第16話森の中へ
伊織と長介の決闘を終えた後、鬼一は乞食達に指示を出す。
「いつも通りわしらに着いてくる運搬班は3名、解体場の見回りに3名、解体班3名で別れろ。いつも解体場見回りをしておる長介が気絶しておるから解体班から一名解体場見回りに回せ。長介は起きたら解体をやらせておけ。」
「「「はい」」」
乞食達は鬼一の指示を聞き動き出す
解体場は血の匂いで魔物が森から出てくる為、通常2名の見回りを出すことが義務付けられている。乞食達は他の狩人や商人の傭兵より力がないため魔物が出てくるのを見つけたら2名で足止めをして一名が毛利の兵の詰所に報告に走るようになるようだ。
「初めは先頭を龍馬と牛若丸で進みいつも通り狩るようするんじゃ。真ん中を乞食達が進み、伊織様とわしは後ろから様子を見ながら周囲の警戒をします。」
乞食に指示がすんだ鬼一が3人に指示を出す。
「りょーかいや!師匠!!」
「鬼一先生わかりました!」
「余はお預けか。まあ2人の狩りを勉強させてもらうとしよう。」
「先輩として手本見せたるわ!」
「いーくんよく見ててね!」
2人は得意気に伊織に語りかける。
「あぁ期待しておるぞ。」
伊織は笑顔で返す。
先頭に牛若丸と龍馬
乞食の一人が荷車を引き二人が後ろに着く。
その後ろを鬼一と伊織が後ろを歩く
森に入ると濃いマナを感じる。濃厚なマナと獣の鳴き声が人の領域から離れた事を知らせる。
なるほど、ここからが魔物の領域ということか。
獣の命を奪いにきたのだ。油断すればこちらの命が奪われるのも当然の事か。
伊織は気持ちを引き締め周囲の警戒に回る。
「伊織様、雰囲気の変化に気づいたようですな。」
鬼一が語りかける。
「あぁここから人の領域ではない。油断すれば命を奪われるとそう感じた。」
「さすが、武に生きた御方です。その危機感こそ自然の中では自分を守ります。しかし、今日は周囲の警戒は私がやります。伊織様は周囲の警戒を最低限にして龍馬と牛若丸から学べるところを学んでください。」
「わかった。鬼一殿に任せて学びの場とさせてもらおう。」
龍馬は頷いた。
5分程森を歩くと龍馬がハンドサインで止まれの合図をする。全員静止し身を屈め気配を消す。
どうやら獲物を見つけたようだ。鬱蒼とする木々の間に角の生えた大きめな兎が見える。草を食べていてこちらに気づいてないようだ。
龍馬はこっそりと裏側に回る。牛若丸と龍馬で挟み撃ちにする形だ。
龍馬の準備が終わり牛若丸に合図をおくる。
牛若丸は頷くとクナイを持ち投擲する。投擲した瞬間凄い勢いのクナイは兎に当たることなく木に当たり木を貫通して龍馬が待機している後ろの木に突き刺さる。
「「「「はっ?」」」」
全員が呆けている間に危険を感じた兎は逃げていった。
「ごめん!龍馬!身体強化全快でやったら自分の想像以上の力が出ちゃった。」
牛若丸は失敗失敗と言った感じで頭に手を当てる。
「ゴチンッ」
牛若丸の後ろに近づいた鬼一がゲンコツする。
「痛~ぃ!!」
牛若丸は頭を押さえてうずくまる。
「得た力を実戦で急に試すからこうなるんじゃ!!鍛練で慣らしてから使わんか馬鹿者が!今日はいつも通り戦うんじゃ。制御できない力は己や味方を傷つけるぞ!!」
鬼一が牛若丸を叱咤する。
「はーい……ごめんなさい。」
牛若丸はしゅんとして落ち込む。
伊織は龍馬に近づき無事か確認する
「龍馬、無事か??」
「死ぬかと思ったわ。ちょっとチビったで。」
龍馬はうれしそうに答える。
「何故、うれしそうなんじゃ。マゾか?」
伊織は怪訝そうな目で龍馬を見る。
「誰が、ドMやねん!?ドMちゃうわ!?いつも新しい技を覚えて失敗して怒られるのはおれのほうやねん。それを牛若丸は少し寂しそうに見てたんや。牛若丸がこんな失敗するのは、昨日力を得られたことは相当に嬉しかったんやろ。」
