい。組は全部で6組まであるらしく、その全ての教室は旧校舎にある。何より、1年生が授業で使う教室は体育館を除けば全て旧校舎にある。学年で完全に校舎が分けられているため、怖い上級生に会う心配はない。この点だけは評価に値する。まぁ、とりあえず1組の教室まで向かおう。
旧校舎に入るが、人影すらなかった。靴箱には他の学生の靴がキレイに並んでいる。どうやら同級生達は既に教室に入ってしまっているようだった。
俺は靴を履き替えると、恐る恐る教室へ忍び寄った。入学初日から遅刻なんて、目立つに決まっている。もし俺みたいな陰キャが目立ってしまえばそれはいじめのターゲットになることと同義である。ここはなるべく、静かに、荒波を立てないように行こう。幸い1組の教室は一番手前にあるため、他の組の教室を横切る必要はない。
俺はこっそり窓から教室の中を覗こうかと思ったが、もしそんなところを目撃されると逆に気まずい。ここは正々堂々、扉をスパーンと開け、誠意を込めて謝罪しよう。
教室からは人の気配を感じる。俺は1組教室の扉を手をかけると、少しずつ扉を開けた。
そこにあったのは、なんとも言えない空気だった。冷えきった空気、と言えば分かるだろうか。もちろん、スキルで物理的に冷えているわけではなく、なんというか、その、「あ、これまずいヤツっすかねー……。」みたいな空気だ。
「おや? 君は……。」
最初に俺に気づいたのは担任の先生と思わしきムキムキマッチョメンだった。上裸というわけではなく、スーツの上からでも分かるほど筋肉が付いていたのだ。
「1年1組、定気 小優です。すみません、遅刻しました。」
俺は深く頭を下げる。それはもう深く。最敬礼だ。腰が痛くなるまで下げる。
「おぉ、定気くんか。いなかったから心配だったんだ。ただの遅刻だったならよかった。ほら、席に座りたまえ。」
マッチョメンは笑顔でそう言った。なんて優しいんだ。彼の指した先には空いた机があった。しかし空いた机は2つある。片方は教科書らしき物が山積みになっており、もう片方には何もない。周りの人が座っている机の上には教科書類は置いていないようなので、おそらく教科書が置かれている机が俺の席なのだろう。だとしたら隣の人はいったい……?
「さて、これでようやく1組の新入生全員が揃ったな。トップバッターの
マッチョメンはどこかぎこちない笑顔で話を進めようとする。しかしそれに待ったをかける生徒がいた。
「おい、話はまだ終わってねぇぞ。」
教室中央、背の高いイケメン男子が機嫌の悪そうな顔で声を荒げた。
「誰が弱いって? もういっぺん言ってみやがれ。」
「あなた達、すごく弱い。そう言ったよ?」
マッチョメンの影に隠れていて見えなかったが、教壇にはもう1人生徒が立っていた。そう、あのクリーム色の髪を腰まで伸ばした女。通称クリーム女だ。
「おいおい、ヤバいって。アイツ
「白市さんって、大阪最強中学生って呼ばれてたあの白市さんだよな。そんな人と同じクラスなのかよ。」
辺りのどよめきは白市とやらの蹴りで飛ばされた机が音を立ててかき消してしまった。
「おぅ……、暴力はよくないよ。ここは落ち着いて。」
「ウルセェ、センコウ。俺を舐めたヤツは女だろうと容赦はしないってぇ決めてんだ。」
白市はぬらりと立ち上がると、驚きの速さでクリーム女に壁ドンした。いや、壁ドンというより壁ドバァンだ。拳が黒板にめり込んでいる。
「もういっぺんだ。もういっぺんだけチャンスをやる。これが最後のチャンスだ。誰が、弱いってェッ!?」
周囲に紫電が走る。これはスキルだ。白市とかいう男、めちゃくちゃカッコいいスキルを持っている。羨ましい。
「諦めて。すごく弱いあなたでは私には勝てな……。」
白市の目が血走り、クリーム女を破壊せんと紫電を放った。黒板とその一帯を黒焦げにする。他の生徒達は悲鳴をあげた。しかし肝心のクリーム女の姿はない。
「いい加減にしたまえよ、白市くん。これ以上の行為を教室でやるのは私が許さない。」
教室の外ならいいんですか……?
「ウルセェ! あの女はどこ行った!」
白市は辺りを見渡すが、クリーム女の姿はどこにもない。
「い、いないぞ。」
「逃げたのか……?」
再び生徒達が騒ぎ始めるも、マッチョメンがそれを制した。
「皆さんお静かに。失踪した安倍さんのことは我々がなんとかします。白市くんはこの後職員室に来なさい。はぁ、なんだって初日からこんなことに……。」
こうして1年1組にとって最悪な初日は幕を閉じた。あ、もちろん俺の自己紹介は無難に冷静に切り抜けたよ。心臓バクバクだったけどね。
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