第5話毛利家
「元春、どうじゃ?」元就が静かに尋ねた。
「おそらく、オレと同じくらいの強さじゃ。」元春の声には困惑が混じっていた。
「そうか。なら1対1なら我が家で勝てる者はおらんな。」
「親父よかったのか? 明らかにやつは怪しいぞ!家臣を外させて3人で会ったのも。武器を預かる謁見の間であったのも。ヤツを斬る為に最善だったからじゃないんか!? 1対1ならともかく3人なら間違いなく斬れたぞ。」元春は不信感を露わにする。
「隆景、どう思う?」元就は三男に目を向けた。
「はっ、父上。放っておいた方がよろしいかと。」隆景の声は落ち着いていた。
「何故じゃ? 隆景。宇喜田の時のように怪しい人間など早めに処理しておいた方が良いだろう。」
「兄上、宇喜田を斬った時は底が知れておりました。ですが、中国地方を統一して1年。父上に依頼され暗部と小早川屋を調べましたが底が知れません。全国各地で優秀だと言われる魔物素材屋と強い繋がりがあり、その中には先程の弁慶と同レベルだと言われる猛者もおります。それに乞食達との繋がりが非常に強いです。」隆景は冷静に分析した。
「乞食?? 乞食ってあの物乞いか??」
元春は馬鹿にしたように言う。
「兄上、乞食を侮ってはいけません。我々情報を扱う者にとって先ずは乞食達から情報を収集します。街のいたるところにおり繋がりの強い乞食達は色々な事を見聞きし情報をもっております。その乞食達が小早川屋とその繋がりがある魔物素材屋の情報は売りませんでした。
これはその日を生きる乞食にとって尋常ではありませぬ。それに全国の乞食と繋がりがあるということはそれだけ情報も集まるということです。」
「ぐぬぬ、なるほどの。」
元春は唸るように声をあげる
「元春、そういうことじゃ。やつが個人であるなら毛利家に着かぬ場合斬るつもりでおった。腹のなかに敵か味方かわからぬ獅子を居座らす気はないからの。だが、組織として動いてるならむやみに手を出せん。今日家臣達を外させたのはむやみに手を出す馬鹿が現れる事を恐れてじゃ。足利家が滅びて12年。天下を獲ったのは三好でも細川でもなく、誰も予想しない愛知の地方大名織田信長じゃった。織田は南蛮から魔道具と呼ばれる道具を取り寄せ、武士の戦いを変えてしまった。その事から魔王信長と呼ばれたんじゃ。その信長も家臣明智光秀の謀反に命を落とした。今は明智光秀を討った豊臣秀吉と柴田勝家に別れて争っておるが、豊臣秀吉が勝つじゃろう。そうなると東に魔王軍の残党、西に九州を統一した鬼島津と向き合わないといけなくなる。そんな時に藪をついてドラゴンが出てきたら立ち行かなくなるじゃろ。だから今は放っておくべきなんじゃ。もちろん引き続き情報は集めるがの。」
「なるほどな~。しかし、何であそこまで強いやつが武士にならず、商人などしておるんじゃ。あそこまで強ければどんな家でも引く手数多であろうに。」
「さあの。織田が台頭してきたときも世界がひっくり返ったが、この年になってもわからん事ばかりじゃい。よいか二人とも、隆元にも言い聞かせるが、毛利は天下を目指さぬ。時代を読み、天下人になる人間を見極めよ。所領が広島だけになったとしても毛利家を残すことを第一にせよ。隆元が人を纏める。元春は武、隆景は知をもって支えよ。」
「「はっ」」
☆☆☆☆
~魔物素材屋『小早川』~
「毛利が大大名か……」伊織は呟いた。「三好家の代官が出世したもんじゃな。」
「そう。去年九州地方は島津、中国地方は毛利が統一して大名になったよ。山口と福岡を所領してた大名、大内家を両家で挟み撃ちにしてね。」
伊織がさらに尋ねる。「すると、次は毛利対島津で、勝った方が新しい西将の誕生か?」
牛若丸は首を傾げた。「うーん、どうだろう?当分ないと思うよ。毛利の武力は大大名というには少し足りないんだ。間違っても鬼島津と言われる3兄弟率いる島津と正面から戦うことはないと思う。対して島津は元々鹿児島の大名なんだけど、3兄弟とも戦いが大好きで、桜島って魔物が溢れている島で魔物相手に戦いを繰り広げてたんだ。でも周りの大名連中には馬鹿にされてね。「大名やめて狩人にでもなれ」って言われてたんだ。そしたら喧嘩を売られたって感じて、三兄弟は嬉々として戦いに行って、勝っては領地を広げ、勝っては領地を広げていったんだ。でも腕は立つけど頭の方は今ひとつでね。内政の仕事を3人が押し付けあってたら、見かねた三兄弟の妻達が内政を切り盛りしてるんだ。それで何とかやってるみたい。」
牛若丸は微笑んで続けた。「今回の大内との戦いも内政が回らないからやめろって妻達は止めたらしいんだけど、毛利元就に上手いこと乗せられて結局戦いに行って、勝ってまた領地を広げたんだ。だから奥様方大激怒。ひーひー言いながら3人とも内政の仕事をしてるんだって。3人を止めなかった家臣達も今回は妻達に絞られて、内政にてんやわんやしてるって噂だよ。」
「なんとまぁ、豪気なことじゃな。武士とはそれでこそじゃろう。島津の三兄弟とは仲良くなれそうじゃ。」
「ははっ、相手は今や大大名の家だよ?乞食の相手なんてしてくれないよ。」牛若丸は笑った。
「あぁ……それもそうじゃな。ははっ。」
そんな話をしていると、突然ドタドタとこちらに駆けてくる音がして、ドアが勢いよく開いた。
ガラッ
「大変や!!弁慶の親父さんが毛利に連れてかれた!!牛若丸、急いで助けに行くで!!」
ツンツン頭の少年が飛び込んできた。
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