四灯

ちりりんちりりん.........

カツ....カツ.....

店主「いらっしゃいませ。御好きな席へどうぞ。」

お爺さん「おい......」

店主「はい、どうなさいましたか?」

お爺さん「何処でもええんやったら、窓のある端っこの席でもええんか?」

店主「えぇ。構いませんよ。」

お爺さん「そうか......」

カツ.....

店主「ごゆっくりどうぞ。」

 カツ......


店主「こちらメニューになります。お決まりになられましたら、お声がけ下さい。」

お爺さん「おい。」

店主「はい。何かございましたか?」

お爺さん「.............」


お爺さん「いつも頼んどったやつ。持ってこい。」


店主「はい。かしこまりました。いつものですね。」

店主「少々お時間をいただきたいのですがよろしいでしょうか?」

お爺さん「あぁ.....構わん。」


お爺さん「ここからは見えなんだな.....」



店主「そうですね。」

お爺さん「ここから見える景色が好きじゃったなぁ。婆さんとよく来たわい。」

お爺さん「ここでも見れたら良かったんじゃが、見れなんだな.....」

店主「奥さんとは仲がよろしかったのですね。」

お爺さん「いんやぁどうじゃろうなぁ。いつもカンカンに怒るからに、わしの我儘に付き添うて。」

お爺さん「わしの足が悪うなってよく動けんなってからはずぅっとせわしくしてはってからに。」

お爺さん「たまの外出で偶然寄った店で窓の景色が綺麗じゃなぁ言うたら、毎週連れてきおってからに。」

お爺さん「ほんまに.....」

店主「素敵な奥さんですね。」

お爺さん「あぁ...わしにはもったいのぉくらいのやつじゃったわい。」

お爺さん「いっつも一緒におったくせして、わしをおいていきよってからに。」

店主「ここからの景色はどんな感じだったのですか?」

お爺さん「あぁん....そうじゃな。綺麗じゃったよ。週に1度の楽しみじゃった。」

お爺さん「キラキラ輝く海にな、快晴の空、一本のおっきい木が木陰を作って幻想的な風景じゃったわい。じゃがなそれよりも、わしの目の前にもっと綺麗なのが座っとったわい。」

お爺さん「いっつもニコニコしてはってからに、なぁにが楽しいんだか知らねぇがな。ほんとに.......もったいないくらい綺麗じゃったわい。」

店主「素敵ですね。」


お爺さん「フン.....注文じゃったな。これとこれ持ってこい。2つじゃ。」

店主「かしこまりました。」



店主「お待たせいたしました。こちら、海の店オリジナルサンドイッチと、スターチスコーヒーです。」

お爺さん「おい.....」

店主「はい。」

お爺さん「長い間、席借りるぞ.....」

店主「かしこまりました。ごゆっくりどうぞ。」



お爺さん「ほんまに.....きれいじゃのぉ.....幸子.....」




カツ.....カツ......

お爺さん「世話んなったな。」

店主「もうよろしいのですか?」

お爺さん「あぁ...一番見たかった景色は、この先で見られるからの。」

お爺さん「それと悪かったの。いつも頼んどったやつなんぞわかりもせんのに。」

お爺さん「わしの知ってる店に似てはってなぁ.....」

店主「いいえ。大丈夫ですよ。」


店主「それでは、ご案内いたします。忘れ物はございませんか?」

お爺さん「長い間待たせてしもうたし、そろそろ行こうかのぉ婆さんのとこに。」

カツ......

 カツ......


カツ.......

 カツ......

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