五灯

カランカラン....

店主「いらっしゃい。」

女性客「..........」

店主「御好きな席へ....ってちょっとお待ちください、お客様。」

女性客「どいて....」

女性客「どいってって言ってんの。」

店主「すみません。お客様、そのような状態でこの先の扉にご案内することは出来ません。」

女性客「ほっといてよ。」

店主「お客様が本当は望まれていない形で、この先のご案内をしてしまうと、私どもも困ってしまいます。それにお客様の望んだ結果にはなりませんよ?」

女性客「私が望んで来てないって言いたいの?」

女性客「私が.....私がどんな思いでこっちに来たなんて知らないくせに、なんで....なんで私の行き先を阻むのよ。」

店主「良ければ席に座って私とお話をしませんか?」

女性客「もうたくさんよ。話す事なんてない。」

店主「そうおっしゃらないで下さい。今のままでは、どのみちあなた様をご案内することは出来ません。」

女性客「見逃してよ。もう....いいでしょ?沢山苦しんできたんだから。」

店主「時間は沢山あるんです。生き急ぐ必要なんてありません。少しの寄り道を私に下さいませんか?」

女性客「話す事なんてないって言ってるでしょ。」

店主「それなら話す必要はございません。」

店主「一緒にご飯を食べましょう?」

女性客「何それ........わけわかんないんだけど。」


店主「こちらメニューです。」

女性客「ねぇ。」

店主「はい。どうなさいましたか?」

女性客「なんでこの席に案内したの?」

店主「と、言いますと?」

女性客「この席だけ花が飾ってあるじゃない。」

店主「カルミアですね。」

女性客「なんでって聞いてるの。」

店主「綺麗じゃないですか?」

女性客「あっそ.....」

女性客「さっさと食べてこんなとこ出ていくから。なんでもいいから持ってきて。」

店主「畏まりました。料理が出来るまでお待ち下さい。」

女性客「ちょっと。」

店主「はい。」

女性客「はい、じゃなくてさ。」

女性客「私、頼んだんだけど、厨房とか行かなくていいわけ?」

店主「大丈夫ですよ。料理はもうすぐできるので。」

女性客「はぁ?あんた私が注文してから何もしてないじゃない。どうやって料理作る人に伝えるのよ。」

店主「心配しなくても大丈夫ですよ。」

女性客「心配とかじゃなくてさ、早く食べて出ていきたいだけなんだけど。」

店主「..........」

店主「ほら、出来たようです。持ってきますね。」

女性客「ちょっと....」


店主「お待たせいたしました。こちら熱々のグラタンと、御冷です。」

女性客「なんで、目の前に座るわけ?」

店主「一緒に食べましょう?一人は寂しいです。」

女性客「あっそ........勝手にすれば。」



女性客「おいしい。」

店主「グラタンって美味しいですよね。」

女性客「うっさい、独り言だし。」


店主「....グラタンって、失敗から生まれた料理っていうのを知っていましたか?」

女性客「はぁ?だからなんだっていうの。」

店主「失敗から生まれてしまった物でも、誰かに美味しいって評価されれば、それは料理として価値が生まれるんです。素敵な事じゃないですか?」

女性客「.....だから?」

店主「あなたは、自分の人生に生きる意味を見出すことが出来なかったかもしれません、しかし他の誰かにとってあなたはとても大切な人かもしれませんよ?」

女性客「そんなわけないじゃん。そうだったら、なんで助けてくれないわけ?私だけなんで....こんなに苦しまなきゃいけないのよ。」


店主「あなたは、それを他の人に話しましたか?」

店主「先ほどのように、話すことなんてないって、諦めていませんでしたか?」

店主「苦しい、助けて欲しいって言ったことはありましたか?」

女性客「助けてって言ったら助けてくれたわけ?どうせ何もしてくれないくせに。」

店主「何故、そう決めつけてしまうのですか?」

女性客「.........」

店主「言わなければ伝わらないんです。あなたがどれだけ苦しかったのか、助けて欲しかったのか。知ってほしい時は話さないと伝わらないものなんですよ。」

店主「よろしければ私に話してみませんか?」


女性客「私.....。怖かった.....。」


女性客「友達と思っていた子が実は、私の悪口を言ってて。」

女性客「皆もそうなんじゃないかって。周りの人も私の事そう思ってたんじゃないかって思うようになったの。」

女性客「始めは、伝えようとした.....でも、大人はよくあることだって、ちゃんと話を聞いてくれないし、相手に辞めてって言ったら、いじめられるようになって....。」

女性客「どうしていいか。わかんなくなって.....。学校にも行けなくなった。」

女性客「最初は、お母さん......心配してくれてたけど、だんだん学校に行きなさいって言うようになって、楽しいからって、もう大丈夫だからって。」

女性客「何も知らないくせにって言ったら、大喧嘩になちゃって。」

女性客「誰も味方してくれる人いないんだって、誰も私の事大切にしてくれないんだって、だったら私から消えてやるって。」

女性客「全部投げ出しちゃった。」

店主「そうなんですね.....。教えていただきありがとうございます。」

店主「ですがお客様、一つよろしいですか?」

女性客「......なに?」

店主「喧嘩しているとき、お母さんの顔しっかり見ることができていましたか?」

女性客「そんなの.....。」(泣いてた。)

店主「そうですね。泣いていらっしゃいましたね。あなた様の事をどうでもよかったり、大切に思っていなかったら、あなたのために泣いたり、心配したり、していなかったと思いますよ。」

店主「気づいていましたか?苦しかったのはあなた一人だけではなかったんです。」

店主「あなたの事が大切で、愛しているから、そんなあなたが心配で苦しんでた人がいたんです。」

女性客「.........。」

店主「まだ間に合いますよ?あなたを大切にして下さる方としっかり話してみませんか?」

女性客「大丈夫かな......。」

店主「大丈夫です。今さっき出会ったばかりの私に話せたんですから。」

女性客「それじゃぁ、話してみる......。」

店主「そうですね。話してみてください。そして後悔の無い人生にして下さい。そうすれば、次回からはご案内することができます。」


女性客「.......じゃぁ、またね。」

店主「そうですね。今度は、あなたの人生の終着点で会いましょう。少しの寄り道は大切です。辛くなったり、苦しくなったら周りに話してみて下さい。きっと誰かがあなたに寄り添って下さります。」


女性客「それじゃぁ。頑張ってくるね。」

店主「いってらっしゃいませ。」




カランカラン.....

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