★10★ 運命の交差

 ダンジョンで原因不明なトラブルが起き、転移ができなくなったと受付嬢のネルさんから知らされ俺達が原因を突き止めることになった。


 まあ、アルフレッドのこともあるし、こいつのランク上げのためにも着実にダンジョンを昇ろうと思う。


 それはそうと、なぜだかわからないがダンジョンの景観が変わっている。

 いつもなら緑が生い茂る密林が広がっているはずなんだが、今はなぜか全体的に黒ずんでいる。


 不思議と木々に覇気がなく、なんだか薄暗い。


〈ふむ、なんだか様子が変わったのぉ。時間が変わるとこうなるのか?〉

「いや、そんなはずないが。なんだか様子がおかしいっちゃおかしいな」


 俺達は妙な感覚を抱きながらもダンジョンを進むことにする。

 確かにネルさんが言ってた通り、ダンジョンで何かが起きてそうだ。


 そんなことを考えていると奥の方で妙な輝きが目に飛び込んできた。


「あれは、魔法の光か?」


 見た感じ、温かな光だから回復魔法かな。

 いや、そんな分析している場合じゃないぞ。


 魔法を使ってるってことはそこに冒険者がいるってことだ。

 しかも連発しているから、もしかすると何かと戦っているんじゃないか?


「アルフレッド、行くぞ!」

〈おお、行こうぞ! ワシのセンサーがビンビンじゃしな!〉

「何に反応してるんだよ、お前?」


〈わからんのかお前は!? あそこにいるのはレディーじゃ! つまり、助けたらウハウハなんじゃ!〉

「何がウハウハなんだよ! とにかく行くぞ!」


 このバカを連れてきたのは間違いかもしれない。

 そんなことを思いつつ、俺は戦闘が行われている森の奥地にやってきた。


 そこは数多のゴブリンが倒れており、どれもが魔法による火炎に焼かれたのか黒焦げになっている。


 このゴブリンと戦っていた冒険者はなかなかの使い手みたいだ、と思っているとアルフレッドが〈あっちじゃ!〉と叫んだ。


「グギギギギギャアアアァァァァァッッッ」


 そのゴブリンを見た俺は目を大きくした。


 忌々しい顔には妙に禍々しい黒ずみが蠢いており、持っている棍棒までもが蠢く黒に飲まれている。

 目は赤く光っており、普段見ているゴブリンとは違っていた。


 そんなゴブリンは魔法による火炎弾を真正面から受けていた。

 しかし、おかしなことに火炎弾はゴブリンの身体を爆散させない。

 それどころか身体を飲み込んでいる蠢く黒が全ての攻撃からゴブリンを守っていた。


「なんだこれ……?」


 何かがおかしい。

 そう、何かがおかしいんだ。

 それは何なのかわからないが身の危険を知らせるほどの何かである。


 こんな奴を相手にしていいのか?

