★5★ 思いもしないクエスト報酬

 俺達はテイオウグモと戦う羽目になったものの、どうにかこうにかダンジョンに迷い込んだ子どもを見つけ出すことに成功した。

 正確には全然違うんだが、まあそういうことにしておいてくれ。


「ママー!」

「アイシャ! もう心配したわよ!」

「ごめんなさい。もうダンジョンに入らないからー!」


 まあ、何があってダンジョンに入ったのかわからないが、無事に再会できてよかったな。

 何はともあれ、これでクエストは見事に達成ってところか。


「ありがとうございます、ありがとうございます!」

〈何々、礼には及ばんよ。アイシャちゃんよ、無事にママと会えてよかったの〉

「うん! ありがとね、本のおじちゃん!」


 助けた女の子に礼を言われてアルフレッドは満足そうだ。

 まあ、あいつのことだから無茶な約束をしそうだけどな。


 それにしても、あの光景が気になる。

 魔法を発動させるためにアルフレッドの記憶を読んだ瞬間、垣間見えたあの少女は何だったんだろうか。


 アルフレッドが何も教えてくれないから余計に気になる。

 もしかしたらあいつにとって触れられたくない出来事なのかもしれないな。


 そんな風に考えごとをしていると、娘との再会を喜んでいた女性が俺に声をかけてきた。


「あ、あの、もしよろしければなんですがお礼をさせていただけませんか?」

「礼って、生活が大変で困っているんだろ?」

「はい。お金は確かにあまりないんですが、それに匹敵する人を知っています」

「どういうことだ?」


「私の妹、といえばいいでしょうか。鍛冶師をしていてとても珍しい武器を作っているんですよ。ただ、こだわりが強すぎて私と同じように家計が厳しいと言っていますけど」


 なんだか不憫だ。

 姉であるこの人もだが、妹の鍛冶師もかわいそうに思える。


「ちなみにどんな武器を作っているんだ?」

「確か【魔剣】って言ってましたね。すごく強いけど作るのが大変だって」


 魔剣、魔剣だと!