龍馬はうれしそうに話した。
「そういうことか。お前さんいいやつじゃな。」
伊織は龍馬を褒める。
「そうやろ?もっといったってや!!ハッハッハッハ」
龍馬は高笑いをしながら上を向く。
「ゴチンッ」
いつの間にか龍馬の後ろにいた鬼一がゲンコツをする。
「イタッ!」
龍馬は頭を押さえてうずくまる。
「森の中で大声出すでないわ!最近は安定しておったから感心しておったらこれじゃ。」
鬼一が呆れながら龍馬を叱咤する。
「すんませ~ん。」
龍馬は頭をさすりながら鬼一に謝る。
「二人とも慣れてきた時が一番大きな失敗や、怪我をするんじゃ。気を引き締めるんじゃ。」
鬼一は二人を見ながら諭す。
「「はいっ」」
二人は真剣な顔で返事をした。
「よしっ。それじゃあ獲物を見つける所からじゃ。」
二人は再度獲物を探し歩く。するとすぐに先程と同じ様な角の生えた兎を発見した。先程と同じ様に龍馬が後ろに回りんだところで牛若丸がクナイを投擲する。兎に軽く刺さったところで兎がこちらに大人数の人がいることに気付き龍馬の方へ逃げる。龍馬は身を隠しながら兎が通る時にクナイを兎の首に突き刺して兎に止めをさした。
止めを刺した兎を持ち乞食に渡した。
「これ頼むわ。」
「はいっ!」
受け取った乞食が血抜きなどの処理をする。
そうして二人はまた獲物を探す。そんなことを何度も繰り返し兎を6匹狩った時に龍馬が大物を見つける。巨猪だ。
巨猪は兎の血の匂いでこちらに気づきこちらを見ている。
龍馬が正面から向かい合い牛若丸は弓を持ち側面に移動する。
巨猪が正面の龍馬に突進するが顔にクナイを突き刺した龍馬は猪の突進を受けると煙のように消える。どうやら分身体のようだ。その勢いのまま木に突撃した猪の側面を牛若丸は弓で攻撃する。弓での攻撃を鬱陶しく思った巨猪が牛若丸の方に突進しようとした時、再度龍馬がクナイで巨猪を攻撃する。ふたたび龍馬をターゲットに巨猪が突進するが龍馬は煙のように消える。龍馬が分身体で正面からの攻撃と相手の注意を引き牛若丸が側面から弓で攻撃する。そんな事を数10分繰り返すと巨猪の動きが鈍り動かなくなった。
「よっしゃ!仕留めたで!!」
龍馬が止めを刺して終わらした。
「おぉ!!大物を仕留めた!!」
乞食達は嬉しそうに目を輝かせる。
3メートル300キロくらいの大きさだ。
可食部の関係や税で抜かれたとしても街にいる乞食達全員でも2.3日は持つだろう。
「鬼一殿、あの猪は大きなほうなのか??」
「一応大人サイズではありますが、大きいのになると4~5メートルあります。まだまだ大人に成り立てといったとこです。」
「そんなに大きいのか!仕留めるのも大変そうじゃな。」
「あの戦い方だと1時間以上かかるでしょう。時と場合によってはわしが行って仕留めます。わしなら一撃で倒せますので。伊織様も気力さえあれば首を一撃で落とせるでしょう。同時に敵に囲まれて無理な場合は牛若丸や龍馬は毒にも心得があるので倒すだけならなんとでもなります。」
「なるはどそういうことか。」
伊織は納得したように頷く。
「荷車に巨猪を積んだら1度戻るぞ。解体班に渡しに行く。」
鬼一の指示に乞食は急いで準備をする。
「いーくん僕たちどうだった?」
「中々の者やろ?」
牛若丸と龍馬がキラキラした眼で見てくる。
「あぁさすが先輩じゃな。兎狩りも猪狩りも勉強になったぞ。感謝する。」
伊織は二人を素直に褒める。
そんな言葉を聞いた2人はとびっきりの笑顔を返してくるのだった。
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