★11★ 空から落ちてきたよろずザル
天国のばあちゃん、元気にしているか?
たぶんばあちゃんのことだから天国でもポーカーやブラックジャックといったカードで遊んでいると思うよ。
え? 俺?
俺は今、死にかけています。
もうね、ばあちゃんがインディアンポーカーをやって大盛り上がりしている姿が見えるよ。
どうしてこうなったかって?
どうしてなんだろうな。
俺はただ女の子を助けただけなんだけど、すごくボコボコにされたんだ。
ああ、俺は死ぬのかな。
もしこのままそっちに行ったら俺もばあちゃんの遊びにいれてくれ。
もう毎日のように楽しく遊ぼう。
「お姉ちゃんやりすぎ! というか、シキ様は私を助けてくれただけなんだよ!」
「だから悪かったって。にしてもアンタ、二十六階層にいたんじゃなかった?」
「落とし穴にハマっちゃったの! 回復に集中するからちょっと黙っててっ」
〈シキも難儀よのぉ。羨ましくもあるが、ちと遠慮しようか〉
「戻ってきてシキ様! 死んじゃダメぇー!」
そんなこんなで俺は助けた少女の魔法によって生命を取り留めた。
まさか死にかけるまでクリスに殴られるとは思わなかったよ。
「ごめんねシキ。妹が暴漢に襲われてるって思っちゃったからつい殺しかけちゃった」
「一応、俺の話を聞いてから殴る判断はしてほしかったなッ。あとお前の笑顔、すごく怖いんだけど気のせいか!?」
「気のせい気のせい。あ、でも本気で襲ってたんなら死んだほうがマシって思える拷問はしちゃうかなっ♡」
「怖いんだけど! 何されるか考えたくないぐらい怖いんだけど!」
誤解が解けてよかったと思う。
ああ、心の底からそう思えるよ。
何にしてもひどい目にあった。
ひとまず何があってもこの子とはできるだけ関わらないようにしよう。
そう思っていると、クリスの妹である少女がこんなことを告げてきた。
「あ、自己紹介が遅れました。私の名前はニルフィと申します。お姉ちゃん、いえクリスとは双子で妹という家族関係でございます」
なんだかえらく丁寧な自己紹介をされた。
というか、この子とクリスは双子だったのか。
確かにどっか似ているな。
目元は違うが髪の色は同じ赤だ。
性格は、たぶん違うがなんか似てる気がする。
「それはどうも。ところで、なんでさっきから俺のことを【様】ってつけて呼ぶんだ? というか名前を教えたっけ?」
「それはですね――」
「ストーップ! それ以上はプライベートに関わるわ」
「ハァ?」
「アンタは私生活を根掘り葉掘り聞くのかって言ってるのよ。だいたい私達とアンタは出会ったばかり。なのに踏み込んだことを聞くのは失礼じゃない!」
「いや、踏み込むも何も俺はどこで名前を――」
「とにかく、話は終わり。わかった?」
ふーむ、なんだかよくわからないがここは引き下がったほうがよさそうだな。
たぶん、都合の悪いことがあるんだろう。
「わかった。そのうち聞かせてもらうよ」
俺がそう言葉を口にすると、クリスは安心したような微笑みを浮かべた。
さて、なんやかんやでメンバーが増えたし、ダンジョンのトラブルを突き止めに行こうか。
にしても、どこでどうして外部との転移ができなくなったんだ?
