二灯
ピーポー、ピーポー、ピーポー....
「駄、」
ピーポー、ピーポー....
「女性の方は」
ピーポー、ピーポー....
ちりん....ちりん.......
店主「いらっしゃーせぇ。お客さんっすね? 取り敢えず、御好きな席へどうぞ。」
男性客「あのぉ.....ここは、どこでしょうか?」
店主「ここっすか?ここは、まぁ食堂っすね。」
男性客「俺は.....いや、そんなことより妻は、妻はどこでしょうか?」
店主「奥さんっすか?ここへはいらっしゃってませんね。」
男性客「いや、そんなはずは、さっきまで一緒に.....」
店主「はぐれたんすかぁ? まぁよくあることっすよ。」
店主「それより、お客さん席へ座って下さいっす。」
男性客「いや、俺はお金なんて.....」
店主「あぁ大丈夫っすよ、御代は貰ってるんで、取り敢えず席に座ってお待ち下さいっす。そんなところに突っ立ったままだと邪魔なんすよね。」
男性客「すみません.....」
店主「それで、お客さんは、何が食べたいっすか?」
男性客「あの......それではここのおススメをお願いします。」
店主「了解っす。お客さんだと、これっすね?」
男性客「............」
店主「どうしたんっすか? まぁこのメニュー表見るとそうなるっすよねぇ。(笑)」
男性客「お前は.....知ってるのか? 知ってて、そんな態度なのか?」
店主「知らないっすよ。お客さんの気持ちも、お客さんがなんであんな事したかも。なんも分かんないし、知らないっす。それにこの態度は元からっすよ。気に障ったなら謝るっす。」
男性客「いや......そうか.....すまない。気にしないでくれ。」
店主「それじゃ、お客さんのこと知るためにも、お話でもして料理が出来るのを待ちましょうっす。」
男性客「あなたが作ってくれるんじゃないのか?」
店主「私がっすか? ここの料理は、他と違うので多少はできるっすけど、無理っすよ。」
店主「それで、それで。どうして部屋で煙なんて炊いたんっすか?」
男性客「な....ぜそれを、あなたに教えないといけない。」
店主「さっきも言ったすけど、お客さんのこと知るためっすよ。それに誰かに聞いてもらいたい話も多いんじゃないっすか?」
男性客「...........」
男性客「はぁ、わかった。何故あんなことをやったかについてか......それは、まぁ生活が苦しかったからだ。」
店主「人間は、生活が苦しくなると、部屋で煙を炊くんっすか?」
男性客「いや、そうじゃない。生きるのが辛くなって残りの人生から逃げだしたのさ。」
店主「奥さんを巻き込んで?」
男性客「違う、妻は....彼女には、別れてくれと言ったんだ.....」
男性客「もうこの生活は続けられそうにないと、借金は増えていくばかりで、日に日にやつれていく彼女の姿を俺は見ていられなかった。」
男性客「もう、無理だと。別れてほしいと....頼んだんだ。」
店主「後悔してるんっすか?」
男性客「後悔はしていない。ただ彼女が、妻が心配なんだ。」
男性客「なぁ........生きてるのか? 妻はまだ生きているのか?」
男性客「教えてほしい。お願いだ......おねがいします。」
店主「残念ながら、知らないっすけど、ここにはまだいらっしゃってませんっすね。」
男性客「...........」
店主「待ってても無理っすよ。ここへはお客さんだけっすから。」
店主「それに探しに行くも、戻るもお客さんの自由っす。」
男性客「戻れるのか?」
店主「そうっす。まだ戻れるっすよっと、あ....ちょっと待つっす。」
店主「へい、お待ちっす。こちら練炭で焼いたサバの塩焼きに、奥さんの作っていたものと同じ味の味噌汁と、金粉を添えた赤飯と、涙を加えた抹茶です。」
店主「涙を加えたって言ってるっすけど、メニュー名なだけなんで、気にしなくて大丈夫っすよ。それとも抹茶苦手っすか?(笑)」
男性客「いや、頂こう。それより、さっきの戻れるというのは、本当なんだろうな?」
店主「はい、本当っすよ。戻るのも進むのも探しに行くのも自由っす。ただ、先に行くともう戻れないっすから注意が必要っすけど、この後どうされます?」
男性客「戻してくれ、それでいい。」
店主「戻ったとしても、奥さんに出会えるかは、私は知らないっすけど、いいんっすね?」
男性客「戻れるんだろ? だったら出会えるじゃないか。それに探しに行くというのは、出会える保証はないのだろう?」
店主「そうっすね。真っ暗な中ずっと彷徨っていつか出会えるかどうかっすね。」
男性客「それじゃぁ、この後戻してくれ、それと少し一人にしてくれないか?」
店主「了解っす。味わってお食べ下さいっす。」
ちりんちりん........
店主「いらっしゃいませ。1名様ですね?お好きな席へどうぞ。」
女性客「あの.....ここに○○さんは、あ....その、人を探してて。」
店主「あぁその方でしたら、先ほどお食事を済ませてお帰りになられましたよ。」
女性客「あ、ほんとですか? 良かったぁ。じゃぁ私も.....」
店主「あぁお客さん、御戻りになられるので?」
女性客「はい、あの人を一人にさせたくないんです。彼、沢山頑張ってましたから。」
店主「そうですか、ですがあなたの帰り道はそこでは御座いませんよ。」
女性客「え....と、そのどういうことでしょうか?」
店主「あ、もしかして気づいておられないのですか? それとも気づいておられないふりをなさっているのでしょうか?」
女性客「あの....その、言葉の意味が.....」
店主「分かっておられるではありませんか、これをどうぞ。」
女性客「ありが....とう......ございます。ハンカチ、洗ってお返し、あ.....」
店主「大丈夫ですよ。さぁこちらの席へお座り下さい。」
女性客「あの、彼は大丈夫なんですよね?」
店主「はい、彼はあなたの事が心配で先ほどお帰りになられましたよ。愛されていますね。」
女性客「はい、彼は.....とっても優しいんです。体の弱い私の事をいつも気にかけてくれて、でも一人にしたくなかった.......」
店主「そうですね。しかしいずれ彼とも出会えますよ。遠い先の話になるかもしれませんが。」
女性客「先に来てしまった私が言うのはおかしいかもしれませんが、この先の人生彼には、幸せになって欲しいです....私の分も、それから彼が戻ってきたら言うんです。よく頑張ったね。お帰りなさいって、そしたら沢山、タクサン....聞いてあげるんです。辛かったこと、楽しかったこと、嬉しかったこと。」
店主「いいですねぇ。彼はとても幸せでしょう。こんなに愛して下さる奥さんに見守って頂けるので。」
店主「それでは、御料理を御運びいたしますね。」
店主「こちら、タンポポ茶と、幸せを贈るパンケーキです。どうぞ、お召し上がりください。」
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