★13★ ノリノリゴーレムとの戦い

 なんだかノリノリなゴーレムことゴンザレスと俺達は戦うことになった。

 音楽に合わせて変な歌を歌い踊っているだけかと思いきや、ニルフィを襲ってたゴブリンみたいな禍々しい黒をまとい始める。


 それまで見せていたおちゃらけた風貌から一変し、おぞましいぐらいに嫌な威圧をゴンザレスは発し始めた。


「へいへいへーい! 降参するなら今のうちだぜ!」

「誰がするかよ!」


 俺は抜いた剣を振りかぶり、ゴンザレスに斬りかかる。

 するとゴンザレスは俺の攻撃を右腕一本で受け止め防いでしまう。


 ゴーレムとはいえ剣を腕一本で防ぐのは厳しいはずだが、ゴンザレスは難なくやり遂げてしまった。


「お返しだぜ!」


 剣が弾かれると同時に俺は距離を取った。

 しかし、大きな身体に似合わずゴンザレスは機敏に動き、俺が取った距離を一気に詰める。


 固く握られた拳が俺の腹部へめがけて飛んでくるが、持っていた盾でそれを防いだ。

 だが、ゴンザレスは俺の防御行動を見てニヤリと笑みを浮かべる。


 その怪しげな笑顔に思わず俺が顔をしかめた瞬間、腕に強烈な痛みが走った。


「っ――」


 なんだ、急に。なんでこんな焼け付くような痛みが走るんだ。


 あまりの痛みに俺は盾を落としてしまう。

 俺は手を押さえながら手の甲に目を向けてみると、そこには黒い蛇の形をした刻印があった。


「シキ!」

「来るな! 大丈夫だっ」


 俺は痛む手に歯を食いしばりながら立ち上がる。

 あまりの痛さに盾は持てそうにない。このまま戦うしかないだろう。


 そう考えているとゴンザレスはこう言い放った。


「お前はもう終わりだ」

「なんだと?」

「俺は優しいから教えてやる。お前は呪われたのさ。そうだな、俺と同じなら【拒絶状態】になってるだろうよ」

「なんだそれは?」


「魔法による回復ができない。魔法による攻撃も効かないってやつさ。まあ、そこにいる本の魔法ならどうにかできるだろうけどな」


 ゴンザレスはニンマリ笑う。

 明らかに怪しい笑顔だ。下手に言葉を信じてアルフレッドの魔法を使わないほうがいいかもしれないな。


 しかし、困った事態になった。

 魔法による攻撃どころか回復もできないとなるとニルフィの支援は期待できない。


 かといってクリスも同じ呪いにかかったらパーティーは崩壊してしまう可能性がある。

 俺だけでどうにかするしかない。

 だけどどうやって――


「考えている暇なんて与えないぜ! レッツパーリィ!」


 ゴンザレスはなんでも破壊してしまう自慢の拳をぶん回してきた。

 俺は攻撃を掻い潜り、胴体を切ろうと剣を振る。


 しかし、できたのは浅い傷だけ。

 しかも困ったことに剣の刃が刃こぼれを起こしてしまった。


 とんでもない固さだな、くそ。

 俺は心の中で文句を叫びながら距離を取る。

 直後、俺が立っていた場所に拳が振り下ろされ、そこは大きな穴が生まれていた。


「すばしっこいな、お前。おかげで楽しいぜ!」


 ゴンザレスは余裕しゃくしゃくという様子で地面から拳を引き抜く。

 そしてゆっくりと俺に目を向け、転がっていた巨大な魔石を担ぎ始めた。


「本気を出してやるぜ。さあ、楽しいダンスパーリィーだ!」


 ノリノリになれるポップな音楽が流れ始める。

 その音楽が加速すると同時に、俺の手の甲に刻まれた黒い蛇が暴れ始めた。


 ものすごく腕が熱い。

 よく見ると肌が黒く変色している。

 まるで蛇が腕を伝って這いずり回っているような気がするぞ。


〈いかん! シキを守れ!〉


 戦いを見守っていたアルフレッドが声を上げる。

 それと同時にクリスが駆け、俺の脳天をかち割ろうとしていた拳を蹴った。


 おかげで軌道がずれるものの、あまりの威力に身体が転がっていく。

 俺は立ち上がろうとするが、異様な右腕の痛みのせいでできない。


 叫びたくなる気持ちを抑えつつ、どうにか身体を起こした。


 このままじゃマズい、と思うもののどうにかする方法が見つからない。

 持てるカードはあるが、逆転できるだけの強いものがなく焦っていると俺の目にあるものが入ってきた。


 それはぶっ飛ばされた拍子に地面に突き刺さった魔剣だ。


「なかなかすばしっこいぜ! だが、いつまで逃げられないぜ!」


 クリスが攻撃を躱し続け、粘っている。でもそれはいつまでも持たないだろう。

 なら、この魔剣に賭けるしかない。


「シキ様、大丈夫ですか!? 今、回復を――」

「いい。それより頼みたいことがある」


 やれることをする。

 そう決めて俺はニルフィにある指示を出す。

 ニルフィは俺の言葉にちょっと躊躇ったものの、わかったと返事をしてくれた。


「きゃあっ!」

「捕まえたぜ!」


 俺が突撃しようとしたタイミングでクリスがゴンザレスに捕まってしまった。

 そのままゴンザレスは彼女を地面に叩きつけようとするのを見て、俺は腹を決める。


「ニルフィ、頼むぞ!」

「はい!」


 俺は魔剣を手に取り、突撃する。

 同時にニルフィが呪文を唱え、火炎弾を放つとゴンザレスの顔面に当たった。


「小賢しいな!」


 爆炎のおかげか、ゴンザレスは魔法攻撃をしたニルフィしか目に入っていない。

 おかげで俺は死角から奴の懐に潜り込むことに成功する。


「それが人間だ!」


 ガラ空きの胸に、俺は持っていた魔剣をぶっ刺した。

 直後、ゴンザレスの身体が浮く。


 あまりにも強烈な一撃だったのだろう。

 ゴンザレスがまとっていた禍々しい黒は飛び散り、元の姿に戻っていた。


「ぬ、ごっ! お、前ッッッ!」


 どうやら思った以上に効果があったようだ。

 俺は自分の腕を確認すると、伸びていた黒ずみはすっかり消えていた。


 これならアルフレッドの魔法が使える。


「アルフレッド!」

〈よしきた!〉


 俺は恥ずかしいポエムを読む。

 それを見たゴンザレスは慌ててこんなことを言ってきた。


「待ってくれ! 俺が悪かった! そうだ、今度ラップの極意を教えてやる。ノリノリになって女の子にモテモテだ! だから頼む助けてくれー!」


「うるさい黙れ――アイスアイズ!」


 氷華が咲き誇り、氷刃が乱れる。

 一撃必殺の魔法にゴンザレスは倒れた。


 こうして俺達は奇妙なゴーレムとの戦いに勝利する。

 しかし、妙な謎は残ったまま終わったのだった。

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