第2話 何が起こったのか

 俺を拾ったのはバンキングという男だった。彼は東京の高校で学長を務めているらしい。


「君は本当に幸運だ。たまたま村の崩落事故から免れることができたのだから。」


 バンキング学長は病院のベッドに寝ている俺に、何があったのかを教えてくれた。


「あれは崩落事故だったんですか?」


「ああ。あの辺りは地盤が弱かったらしい。」


 俺は納得できなかった。だがバンキング学長はそれ以上のことを教えてくれなかった。


「俺の両親は死んだのですか。」


「おそらくな。遺体は発見されていないが……。」


 バンキング学長は言葉を濁した。


「俺はこれからどうすればいいんですか?」


「私の学園に来るといい。本来は名だたる天才しか入れぬ冒険者育成学校だ。だが安心しなさい。君には才能がある。きっと上手くいく。」


「あなたは俺のことを知らない。俺はレベル1なんですよ。」


「知っているさ。生まれた時からレベル1なんだろう?」


 バンキング学長の瞳にはからかうような意思は含まれていなかった。俺を本気で天才だと思ってくれているのか?


「辺境の村に生まれた異端児、定気じょうげ 小優さゆう。誕生日は4月1日。生まれた時からレベルが1であり、今後の成長でさらにレベルを上げる可能性がある。14年前、私に元に届いたレポートにはそう書いてあったよ。」


 俺はバンキング学長の言葉に対して首を横に振り、ステータスを開いて彼に見せる。


 ■□■□

 定気 小優

 レベル1

 HP 16/16

 MP 8/8


 攻撃 2

 防御 3

 技術 1

 敏捷 1

 魔法 1

 精神 1


 スキル一覧



 戦闘力 6

 ■□■□


「レベルは上がっていないようだね。スキルは1つも持っていないのか。」


「見てもらった通りですよ。俺は天才でもなんでもない。残念ですが、あなたの学園には行けません。」


「ふむ、確かに君のステータスは貧弱だ。しかし見たまえ。防御は3もあるじゃないか。これは君が努力した証拠に他ならない。」


「レベルが上がればステータスは上がるものです。それは俺がレベル1になった時に勝手に上がっただけですよ。」


「違う。違うぞ、小優少年よ。レベルが上がってもステータスが上がるとは限らない。ステータスは努力によって上がるものだ。この数値は間違いなく努力によって上がった数値だよ。」


 バンキング学長はそう言うが、俺は知っている。ステータスの上がり方には2種類ある。1つはレベルの上昇によって自然に上がるもの。もう1つは努力によって上がるものだ。学長は俺の知識を見くびり、おだててその気にさせようとしているだけだ。俺のステータスは所詮、レベルによって上がっただけ。そうだ、当たり前だ。俺は生まれてこの方、努力なんてしたことがない。


「私の学園では来る4月1日に入学式を執り行う。既に入学試験は終わった後だが、君が望むなら無理矢理席をこじ開けよう。学費は全額免除するし、寮に部屋だって用意する。悪い話じゃないはずだ。」


「確かに悪い話じゃないです。むしろ、おいしすぎる。そんなおいしい話、あるわけないじゃないですか。学長も何か企んでいるんでしょう?」


「はは、私が何か企んでいるように見えるかね? 見えるかもしれんな。」


 無精髭を撫でながら、思案顔を浮かべる。何を考えているのかさっぱり分からない。


「おいしい話は安易に受けるべきではないだろう。だがね、小優少年。君という生徒を学園に引き入れることができれば、我々にもメリットがあるのだよ?」


「メリット? こんな陰気で臭い、捻れて歪んだ顔を持つ、陰湿加湿陰険邪険な俺を学園に入れることに何のメリットが?」


「私は君の話題性を買っている。生まれた時からレベル1の天才。そのバリューがあれば、君に憧れて学園に入ってくる人もいるかもしれない。今はどの学校も生徒を取り合っている状況だ。少しでも宣伝できる要素が、我々も欲しいのだよ。」


「でも実際は15歳になってもレベル1の底辺ですよ? 景品表示法違反じゃないですか。」


「面白いジョークだ。我々は何の嘘も言っていない。生まれた時にレベル1だった、という事実を提示しているだけ。勝手に勘違いしたのは生徒側だ。責任は学園にはない。」


 ゲスい。それが大人のやり方か。なんと悪辣。


「ま、それ以外にも色々理由はあるがね。それでどうする少年。私の手を取り入学するか、それとも路頭で野垂れ死ぬか。」


 そう言われてしまうと俺に選択肢はない。俺だって死ぬのは嫌だ。このまま人生を終えるのは嫌だ。もっと強くなりたい。もっとチヤホヤされたい。もっとおいしい物を食べて、もっと楽しいことをしたい。何より……もっと、天才と呼ばれたい。


「入ります。」


「素晴らしい。君の決断に感謝しよう。必要な書類はまた持ってくる。とりあえずは歓迎の挨拶をしようか。ようこそ、私立学園ギラへ。今日から君は私の生徒だ。」


 こうして俺は、バンキング学長の学園、ギラへ入学することになった。多分、学長は俺に隠し事がある。それは俺の村に関係することなんだろう。だけど今は俺の村が消えた原因も、学長の隠し事も分からない。今の俺にできることは、強くなることだけだ。そしていつか絶対に、学長から俺の村の話を聞いてやる。

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