ヒントも何もないから、どこを当たればいいか見当がつかないな。
「だ、だずげでぇぇぇぇぇ!!!」
そんなことを考えていたら空から妙な声が聞こえた。
見上げるとそこにはまさに俺へ落ちてきているサルの姿がある。
一生懸命にどうにかしようと手足をバタつかせているが、そんな抵抗は虚しく俺へ落ちた。
「うぎゃ!」
「きーっ!」
いてぇ……ったく、今日はなんて日なんだよ。
クリスに殴られたと思ったら今度はサルが落ちてきたし。
「きーっ! 痛い、痛いけど生きてる。でも痛い! きーっ!」
サルは悶絶していた。
まあ、結構な高さから落ちてきたから痛いんだろう。
俺も痛かったし。
いや、それよりもこのサルなんか喋ってるな。
なんというか、あのブッチーみたいに流暢なんだが。
そんな風にサルの様子を見ているとニルフィが駆け寄ってきた。
「大丈夫ですか、シキ様?」
「うん? まあ、一応は」
「痛みはあります? よろしければ回復を」
「いや、大丈夫だけど。むしろ俺より痛がってるサルを回復させたほうが」
「痛かったんですね! なら今、回復させますね!」
「え? いや、俺は大丈夫だからサルを」
「ダメなんですか? イヤなんですか? 私の愛を、受け止めてくれないんですか?」
「回復魔法だよね? なんか重苦しくなってない!?」
なんだこれ、すごく重たい何かを感じるんだが。
というか話が進んでない?
そんなバカな話があるのか?
「お姉ちゃーん! シキ様が、シキ様が私の愛を受け止めてくれないよぉー!」
「あー、はいはい。それは困ったわね。よし、わかった、今からボコボコにしてくるわね」
「やっべ! すげぇー頭が痛いな! もう頭痛が激しすぎて痛くて堪らないんだけど!! 痛いなぁー痛いなぁー痛いなぁー!!!」
「きゃー! お姉ちゃんありがとう! 私の愛を受け止めてシキ様ぁー!」
「オイラを無視しないでくれよ! きーっ!」
とまあ、そんなこんなでニルフィの扱いに困りつつも俺達は空から落ちてきたサルを助けた。
サルいわく、「本当に死ぬところだった。きーっ!」と文句を言っていたが聞かなかったことにする。
「ところでお前はなんだ? なんか喋れるし、もしかしてブッチーの仲間か?」
「そうだ、オイラは【よろずザル】のキッキーだ。いつかブッチーみたいに外に出て商売するのが夢だ。きーっ!」
「じゃあそんなお前がどうして空から落ちてきたんだ?」
「変な奴にやられたんだ。きーっ!」
「変な奴?」
「そうだ。そいつは突然現れてオイラが住む【よろず村】を占拠したんだよ。当然、納得できないオイラと仲間達は抵抗したんだけど、妙な魔法を使われたんだ。そしたらいつの間にか空にいて、アンタに落ちたって訳だ。ホント痛かったよ。きーっ!」
変な奴が現れて妙な魔法で別の場所に飛ばされた、か。
どのくらい今回の騒動に関わりがあるかわからないが、何かしらありそうだな。
〈サルよ、その変な奴はどんな姿をしていた?〉
「キッキーだ。そうだな、なんか大きな本を持っていたぞ。あと自分のことをこう名乗っていた――【厄災星のガラン】ってな」
厄災星のガラン――その名前を聞いた瞬間、アルフレッドの顔が僅かに険しくなった。
俺はその変化に気づき、アルフレッドにそいつについて訊ねようとする。
しかし、その前にキッキーからこんな頼みをされてしまった。
「アンタ、冒険者だろ? 頼む、オイラ達の村を助けてくれ! あんなのがいたら安心して商売なんてできない。だから、頼む! きーっ!」
ダンジョンで起きた騒動に関係するのかわからないが、何かしら関わっていそうな気がする。
それに、アルフレッドのちょっとした変化も気になるしな。
「わかった。案内してくれ」
「ありがとう! きーっ!」
こうして俺達は三階層にある【よろず村】へ向かうことになった。
トラブル解決のため、そして俺個人の気になることのためにも【厄災星のガラン】と対峙することを決意する。
それがアルフレッドの過去を知る事件に変わるとは思いもしないまま、俺達は出発するのだった。
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