★9★ ダンジョンに降りかかる厄災

 王都へ戻ってきた俺達はよろずネコ【ブッチー】からワイバーンの魔石をテイオウグモの魔石と交換することで手に入れた。


 これであのクソ貴族リヒトからレオナードを守ることができる!


 そう思い、すぐにレオナードがいる鍛冶屋へ戻ろうとした時のことだった。


「あ、シキさん! それにクリスさんも!」


 誰かが俺達を呼び止める。

 振り返るとそこには息を切らし、膝に手をついている受付嬢のネルさんがいた。


「どうしたんですか? そんなに血相をかいて」

「何かあったの? あ、もしかして問題が起きたとか?」

「そ、そうなんです! その通りなんです。問題が、起きたんです!」


 俺とクリスは思わず頭を傾げる。

 そんな俺達を見てか、ネルさんはこんなことを言い放った。


「ダンジョンが、大変なことになったんです!」


 その言葉に俺達は状況が理解できずにいた。

 ダンジョンが大変なことになった、とはどういう意味なのか。

 わからずにいると、クリスが真っ先にこんなことを訊ね始める。


「どんなことが起きたの?」

「その、ダンジョンに繋がる転移装置が使えなくなりました」

「入ることも戻ることもできないの!?」

「はい。ただダンジョン内の階層移動に使う転移床は問題なさそうではありますけど」


 それはつまり、簡単に入ることも戻ることもできなくなったという話か。

 それだけなら問題ないように思えるが。


「問題なのは【帰還の羽】が使えないということです。もし、危機的状況に陥ってもアイテム使って緊急離脱ができないんですよ」

「それはヤバいな」


 アイテムによる転移もできなくなったのか。

 もし中で窮地に陥って逃げようとしてもそれができない。

 下手したら生命を落とす可能性が非常に高いって状況か。


 ならこの話は俺達にするより、もっとランクの高い冒険者にしたほうがいいと思うんだが。


「もっとランクの高いパーティーはいなかったのか?」

「それが、ほとんどのパーティーが今ダンジョンに入ってまして事態に気づいても解決するには時間がかかります。それに、ギルドのほうでもどうしてこんなことになったのかわからなくて……」


「つまりすぐ動けるのは俺達ぐらいで、この事態についての情報はないってことか」

「はい……」


 だいぶ困り果てているみたいだ。

 まあ、なんやかんやでネルさんには世話になってるし、事態も事態だ。


「わかりました。引き受けますから報酬はずんでください」

「本当ですか!? ありがとうございます!」


 全く、俺はおひとよしだな。

 隣で見守っていたアルフレッドが〈それでこそシキじゃ〉とかなんとかとかといって調子のいい言葉を口にしているし。


 まあ、悪い気がしないからいいけど。


「そんじゃあ行ってくるか」

〈ワシも力になってやるぞ!〉

「へいへい、期待するから頑張ってくれ」


「なら私も一緒に行くわ。アンタ達だけじゃ不安だしね」


 俺達と一緒についてこようとしてきたクリスを見て、俺は止める。

 大丈夫だ、ということを伝える代わりに先ほど手に入れたワイバーンの魔石を手渡した。


「お前はこいつをレオナードに届けてくれ。あいつを守るためにやってた勝負だしな」

「でも――」

「絶対に帰ってくるよ。そんじゃあ、レオナードによろしくな」


 こうして俺達はダンジョンで起きたトラブルを解決するために出発した。

 そこに待ち受けている大きな因縁に巻き込まれるなんてことを知らずに――


〜クリス視点〜


 ハァ、カッコつけちゃって。

 これだから男ってバカよね。


 でも、不思議。

 あんなバカな二人なのにどうにかできそうって思えてきちゃう。


「クリスティア様」


 そんなことを考えていると、様子を見ていた受付嬢が私の名前を呼んだ。

 あろうことか、みんなには知られたくない名前で。


「そう呼ぶのはやめてくれない?」

「申し訳ございません。ですが、事態が事態でございまして」

「なら勿体ぶらないで。さっさと話してくれない?」


 一体どうしてそんな深刻な顔をしているのだろうか。

 私はその深刻な事態というものを聞くと、それは確かにとんでもないものだった。


「ニルフィーナ様がダンジョンに入っております」

「あの子が!? 何階層に行ったの?」

「出発した時は二十六階層だったはずです。そこから進んだのかはわかりませんが」

「誰と一緒にいるの?」


「いつものみなさまと一緒のはずです。死ぬことはないかと」


 いつものみんなと一緒。ならたぶん大丈夫だと思うけど、何が起きるかわからないのがダンジョン。

 それを知りつつも、この子はシキがいる前で話さなかった。


 自分の立場が忌々しいわ。


「わかった。あなたは万が一のことがあったら応援を呼んで」

「はい。ではクリスティア様も一緒に――」

「私はダンジョンを昇るわ」

「え? で、ですが今のダンジョンは危険――」


「ギルドの規則に則って対応しなさい。それに私は冒険者よ。わかった?」

「失礼しました。わかりました、ではお気をつけて」


 さて、シキを追いかけなくちゃいけない理由ができたわね。

 あ、そうだ。このワイバーンの魔石をどうしようかな。


 そうね、ここにちょうどいい人がいるわ。


「ネル、頼みたいことがあるんだけどいいかしら?」

「なんでしょうか?」

「この魔石、レオナードに届けてくれない? あ、一応クリスからの届け物って伝えておいてね」

「ハァ……わかりました」


 さて、これで抜かりなし。

 ニルフィを助けるためにもシキを追いかけなきゃ。


 私は私の目的のためにダンジョンへ突入する。

 そこでまさかの光景が待っているなんて思いもしないまま。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る