悪いことをして成り上がろう! ~邪悪ミッション片手に学園で青春謳歌~
ALT・オイラにソース・Aksya
第1章 入学編
第1話 選ばれしレベル1
俺は選ばれし人間だと思っていた。
生まれた時からレベルが1だった。これはすごいことだ。前代未聞だ。普通赤ん坊はレベル0で生まれる。なのに俺はレベル1で生まれた。歴史上でも類を見ない、異例中の異例。当然俺は幼少期を持て囃されて過ごした。
小学生の頃、俺は陽キャだったと思う。だってレベル1で生まれた神童だ。周りの子はみーんなレベル0。俺だけがレベル1。まさにヒーロー、英雄みたいな扱いだった。だけど、それも長くは続かなかった。
人は平均して10歳になるとレベル1になる。これは世界の常識だ。つまり、俺の栄華は小4にして終わったのだ。周りの皆のレベルが上がっていき、自分と同じステージに並ばれる。今まで見下していた相手が急に同等の存在になる。なにより、自分が天才から凡才へ格下げされる。
昔の俺は、多分皆がレベル1になる頃には、レベル2になれるだろうと思っていた。レベル2になればもう成人したも同然だ。レベル2になったら村から出て、都市部で冒険者をやろうと思っていた。
だが、俺のレベルは上がらなかった。
俺のいた村は狭いから、中学に上がってもほとんど面子は変わらなかった。だけど俺は確実に変わっていった。レベルという優位性を失った俺は、根暗に、卑屈に、気弱になっていった。
「なんか最近変わったよな、お前。」
いつからだろうか。俺はクラスの中心から外れた。1軍から2軍になったのだ。女子からは話しかけられる回数が減り、男子からは遊びに誘われることがなくなった。
「あいつ、昔は天才って呼ばれてたらしいぜ。」
「昔の話でしょ。今はほら、見てよあの顔。カビでも生えてるみたい。」
2軍の奴らからも相手にされなくなった。それから、俺にとっての地獄が始まった。いじめだ。俺は元天才の烙印を押され、「なんか調子乗ってそう。」という理由でいじめられた。なにより辛かったのは、そのせいで俺の家族が村人からも嫌悪されるようになったことだった。
「レベル1で生まれたって神童の噂、最近聞かないわね。」
「あら奥様、知らないの? その神童ならとっくに凡人に成り下がっちゃったのよ。」
「あぁ、あの小僧のことか。最近いたずらばかりしているらしいな。この前も俺の子供に暴力を振るったとか。」
違う、そうじゃないという弁明は誰にも聞き入れてもらえない。俺は所詮レベル1だ。レベル1のガキの話なんて、まともに取り合ってはもらえない。
「大丈夫だ。お前のせいじゃない。」
「私達はあなたを守るわ。」
父と母だけが、俺にとっての希望だった。2人さえいれば何もいらなかった。そうだ。そうだったんだ。俺にとって、2人さえいれば……。2人さえ、いれば……。
その悲劇は、俺がたまたま村の外に出て買い物をしていた時に起こった。
「俺の村はどうなったんですか?」
「……奇妙なお坊ちゃんだ。なぜそんなことは私に?」
俺が村に帰ってきた時、そこにあったはずの村はなくなっていた。代わりに知らない男が佇んでいる。俺よりずっと背が高くて、俺よりずっと強そうな男だった。黒いローブで全貌を隠しており、背中しか見えない。
「俺の村はどうなったんですか?」
「質問の仕方がよくなかったかな。私がそんなことを知っていると思うのかい?」
村のあった場所には大穴が空いていた。光を呑み込まんとするような、そんな大穴。底が見えないほど深く、とても巨大だ。
「君は私がたまたまここにいたから私が村の行方を知っているんじゃないかと思っているのだろうが、それは大きな間違いさ。それに、村がどうなったかはなんとなく察しがついてるんじゃないのかな?」
男は俺に背中を向けたまま答えた。俺のことなど歯牙にもかけぬといった態度だった。
「しかし、君は天才というヤツなのだろうね。レベルはいくつだい?」
「1だ。」
男は背中を向けたまま、少し揺らめいたように見えた。
「1か。」
「1だ。」
「君の村は私が破壊したと言ったらどうする?」
「殺す。」
「レベル1の分際で?」
それからのことはよく覚えていない。その男は、俺の方を振り返ったのだと思う。だけど記憶があやふやで、どんな顔だったのかは全く覚えていない。だけど、次に目を覚ました時に最初に聞いた言葉を俺ははっきり覚えている。
「君は運がいいな。」
俺を覗き込む、無精髭を生やした中年。それが、俺と学長の初めての出会いだった。
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