★12★ ヒップでホップな? ノリノリゴーレム

 クリスの双子の妹【ニルフィ】を助けた俺達は空から落ちてきたよろずザル【キッキー】の頼みで彼が住んでいるよろず村へ向かうことになった。


 なんでもその村を襲い、支配した【厄災星のガラン】がこのダンジョンで起きている【外部との転移】についての問題に関わっていそうなんだ。


 もしかしたら根本的な原因かもしれないが、例えそうでなくても何かしらのヒントがあるかもしれない。

 そう考えて俺は三階層にあるよろず村へ向かうことにした。


「それにしてもまさかブッチーと知り合いだったとは。あいつは元気にしてたか? きーっ」

「さっき出会ったばかりだけど、お腹空かせて倒れてたよ。まあ、おかげで俺達の問題が解決したけどな」

「相変わらずだな。生きているならそれでいいが。きーっ」


 あいつは昔からあんな感じなのか。

 それならそれで知ってたら心配になるってもんか。


 にしても三階層か。

 キッキーやニルフィの話だとダンジョン内の転移はできるらしいから階層移動には問題ないらしい。


 だとしても、一番下から移動しないといけないのは面倒だな。

 わざわざクリアした階層をまた通らないといけないのは骨が折れるというものだ。


 まあ、俺の場合はアルフレッドがいるからどのみち一番下からやらないといけないから、問題ないっちゃないが。


〈しかし、三階層か。ワシは一階層も攻略できてないが行けるかのう?〉

「三階層なんてあっという間よ。でも、そこに村があるなんて知らなかったけど」

「そうだねぇー。もしかしたらあっという間に攻略しちゃったから村に気づかなかったかもだけど」

「よろず村は三階層の端っこにあるから仕方ない。まあ、しょっちゅう冒険者が来たら困るけどな。きーっ」


「そんな所になんで変な奴が現れたんだ? 人が集まるような場所じゃないんだろ?」

「わからないから困ってる。そういえばあいつ、何か探しているような気がしたな。きーっ」

「何を探してたんだ?」

「わからない。でも【聖女の魂が眠っている】とかどうとか言ってた。きーっ」


 何だそりゃ?

 聖女の魂が眠っているって、その村に聖女に成りうる存在がいるのか?


 よくわからない言葉に俺は頭を捻る。

 何となくアルフレッドに目を向けてみるが、特に何も反応がない。

 何か知っていそうな気がするんだが、まあこの状況でも教えてくれないってことはたぶん語りたくないんだろう。


「その聖女の魂がどういう代物なのかわからないが、何にしてもそのガランが現れてから俺達も困ったことになっている。たぶん何かしら関係がありそうだと睨んでいるが」


「転移できないのは面倒だしね。ぶっ飛ばせば何かしらわかるんじゃない?」

「そうかもね。でもどうせなら落とし穴とかもなくしてほしいよ」

「そんな優しさがあったら困ってないわよ。とにかくとっとと倒しましょう」


 ま、それもそうだ。

 とにかくガランとやらを倒してしまおう。


 ギルドからのクエストだし、もしかしたらいい報酬がもらえるかもしれないしな。


 そんなことを思いつつ、俺は進む。

 そういえばニルフィを襲ってたゴブリン、なんか変なものをまとっていたけどあれは何だったんだろうか。

 黒くてなかなかに禍々しいものだったけど。


「ヘイユー!」


 俺がそんなことを思い出しながら考えて進んでいると、誰かから声をかけられる。

 顔を向けるとそこには巨大な魔石を左肩に担ぎ、黒を貴重としたキャップを被ったゴーレムがいた。


 なんだかノリノリになれそうな音楽が魔石から流れており、刻みに揺れている身体はおそらくリズムに乗って踊っているのだろうと思うことにした。


「なんだこいつ?」

「なんだこいつはこっちのセリフッ。悪いことは言わないぜッ。そこにある本、俺に渡せッ」


 妙に韻を踏んでいるな。

 え? 最近のモンスターってこんな感じなの?


「いや、それよりもお前は何者なんだ?」

「よく聞いたなヘイユーッ! だけど教えてやらないぜベイベーッ」


「じゃあいいや」

「待てよヘイユー! 聞いたんだから俺の名前を覚えてけベイベーッ。よく聞け俺は【ゴンザレス】ッ! へなちょこなお前をブッ潰す奴だ覚えとけッ!」


「ハァ……」


 なんかよくわからんゴーレムと鉢合わせたな。

 あ、もしかしてキッキーの仲間か?

 そういえば仲間と一緒にどこかへ飛ばされたって話をしてたもんな。


「ねぇ、これアンタの仲間?」

「知らない奴だ。きーっ」


 全く関係ない奴だった。

 おいおい、本格的にこいつは何しに出てきたんだよ。


「とにかくそこにいる変な本を渡せへなちょこ人間ッ。そいつはガランへの献上品ッ! ガランに渡せば俺はウハウハライフッ。待っているのは遊んで暮らせるマイライフッ」


「あー、つまりガランって奴にアルフレッドを引き渡したいってことか。オーケーオーケー、わかった」


「お、わかったか人間ッ。ならさっさとそれを引き渡せ――」


 俺は下手なテンポで口ずさまれる歌を聞く前に、ゴンザレスと名乗ったゴーレムの顔面に殴る形で盾をぶつけた。

 するとゴンザレスはそのまま空を見上げるように倒れ、痛そうな顔をして俺を睨みつける。


「仲間を売れと言ったんだ。このくらいは当然だろ?」


 アルフレッドと出会ったのはさっきみたいなものだ。

 だが、それでも俺は仲間だって思っている。


 こいつが背中を押してくれなかったらパーティーを作ろうと思わなかったし、なんやかんやでこいつには助けられているんだ。


 そんな仲間を売るなんて、ふざけているとしか思えない。


「へなちょこ人間ッ。いやお前はバカバカ人間ッ」


 ゴンザレスは立ち上がる。

 そして転がっていた魔石を抱きしめるように持ち上げ、こんなことを言い放つ。


「おとなしく引き渡せばよかったのにッ。俺を怒らせたことッ! 後悔させるぜッ!」


 ゴンザレスは抱きしめていた魔石を力任せに砕く。

 途端にその身体は禍々しい黒に覆われた。


 それはさっき見たゴブリンの黒よりも深く、渦巻くようにドロドロとしたもので一層不気味な存在だ。


〈シキよ、油断するな。あれは先ほどよりも強力な【呪い】が付与されている〉

「呪い? なんだそりゃ?」


〈言わんでもわかるじゃろ。まあ、注意しろ。あれは一般的に使われている魔法だけでなく物理攻撃もほぼ通らんぞ〉

「そりゃ困ったな。お前の魔法でもキツいか?」


〈やってみなければわからん〉


 頼りない回答だな。

 でもいい。どのみちやることはさっきのゴブリンと一緒だ。


「行くぞみんな。アルフレッドを守るぞ!」


「仕方ないわね。ニルフィ、回復と支援は任せたわよ!」

「わかった。お姉ちゃん、無茶しないでね!」


「お前ら全員一捻りッ! 俺は敵なしチュー無敵ッ! かかってきなへなちょこ人間共ッ!」


 こうして俺は禍々しい黒を身にまとったゴンザレスと戦うことになる。

 ゴンザレスが下手な歌でリズムを刻む中、ニルフィを加えた俺達は初めてパーティーでの戦いをするのだった。

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