第3話魔物素材屋『小早川』
一度閉じた瞼が再び開かれた時、伊織は見知らぬ天井を見上げた。痛みが全身を駆け巡る。周囲を見渡すと、質素な部屋にいることが分かった。
「ここはどこじゃ?」彼の声はかすれ、しかし毅然とした響きを持っていた。
「あっ、起きた?」長い髪を後ろで纏めた若い少年が扉のそばで微笑んでいた。「ここは魔物素材屋『小早川』の空き部屋だよ。まだ顔の腫れ引いてないから無理しない方がいいよ。」
「魔物素材屋か…お主は何者じゃ?」
「僕?僕は牛若丸。君を助けた弁慶の息子だよ。」
「あの大男か!」と驚く伊織。「そうするとここは弁慶殿の店か?」
牛若丸は笑いながら答えた。「まぁ正確には違うけど、店主は父上がやってるよ。」
「そうか。あの男何者じゃ?ただの商人の出す雰囲気じゃないぞ。中段クラスの武士の力を感じた。」
「ははっ、ただの商人だよ。ただし、魔物素材屋だから普段から狩人も兼任してるけどね。達人クラスの武士の人と比べられるなんて息子として誇らしいけど、武士の人に聞かれたら斬られそうだからやめてね。」
伊織は牛若丸の言葉に納得しつつも首を降った。「いや、そこらの武士など相手にならぬじゃろう。それこそ達人クラスの武士じゃないとな。見事なものじゃ。」
「いや、あっそういえば、転生したって本当なの?」
転生したとバレたら面倒になりそうじゃな。ここは惚けとくのが吉か。
「あぁ…殴られ過ぎてボケてたんじゃろう。気にせんでよい。」
牛若丸は肩をすくめた。「そっか。伝説の転生者と会えたと思ってワクワクしてたのにな。」
「伝説の転生者?」義輝の記憶にも伊織の記憶にもその言葉は無かった。
牛若丸は興奮気味に説明を始めた。「知らない?大陸の格言に八門を開ける者神に至る入口に立つって言葉があるんだけど、八門を開けてなお後悔のある生き方をした人は転生して生き返るって伝説もあるんだ。」
伊織はその言葉に興味を持った。「八門を開ける者。武士の階級で極伝に至った者か。」
「そう。下級、中級、上級、下段、中段、上段、皆伝、極伝だね。皆伝までは最近でもたまに名前を聞くけど、極伝に至った人は塚原卜伝様くらいじゃないかな?」
伊織は頷き、思案にふけった。「そうじゃな。まあ師匠ほど好きなように生きとる者もおらん。後悔して転生する事もないじゃろうがな。」
「師匠??」
「あぁ…いや何でもない。 それより弁慶殿に礼を言いたい。案内してくれるか?」
「あぁ…父上は今広島城に呼ばれてるんだ。」
「広島城?」
「そう。中国地方の大大名毛利元就様に呼ばれてね。」
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