★15★ 賢者は懐かしく笑う

 どうにかこうにかゴンザレスの襲撃を乗り越えた俺達だったが、突然現れた銀髪の男によってニルフィが連れ去られてしまった。

 急いで救出へ向かおうとする俺だがアルフレッドに止められてしまう。


 アルフレッドは今の俺達では【呪いの王】でもある銀髪の男に太刀打ちできないと告げられ、対抗するためにもアルフレッドの記憶でもある【千切れたページ】が必要だと話される。


 どうしてそんなものが必要なのか。


 俺は問いかけるようにアルフレッドを見つめていると、ゆっくりとその理由が語られ始めた。


〈ワシには自慢の弟子がいた。といってもいろんなことができるような器用な弟子ではなかったがの。ただ、目に入れても痛くないと思えるほどかわいらしい女の子じゃったよ〉


 アルフレッドは懐かしむようにその少女について語る。


 錬金術が使え、天才的な感性を持った人物だった。

 その錬金術のせいか、石ころが大好きだった。

 妖精族の友達がいた。

 とにかく諦めが悪かった。


 などなど特にこの事態とは関係ないことをアルフレッドは語ってくれる。

 ひとまずツッコミを入れずに懐かしむアルフレッドの言葉を聞いていると、〈ある日の出来事じゃった〉と確信に近い情報を話し始めた。


〈ワシが魔法の研究をしていると弟子が呼ぶ声がした。仕方なく手を止め、顔を出すとそこに一人の少年が倒れていたんじゃ。少年は【ロイズ】と名乗り、すぐに弟子と仲がよくなった。じゃが、その出会いが運命の別れ道じゃった〉


 ロイズは不思議な力を使えた。

 それは弟子である少女が持つ力とは対になるもの。


 いわゆる【呪い】と呼べる力だったそうだ。


 一方、弟子はその呪いを打ち消すことができる【浄め】の力を持っていた。

 そんな二人だからそこ反発もあったが、いつしか惹かれ合っていったそうだ。


 しかし、それが最悪な結果をもたらしてしまったとアルフレッドは話す。


〈ロイズの力を危険と見なした国王が力尽くで処刑しようとしたんじゃ。ワシらは当然反発したが、絶対的な権力の前にひれ伏すしかなかった。ほどなくしてロイズの処刑日が決まり、刑が執行されることになった。ロイズは抗えない運命を受け入れ、死を待っていたが弟子はそうでなかった。民衆がいる前で彼女はロイズを助けてしまったんじゃ〉


 正当性がある訳がない。

 それでも、ロイズの死を受け入れられなかった彼女はあろうことかみんなが見ている前で助けてしまう。


 敵意が弟子に向くと同時に、アルフレッドは覚悟を決めたそうだ。


〈なかなかの出来事じゃったよ。まさか見知った顔と王を敵に回し、戦いながら逃げることになるとは思いもしなかったわい。それでも、あの子は嬉しそうに笑っていた。おそらく一人でロイズを守ろうとしたんじゃろう〉


 そして、アルフレッドは弟子達を守りながら逃げた。

 しかし、王はしつこくだんだんと追い詰められていったそうだ。


 ついにはアルフレッドは膝をつき、身体が動かないほど致命的なダメージを受けてしまった。

 そんなアルフレッドを助けるために弟子は自身が持つ力と錬金術を使い、魂を本へ移したそうだ。


 こうして今のアルフレッドができ、生きながらえることになったが悲劇が起きてしまう。


〈ワシを助けて安心したんじゃろう。あの子は背中から槍を突き刺されてしまった。本に成り立てのワシは何もできず、ロイズも取り押さえられてどうすることもできんかった。あの子が事切れるまで見ているしかできなかったんじゃ。それが、よくなかった――〉


 彼女はロイズの目の前で死んだ。

 何もできず、見ているしかできなかったロイズの力が暴走してしまった。


 アルフレッドはその力に弾き飛ばされ、たくさんの記憶と魔法を失ったそうだ。

 そしてロイズは、死んだ彼女を守るように呪いの中へ沈んでいったとアルフレッドは話す。


〈ワシの魔法はおそらく、あの子がくれた力が宿っている。じゃが、それだけではロイズを止められん。何のために復活し、行動をしているのか。もしかすると、とは思うがそれは憶測じゃ。どのみち、ロイズを放っておけん。だからワシの記憶、いや魔法を集めてほしい。止められるかはわからんが、止めるにはそれしかないんじゃ〉


 悲劇だっただろう。

 それでもアルフレッドはロイズを止めたいと考えている。


 大切なものを奪われたようなものなのに。


 まあ、こいつは結構優しいのかもな。

 そう思うことにしよう。


「わかったよ。それで、その千切れたページってのはどこにあるのかわかるのか?」

〈わからんから頼んでる。一緒に探してくれ!〉

「お前なぁー……」


 俺が呆れていると、一緒に話を聞いていたキッキーがポンッと両手を叩いた。


「それなら心当たりがある。きーっ」

「心当たりって、どっかで見たのか?」

「そうだ。確か【厄災星のガラン】が何枚か持ってた。きーっ」


 おいおい、とんでもない情報じゃないか。

 というかアルフレッドの記憶って役に立つのか?


「あいつ、強力な魔法を使ってきてたから困ってたけど、そういうカラクリだったのか。なら早く村に行こう。きーっ!」

〈そうじゃな。悪用されているなら早く取り返したいわい〉

「わかった。じゃあ当初の目的通りに行こうか」


 俺は寝かせていたクリスを背負い、移動し始める。

 だいぶ疲れていたのか、それともダメージが大きいのかずっと気絶したままだ。


 早く目覚めてほしいな。


〈シキよ、すまんな〉

「謝るなよ。それよりその弟子ってどういう名前だったんだ?」

〈シャーリー、とワシは呼んでいた。なかなかに大変じゃったぞ〉

「そっか。じゃあ、そのシャーリーのためにも暗い顔をするな。お前には間の抜けた笑顔が似合ってるだろ?」


 そう声をかけるとアルフレッドは笑う。

 そして、〈シャーリーにも言われたわい〉と答えてくれた。


 ニルフィを助けるためにも俺達はよろず村へ向かう。

 そこで待ち受けているガランからアルフレッドの記憶を取り戻す、という目的を追加して進んでいった。

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