九灯
ザァーーーー
(雨......)
.......ゴロゴロ
(雷......)
昔は、こんな日でも人が来てたのに。
時には、御供えを。
時には、御祈りを。
時には、お祭りを。
賑やかだった頃の面影は、時と共に去って行った。
村を見渡せるこの場所に「いつまでもこの村をよろしくお願いします。」と込められて建てられたこの場所は、もうずいぶん誰も来ていない事で、荒れ果てた姿になってしまっている。
私のお役目は、もう終わりなのですね。
今日この日、村だったこの場所から全ての人が消えてしまった。
ちりんちりん......
店主「いらっしゃいませ。御好きな席へどうぞ。」
お客様「.........あ。」
お客様「これは、どうもご丁寧に。」
店主「フフ....。」
お客様「どうかなさいましたか?」
店主「いえいえ失礼しました。前にもあなたと似たように可愛らしいお客さんが来たものですから、そのお客様は、たしかご主人様を探しにここまでいらっしゃったんですよ。」
店主「それは、もうお行儀よく座っていらっしゃって。」
お客様「そうなのですね......。」
お客様「その方は、ご主人様という方にお会いできたのですか?」
店主「えぇ。お会いになられに行きましたよ。」
お客様「そうなのですね。それは良かった。」
店主「そうですね。でもあれで良かったのでしょうか.....。」
お客様「それは.....」
店主「フフ、すみません。」
店主「こちらメニューです。お決まりになりましたらお声かけ下さい。」
お客様「店主さん、店主さん。こちらを頂けますか?」
店主「畏まりました。それでは、料理ができるまでお待ちいただく間、私とお話でもしませんか?」
お客様「いいですね。」
お客様「それでは、村の話でもしましょうか。」
店主「村ですか?」
お客様「えぇ、私が長い間見守ってきた村の話....」
この村は、自然豊かな山々に囲まれた村で、主に農業や林業が盛んな村だったんですよ。村では年に数回お祭りが行われて.....
お客様「楽しかったなぁ。」
村の子供たちが、私にいろんな話や遊びを教えてくれて。
でもねぇ、時と共に皆大きくなって都会に出稼ぎに行っちゃって、だんだんと村の人が減っていちゃったのよ。
それでも、お正月に帰ってきては、私に報告をいろいろしてくれて、幸せだって教えてくれて.......。
最初はね、寂しいなって気持ちが強かったのだけれど、皆の幸せな姿を見ると嬉しくて、そろそろ私も離れる時だったんですよ。あの子たちは、立派に成長してもう私が見守ってあげる必要は無くなって。
お客様「........。ごめんなさいね辛気臭い話しちゃって。」
店主「いいえ。お客様は本当に村がお好きだったんですね。」
お客様「えぇ。今でも大好きですよ。」
お客様「例え、もう誰も居なくなったとしても、私の記憶の中で永遠に幸せな記憶が続いてるのですから。」
店主「料理ができたようですね。こちらお稲荷さんと、緑茶です。」
お客様「ありがとう、このお稲荷好きなのよ。村の人がね、お祭りの時によくお供えしてくれて。」
お客様「......。ねぇ店主さん」
店主「はい、どうしましたか?」
お客様「私はちゃんと出来てたのでしょうか。」
店主「出来ていたと思いますよ。」
お客様「あの村をよろしくお願いします。と頼まれた日から、ずっと皆の事を見守ってきたのですけれど.....。最後には、皆都会に行っちゃって。」
店主「.....それは仕方のない事だと思いますよ。」
お客様「そうね.....。」
店主「そうですね、聞いてみるのはどうですか?」
お客様「.........。」
店主「怖いですか?」
お客様「えぇ....少し。」
店主「きっと大丈夫ですよ。」
お客様「店主さん、お話聞いてくれてありがとうね。お稲荷さんご馳走様。」
店主「いいえ、私も貴重なお話を聞けて嬉しかったです。」
お客様「それじゃぁ.....。聞きに行ってみるわ。」
店主「えぇきっと大丈夫ですよ。あなたの村への気持ちはきっと村の人たちにも届いていますので。」
店主「いってらっしゃいませ。」
ちりんちりん........
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