 そもそも勝てるのか、このゴブリンに。


〈何をしておるシキ!〉


 アルフレッドに叫ばれ、俺は正気に戻る。


 どのくらい呆けていたのかわからないが、いつの間にかゴブリンと戦っていた少女が膝をついていた。


 さすがにマズい。

 ダメージがデカいのか少女は逃げようとする素振りすら見せていないぞ。


〈シキ、これを読め! 男を見せろ!〉


 アルフレッドが俺の手元にやってくる。

 パラパラと開いたページにはあの時とは違う文字が並べられていた。


 やるしかない。

 やらなきゃあの子が殺される。


「冷たい微笑みは君からのプレゼント――」

「刺すような視線は情熱の証――」

「君を見るたびに心は燃え上がる――」

「冷徹な君の心を熱くするためにこの言葉を贈ろう――」

「咲き誇れ――アイスアイズ!」


 俺はポエムを読み切り、魔法名を口にすると途端にアルフレッドが飛んだ。

 そのまま少女の盾になり、棍棒で攻撃を受けると同時に氷刃が咲き誇る。


 火炎弾を弾いていたゴブリンだが、アルフレッドの魔法には敵わなかったのかそのまま身体を切り刻まれてしまう。

 カウンターを受け、右手足を失ったゴブリンは立ち上がろうとしていたが、何かをされる前に俺がトドメを刺す。


「ふぅー」


 その首に剣を突き立て、生命を刈り取るとゴブリンはちゃんと事切れてくれた。


 一時はどうなるかと思ったが、なんとかなってよかったよ。

 そう思い、胸を撫で下ろしていると妙な声が聞こえた。


『オノレ、アルフレッド。また邪魔をするのか』


 悔しそうな言葉は、禍々しい黒ずみが消えると同時に空間へ飲み込まれていった。


 俺はひとまずゴブリンが死んだことを確認する。

 ちゃんとトドメを刺せたみたいだ。

 これでひとまず安心できるか。


〈へい、レディ! 大丈夫か? ケガはないかいのぉ? もしケガしてるならワシがチューチューして治してやるぞ〉


「シキ様ぁー!」


 俺が周辺の警戒を解こうとした瞬間、膝をついていた少女がいきなり胸へ飛び込んできた。

 思いもしないことに俺は対応できず、そのまま少女を受け止めて倒れ込む。


 なんだ、いきなり何なんだ?

 強烈な痛みを背中に感じつつ、お腹の上にいる少女を見ると彼女はなぜか目を潤ませていた。


「あぁ、まさかこんな日が来るなんて。やはりあの日の出来事は運命だったんですね!」

「はぁ? 運命?」

「あぁ、あぁ、あぁ! つまり私の運命の人はシキ様。ですが私は御身を神に捧げた者。結ばれるなんてできません!」

「なぁ、さっきから何言ってんの?」


「そうです! シキ様が神様になればいいのです。そうすれば私はシキ様のも・の! あぁぁぁぁぁ、そんなのいけませんわ!」

「ちょっと聞いてる? 俺を無視しないでくれる!?」


 なんだかわからないが、こいつやべぇー奴だ。

 関わったのは間違ってたよ。


〈なかなかに強力なレディじゃ。シキよ、今回はお主に譲ろう〉

「譲らないでくれ! というか助けろ!」

〈え? ワシは本だし〜。それにどうやって助けろと〜〉

「後で覚えてろよ、アルフレッド!」


 とにかくこの子を退かさないと。あと冷静にさせないと話が進まない。

 くそ、誰だよこいつを助けようって言い出したのは。


 そんなこんなで過去の自分を恨みつつ、俺は少女を退かそうとした。

 しかし、退かそうと頑張っていたら今度は俺が少女の上に乗る形になってしまう。


「わ、悪い!」

「いいです。このまま私はあなたのたくましい腕に包まれるのですね。そして一つに――」

「何言ってるんだよ。そんなことならないから――」


 俺がどうしようもない少女にツッコミを入れようとした瞬間だった。


 何か冷たい視線が突き刺さる。

 首を回してみると、そこには怒りに包まれながらも蔑んだ目をしたクリスの姿があった。


 あ、これヤバいかも。

 俺は瞬時に身の危険を感じ、少女から離れようとした。


 だがその瞬間、クリスは叫ぶ。


「最っ低ッッッッッ!!!!!」


 その叫び声を聞いた瞬間、クリスの後ろに大きな鎌を持った死神が見えた。


 怒りのあまりだろうか。

 それとも俺の死期が近いんだろうか。


 どちらにしても、俺は観念するしかない。


「待て、違うんだ。誤解だから、話せばわかるから――」

「問答無用!!」


 どうしようもないまま俺はクリスに捕まる。

 そしてどうすることもできないまま鉄拳制裁を受ける羽目になった。


「アギァアァァァァァ!!!!!」


 世の中は無常だ。

 なんで俺がこんな目に合わなきゃいけないんだよ、トホホ……

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