第9話抜け忍才蔵と秘密結社『式神』
前世、足利義輝には嫌いなものがいくつかあった。足利を御輿に権力争いをしている細川家、三好家。そしてその現状を知りながら動こうとしない地方武士達などだ。しかし、最も嫌っていたのは足利家衰退の原因である足利義尚だった。京都大乱後、義尚が自決したことにより、足利義視の3歳の幼子が将軍になった。義尚が責任から逃げたため、細川、三好に権力が集まってしまったのだと考えていた。
「義尚の暗殺を行ったのは、合戦に負け、足利義視を失った三好家か?」
「おそらく。その可能性は高いですが、義尚様が武士の大幅な改革を計画していたため、それを嫌った細川家の可能性もあります。今まではそう考えていました。」
「今まではそう考えていた?」
「はい。これは義輝様の暗殺にも関わってきます。我々は忍術を修得し、それを悪用する者や権力に利用する者を抜け忍として処理してきました。最近の抜け忍の名は才蔵。彼は義輝様暗殺に関与した人物です。」
「なるほど、あの時の黒装束の男か。」
「才蔵は次期長の候補となる実力者でしたが、力に溺れ、さらに力を求めて抜け忍となりました。様々な悪事を重ねる才蔵を追っていた我々は、彼と関わりのある秘密結社に行き着きました。その名は『式神』。彼らは陰陽師の復活を目指す組織です。」
「ッ!!そうか、それで代々将軍しか入れない足利秘密の書庫の場所を探していたわけか。」
「はい。才蔵はさらなる力を求め、『式神』は足利家が隠した陰陽師の力『印』を探し、陰陽師の復活を目指していました。」
「なるほど……義尚が印の力を使えると知った『式神』が近づき、そして今回のように暗殺された可能性があるというわけか。」
「はい。あくまで可能性です。三好、細川の可能性も捨てきれませんが。」
「よくわかった。感謝する。」
「でも、長候補にもなる才蔵を毒が回った状態で倒すなんて、伊織君は凄いよ!さすが剣豪将軍と言われるだけあるよね。さっきも怪我や身体が変わったばかりなのに龍馬を圧倒するし。」
牛若丸は伊織を褒める。
「何を言っておる。才能というなら、牛若丸は余を越える気力の才能があるではないか。」
「え?僕なんて全然駄目だよ。未だに忍術も使えないし、気力の門を見つけることもできないんだ。龍馬なんて気力も呪力も一門を開けて見習い忍者の中でも優秀なのに。あっこんな時間だ!僕、店番に戻ってくるね!」
「あ、おい牛若丸!何か気に障ることを言ったか?弁慶殿?」
「伊織殿、気にされることはありません。忍者が魔物を狩り民を守ることが第一と言っても、牛若丸はまだ12歳の子供です。親である私が特級上忍であること、同じ年の龍馬が優秀なことがコンプレックスになっているのです。これは自分で乗り越えるしかありません。」
「なるほどな。じゃが牛若丸の気力の大きさは今まで見た中で一番大きい。これは、極伝に至った余と師匠の塚原卜伝を越える大きさじゃ。」
「その大きさが牛若丸の成長を止めているようです。ご存じの通り、気力が大きければ呪力は小さくなります。牛若丸の呪力の大きさでは忍術が使えません。また、武士のように気力を駆使して戦う力を得ようとしても、大きすぎる気力のために一門を見つけることができないのです。」
そういえば余も子供の頃、気力を操るのに苦労し、師匠である塚原卜伝に助けてもらった覚えがある。あの時は確か……
「弁慶殿、石川家は大陸と商売をしていると言っていた。今でも繋がりはあるのか?」
「はい。五右衛門は忍者という組織を維持するため、魔物素材を大陸に輸出し、大陸の物を輸入する商売をしました。それが今も続いています。」
「では、反転の秘薬は入手できるか?」
「反転の秘薬ですか?それなら店にもあります。」
「そうか!なら牛若丸の問題を解決できるかもしれん。」
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