第17話初めての魔人種との遭遇



猪を荷車に積みこんだ一行は解体場へと戻る。

現在地は解体場から一時間程離れた場所だ。



「伊織様、獲物を狩り帰る最中は魔人種の襲撃に注意が必要です。」

歩きはじめると鬼一から伊織に警戒を呼びかける。



「魔人種?魔物の鬼などの事か?」



「はい。鬼も魔人種ですが、鬼はゴブリンやオーガの進化の先にいます。ここの様な魔物領域の浅瀬で出会う事はないでしょう。今回はゴブリンやコボルトといった魔人種の最下層の魔物です。最下層の為一対一ならここにいる乞食でもなんなく倒せるでしょう。問題は数なのです。徒党組んで数で狩った獲物を狙ってくるため思わぬ怪我や獲物を台無しにされる事があります。」



「なるほど、狩った獲物を狙って襲ってくるわけか。徒党を組むのも人間のようじゃな。魔物の魔人種か。」

伊織は納得したように頷く。



「最下層のゴブリン、コボルトが一番数が多く徒党を組みます。そこから進化すると徒党の長になる魔物、徒党から離れて個として強くなっていく魔物にわかれます。

そこまで行くと人間の脅威になるので見つけ次第、商業組合を通して我々に連絡が入ります。現在も中国地方は鳥取にコブリンリーダー、島根にコボルトリーダーが現れたと地元の狩人から商業組合に連絡があり、小早川屋から上忍3名ずつを派遣してます。」



「武士は動かないのか?」



「軍を動かせば金が動きますので実害がないと動かさないのが実情です。しかし、リーダーまで進化した魔人種はおよそ500~1000程の徒党を組んでいます。実害が出た時には村一つなくなるでしょう。」



「それは……1000の魔物を3人で倒せるのか?」



「1000の魔物といってもリーダーが纏めいるならほとんどがノーマル、進化していてもホブでしょう上忍3名なら問題ありません。それに我々は武士ではなく忍者なので正面から戦うだけでなく奇襲や絡め手、毒なども使用します。…………っと話してるとどうやらゴブリンが巨猪の血のにおいに釣られて近づいて来たようですね。」

鬼一が前方を促す



牛若丸と龍馬の歩く先頭の先に緑色した120㎝くらいの醜い魔物が見えた。


「あれが、ゴブリンかはじめて見るな。」

伊織は1人呟く。


「正面から5匹ですか、牛若丸、龍馬近づかれる前に倒しなさい。乞食達は荷車を囲んで周囲の警戒。」

鬼一から指示が飛ぶ。


「「「はっ」」」

2人と乞食達は指示通りすぐに動き出す。


「伊織様は右手の方から気配に気づきますか?」

鬼一が伊織に問いかける。


「あぁ正面のゴブリンに気づいた時からチョロチョロしておるな。」

伊織は答える。



「はい。おそらく正面のゴブリンの仲間でしょう。側面から奇襲を仕掛けるつもりかと。弓で撃退して頂いてもよろしいですか?」



「おっ?いいのか。そろそろ、うずうずしておったのだ。」

伊織はウキウキしながら持っていた弓に矢をつがて狙いをつける。そしてゴブリンが見えた瞬間放つ。続いて二の矢、三の矢と放ち一瞬でゴブリン三体を撃退した。



「お見事です。全て顔に当たっておりますな。」

鬼一は伊織を称える。



「いや、全然駄目じゃ。体も子供の体じゃし気力もないからいつもの1/3の距離に狙いをつけたのじゃが、それでも狙った眉間から少しづつずれておる。もう一度鍛え直しじゃな。」

伊織は不満そうに倒したゴブリンを見る。



「いえいえ、弓などの精密な操作が必要なものは、体が変わるなどおこれば普通は真っ直ぐ射る事も困難な筈です。これなら午後からの狩りは牛若丸、龍馬と一緒に狩りをおこなえるでしょう。」



「ほんとか!?よしっ午後からが楽しみじゃ。」

伊織はうれしそうに反応する。ふと乞食がゴブリンの胸に短刀をいれているのが見えた。



「何をしておるんじゃ!?死を冒涜する気か!?」

伊織は乞食に怒鳴る。



伊織に怒られた乞食はビクッと直立不動になる。




「伊織様落ち着きなされ必要なことなんです。」

鬼一が諭す。



「鬼一殿食べる為に魔獣種の死体に短刀を入れるのはわかるが魔人種の死体に短刀入れるのは死への冒涜じゃ……………まさか、魔人種も食べるのか!?」

伊織はまさかと言った顔で鬼一を見る。



「いえいえ、魔人種を食べることはありません。忌避感を覚えるのはもちろんですが、その昔山で遭難した狩人が食べるものが無くなり魔人種を食べたそうです。そうすると、食べた左腕と同じ左腕がまったく動かなくなったそうです。これは呪いと言われ全国で同じような発祥例があり、狩人のタブーになっております。」



「なら、何故胸に短刀を入れる必要がある?」

伊織は怪訝そうに訪ねる。



「魔石を取り出すためです。魔人種の胸には必ず魔石と言われる石があります。魔人種からこの魔石を取り除かず死体を放置すると魔幽種と言われるアンデットに変わるため、狩人は魔人種を狩った時は魔石を取り除くか死体を燃やす必要があります。魔幽種の特性として魔石を壊すか体を燃やさない限り死にません。そして生への執着から生き物を見ると襲います。そんな特性から魔幽種が発生するとゴブリン、コボルトが被害にあいそのゴブリン、コボルトが更にアンデットになり爆発的に増え続けます。過去には魔幽種が増えすぎて森から生命体がいなくなった事例もあるほどです。ちなみに魔物は魔幽種以外は魔石が好物な為魔物が魔幽種を発生させることはほぼありません。魔石を取り除いた魔人種の死体は朽ちやすく数日で土に帰るため、火を準備する必要がない魔石を取り除き邪魔にならないとこに捨てるのが一般的です。」



「そうか、魔物がさらに違う魔物に変わるのか。なるほど、乞食よすまなかったな。」




「はいっ!!」

乞食は昨日までと違う伊織にすっかりビビっていた。

乞食の纏め役の長介に勝った事はもちろん。先ほどのゴブリンを一瞬で三匹倒したこと、そして何より自分達が先生だと慕い憧れている鬼一が、伊織に対して様付けをして気を使っている様子を見ると伊織が得体の知れないものに見えてしかたなかった。

昨日から何が変化したのか気になるが、日々大変な思いをしている乞食としての本能がこの事に触れるのは身の危険だと感じて自分のすべきことを黙々とこなすのだった。



いつの間にか正面のゴブリンも龍馬と牛若丸が倒して魔石の取り出しも終わっていた。


「よし、魔石を取り除いたようじゃな。出発するぞ」

鬼一の号令で一行は解体場を目指し再度出発するのだった。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る