黒幕系ムーブはひっそりと ~なお、他人の配信にてバズり過ぎて魔王になった模様~

白神 怜司

第一章 ひっそり予定がアホみたいにバズった件

Prologue:修行の終わり




 ――「なんかそうくんってさ、女の子みたいだよね」。


 ――「颯は男っぽさが皆無だよな」。


 ――「ごめんね。私、頼りがいのある男子ひとが好きなんだ」。




 そうやって、何度も何度も。

 数え切れないぐらいに、男としての矜持とか自尊心みたいなものをすり潰されながら生きてきた。


 僕だって、好きでこんな見た目をしている訳じゃない。


 本当は、背が高くなりたかった。

 筋肉がついてほしかった。

 声も低くなってほしかった。




 ――男として、見られたかった。




 でも、現実は残酷だ。

 身長は中学1年生で打ち止め、筋肉は引き締まる程度でそれ以上肥大化もしない。


 高校生になって、大人料金で施設に入ったりバスに乗ったりしようとする度に微笑ましげに優しい声色で止められるし、男子トイレに入っただけでぎょっとした顔を向けられる。


 子供っぽい体躯、少女っぽい顔は、個人の努力だけではどうしようもなかった。




 だから僕は、今日もダンジョンの奥底で――――戦っていた。




「――鬟溘▲縺ヲ繧?k!」


「あはは。ちょっと何言ってるか分かんないかな――って」



 人型のそれ・・が叫びながら両腕を伸ばしてくる。

 見た目だけなら、まるで景色の中に黒色が落ちたかのような、異質な黒い存在。

 人の姿をしたその魔物が伸ばした腕は、ほんの一瞬の、瞬き一つすら許さないとでも言いたげに僕へと迫ってくる。


 それに対して悠々と、軽々と言葉を返しながら、僅かに身体を捻ってその攻撃を避ける。

 ぎゅん、というよりも、むしろチュン、とでも言うような甲高い音を立てながら、数センチばかり横を通り過ぎていった腕を一瞥してから、まるで信号が青になって歩き出したかのような気楽さで踏み出す。


 縮地、あるいは瞬歩。

 呼び方は色々あるけれど、要するに一瞬で移動するという技術。

 魔物と戦い、魔物が拡散するという魔素を吸収し、いわゆる位階レベルをあげる。

 そうして戦い続け、人の領域を超えた今となっては、そんな武術の極地とも言えるようなものさえも、ちょっと本気を出せばこなせてしまう。


 ただ一歩、前へ踏み出す。

 それだけで、『深層の悪夢』と呼ばれる黒い人型の懐へと忽然と入り込んだ僕に、そいつは無防備にその身を曝け出した。


 無防備過ぎる上体の、その中心に手を当てて。

 体内を巡る魔力を込めて、突き出す。


 魔法のような技術も必要ない。

 ただただ魔力を回転させ、僕の体内で暴れさせ、掌底と共に暴れまわった魔力を打ち出すだけの一撃。


 ボ――ッと音が鳴って、『深層の悪夢』は下半身だけを残したまま上体を消失させて、力なく倒れた。



「……いける」



 基本、ぼっち行動の僕は独り言なんて滅多に呟かない。

 だというのに、この圧倒的な勝利を実現させたという事実を前に、思わず口を衝いて出た言葉。




「……ふふ、ははは……っ。はははは!」




 元日本最強の探索者パーティ、『黎明の絆』。

 海外にも名の知れ渡っていた彼らですら為す術なく負けた・・・・・・・・相手である『深層の悪夢』。

 その相手にこうもあっさりと勝利できたのだから、確信するには充分だった。


 三年間。

 法律に定められている年齢制限――十四歳になって、ようやくダンジョンに入れるようになってからというものの、ただただ何も考えず、昨日よりも今日、今日よりも明日と常に強い魔物と戦い続けてきた日々。


 それがようやく、報われる日がきたのだ、と。


 背の低さも、見るからに少女のような童顔さも、身体の線の細さも。

 ちょっと暗くなった夜の街を歩けば、すぐに「キミ、ちょっといい? 親御さんは一緒かな?」とか言われる日々も。

 何故か声変わりしたはずなのに大して低くなりすらしなかった声さえも。

 



 ――――ようやく、報われる。……たぶん。




 背が大きくなることに希望を持つ?

 男っぽく見られたい?




 ――ははっ、そんな叶いもしない願望を胸に抱いたってムダムダ。




 生まれ持った背の低さ、中性的で子供っぽい顔。

 そんなものが願うだけでどうにかなったら苦労しないよ。


 ついでに筋肉が表に出てきてくれない体質の人だっているんだ。

 僕がそうだもん。


 諦めて、もっと愛せる自分になろう。

 ありのまま、変わりたくても変わらないものを呪うのではなく、今あるものを、いっそ好きになろう。


 そう考えた僕が目指した頂。


 ありとあらゆるジャンルのマンガ、アニメ、ラノベで地味に人気を博すキャラクター性を確立するという、たった一つの燦然と輝く答え。




 それは、つまり……!




「……僕はようやく、『なんかミステリアスでクソ強いし、見た目の割にやたらと達観していて年齢不詳な、どこか人を食ったような謎のショタキャラ』枠に見合うだけの実力を得たんだ……ッ!」




 彼方かなた そう、十七歳。

 幸いにしてダンジョン適性がやたらと高かった僕は、わざわざ誰にも見られないようにひそひそと隠れてダンジョンに籠もり、三年間ひたすらぼっちで戦い続けてきた。


 そんな修行の日々を、ついに終える事にした。





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