第20話商人とのいざこざ


午後の狩りが中止になり、解体場で留守番となった伊織は牛若丸と解体の見学をしていた。



「前世で肉が魔と教えられ食べてなかったからか死体を捌く解体作業もなかなかくるものがあるな。」

伊織は解体作業にわずかな忌避感を覚えながら見ていた。



「狩りはいいのに解体が駄目なんて変だよ。僕は最初狩りの方が命を奪う感覚があって気持ち悪くて吐いてたもん。」

牛若丸は伊織の言葉に疑問をもつ。



「確かにのぉそう言われれば食べる為に必要な解体の方が平気なハズなんじゃろうが、前世で幼い頃から度々命を習われて曲者を始末してきたから命を奪う行為は自分の命を守る行為だと感覚が麻痺しておるのかもしれんわ。」

牛若丸と話しながら自分の感覚が変わっていると認識する伊織。



「そんなもんなのかー、まあ狩りに忌避感がないなら解体もその内慣れるでしょ。」



牛若丸と伊織がそんな話しをしていると商人の格好をした男とその護衛達が近づいてきた。



「小早川屋さんオーク退治ありがとうございました。私達が森に霊薬の採取に行っていた為に主だった護衛が一緒に森へと入っておりました。残っているメンバーで戦いが続いていたら犠牲が出てたかもしれません。」

商人がそう切り出す



「私達見習いも避難していて師匠である鬼一が退治したので師匠に伝えておきますね。」

牛若丸は商人にそう返事する。



「ありがとうございます。ところで鬼一殿は?」



「先生は毛利の兵士様に請われて森でオークの残党がいないかの見回りに行ってます。」



「そうですか。さすがは鬼一殿。それでなんですが、討伐したオークの睾丸を譲ってはいただけないでしょうか?討伐者である小早川屋さんの所有にあると思いますので。」



「魔人種の魔石じゃなく睾丸をですか?んー申し訳ないですが、師匠が帰ったら直接確認してもらってもいいですか?」



「申し訳ない、私達も急いでるのでもう出ないと行けないんです。この金額でどうですか?」

商人は銀貨5枚を手に並べる。

「お金にならない物をこの金額で売ったとなると鬼一殿から褒められると思いますよ。」



「師匠から褒めてもらえる………」

牛若丸の気持ちが少し揺れる



「えぇえぇ!間違いなく!なんならこの堺の名匠が作った短刀もあなたにプレゼントします。」




「やめよ。」

今まで黙って聞いていた伊織が二人の会話を止める。



「は?何か気に触りましたかな?あぁ!あなたにも同じ短刀をプレゼントさせてもらいますよ!」




「そんなな、まくらなど要らぬわ。近づいてきた時から騙す気満々であっただろう。お前からは懐かしい悪人の匂いがプンプンする。それに後ろのお供達はニヤつきを隠せておらんぞ。」




「言い掛かりでございます!私達は感謝の気持ちを込めてこの提案をさせていただいているのです。」



「感謝の気持ちなら睾丸なんか求めず謝礼を払えばよかろう。それと短刀が堺の名匠だと言ったな?誰の作品なんじゃ??」



「うっそれは……短刀は正宗に連なるものでございます。」



「正宗??正宗の作品には美しい波紋があるはずなんだがその作品には波紋がない。どういうことじゃ?」



「うっ……」




「さっきから聞いていたらごちゃごちゃいちゃもんをつけやがって痛い目みたくなかったら睾丸を譲ればいいんだよ!!」

商人の護衛が突っかかってくる。



「やっぱり詐欺師の一行のようだな。そちらこそ痛い目見たくなかったら消えよ。」



「なんだと!?ぶっ飛ばしたてやる!!」

商人の護衛がそのまま殴りかかってくる。

すると牛若丸が前に出ると護衛の攻撃を避けて胸をおもいっきり押す


ごっ

鈍い音がしたと思ったら護衛は10メートルほど飛ぶ。

ずどーん



「騙すなんてひどい!!」

牛若丸は口を膨らませて敵を吹き飛ばした。



「…………さて、次のやつ出てこい。」

伊織は敵を見据えて煽る。



「「「「ヒッ」」」」

「「「「すみませんでしたー!!!」」」」


仲間が吹き飛ばされたのを見てビビったら商人と護衛は消えていった。



「なんじゃやらんのか。牛若丸に横取りされてしまったわい。」



「だってヒドイんだもん。」

牛若丸はまだ怒りがおさまらないようだ。



「しかし、身体強化使ったじゃろう?鬼一殿に怒られるんじゃないのか?」



「あっ………いーくん、お願い!!黙ってて!!」



「何を黙っておくんじゃ牛若丸。」

牛若丸の後ろには鬼一が立っていた。


「ヒッ」



「ん?牛若丸黙っててはわからんぞ。」



「先生……ごめんなさい身体強化使いました。」



ゴチンっ!!

「馬鹿者!帰ったら特訓じゃ!!」



「はーい。ごめんなさい。」

牛若丸はしゅんとしている。



「鬼一殿見回りどうじゃったんじゃ?」



「どうやら、森の奥にオークを狩りに行って、狩れずにそのままオークを連れてきた馬鹿者達がおるようです。」

鬼一はさっきの商人達を見ながらそう言った。

先ほどの商人達が毛利の兵達に囲まれている。



「何やら睾丸を欲していたが。」



「はい。睾丸を食べさせると子どもが生まれない身体になるので後継者争いをしている人間が欲しがります。後は霊薬に混ぜると浄化され強力な精力剤になるので後継者を欲している人間は欲する事もあります。どちらかで権力者が欲してたのでしょう。」



「なるほどな。まぁ自分の力以上の相手を狙ったツケを払った形になるの。」

兵に連れてかれる商人達を見ながら伊織はそう呟いた。

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