 それってとんでもない鍛冶師じゃないか。

 もし話が本当ならこれはとんでもないチャンスだ。


〈ほう、魔剣とな。あれは確かに強力だがデメリットも大きかったはずじゃが〉

「見に行く価値はあるさ。もし手に入れば百人力どころの話じゃない」

〈うーむ……〉


 アルフレッドはなんだか気が進んでいない様子だが、それでも俺は教えられた町外れの森へ向かった。

 待っていろ魔剣の鍛冶師。絶対にいい魔剣を手に入れてやるぜ。


★★★★★


 ギャーギャーと響き渡る鳥の声。

 ゲコゲコとカエルが森に足を踏み入れた俺達を歓迎し、湖畔へと飛び込んでいく。


 ここは王都から程よく離れた場所にある森だ。

 名前は確か【ルナルーアの森】って呼ばれていたな。


 なんでそんな名前がついているのか詳しくは知らないが、大昔にこの森を支配していたモンスターがおり、それを倒したのが偉大なる魔法使いだったそうだ。

 その魔法使いの名前から名づけられたらしい。


 本当かどうかわからないが、今も昔の名残があって結構希少なアイテムが手に入るらしい。

 まあその分、危険なモンスターも闊歩している場所でもあるんだが。


 しかし、そんな場所に拠点を構えるなんて鍛冶師は頭がおかしいと思える。

 何かしら理由があると思うけど、普通に危険だから特別な理由がない限り住みたいとは思わないな。


〈しかし、クリスちゃんとはもっと話をしたかったのぉ〉

「お前の魔法でどうにかなったとはいえ、ヤバい状態だったんだ。すぐにギルドへ運ばないと死んでたっての」

〈それはそうなんじゃが……〉

「何か気があれば向こうから来る。ま、今は周囲の警戒をしてくれ」


 ダンジョンから脱出した後、俺達は迷子の女の子を送り届ける前にクリスをギルドへ運んだ。

 仕方なかったとはいえ、クリスにとんでもない無茶をさせてしまったからな。

 いの一番に生命の心配をしてギルドへ運んだって訳だ。


 治癒師いわく、体力を使いすぎて寝ているだけと言っていたが、当然のように俺達は怒られた。

 当たり前といえば当たり前だ。

 冒険者とはいえ、女の子に無茶をさせまくったんだからな。


 ま、その後のことはちゃんとやっておいた。

 たぶん、目が覚めた時にはあいつの仲間が駆けつけているだろう。


「ま、次に会う時はビックリさせてやろうぜ。俺は魔剣を手に入れて、お前はランクを上げまくっている状態にするんだ」

〈シキよ。先ほどから魔剣のことばかり話すがそんなに欲しいのか?〉

「まあな。強力な武器があればダンジョン攻略も捗るだろ」

〈確かにそうじゃな。だが、それは基礎基本ができているならばじゃ。しっかりとした土台がなければただ力に振り回されるだけじゃぞ〉


「わかってるよ、そんなの。前に経験した」


 アルフレッドが言いたいことはわかる。

 それに、力に振り回されて痛い目に合ったこともあるさ。


 だけどそれでも、魔剣が欲しい。

 ダンジョンを完全攻略するには今の武器じゃダメだ。


 ランクアップして貴族御用達の武器を手に入れてもいいが、俺はもっと早く攻略したい。

 そのためにも魔剣が必要なんだ。


〈そうか。ならこれ以上は言わん〉

「ありがとよ。それにしてもなかなか拠点につかないな。教えられた通りならそろそろ着くはずなんだけど」

〈あれがそうじゃないか?〉


 アルフレッドに言われ、視線を奥へ向ける。

 そこには一つの建物があった。


 本当にここに住んでいるんだ。

 俺は驚きつつも喜んで建物へ駆けていった。

 間近で見ると、レンガで壁が覆われている建物で、鍛冶師がよく使うカマドもある。


 何気なく周囲へ視線を向けると無造作に置かれた剣や槍、戦斧などがあった。

 試しに置かれていた武器を手に取ってみるが、特に何も起きない。

 おそらく何の効力もない武器なんだろう。


〈出来はいいが、特別な力は感じないのぉ〉

「やっぱりか。もしかしたら失敗作か?」

〈失敗作とも思えんが。話を聞いたほうが早いかもしれんのぉ〉


 武器としてはおそらく満点といえる出来栄えだが、魔剣としては零点といえる出来損ないだ。

 どうしてこんなものがあるのか。

 気になったのなら直接聞いてみるのがいい。


 ということで俺達は鍛冶師を探すことにした。

 とりあえず建物の中へ入ってみよう、と提案し入ってみる。


 すると、すぐに探していた鍛冶師を発見した。


「う、うぅ……」


 まるで何かに襲われたかのように玄関先でうつ伏せになって倒れている。


 おいおいおい、どうしたんだよ鍛冶師!

 まさか野盗が入ってきて襲われたのか?


〈シキ、中を警戒しろ! ワシはこのレディーを介抱する!〉

「わかった!」

〈安心しろレディー。このワシがいるから死なせはせん! まずは仰向けにして――〉

「おい、アルフレッド。中には誰もいないぞ」


〈よく探せ! もしかしたら裏口から逃げたかもしれんぞ!〉

「わかった、行ってくる」

〈よし、それじゃあ呼吸が楽になるように服を脱がせて――うひょー!〉

「おい、やっぱりいないぞ。って、何やってるんだお前?」


 アルフレッドは興奮していた。

 なぜなら、鍛冶師が思っていた以上に豊満な胸をしていたからだ。


 なんでそんなことがわかったかって?

 簡単さ。俺の目に女の子の服を脱がそうとしているアルフレッドの姿が入ってきたからだ。


〈呼吸を楽にさせるためにやってるだけじゃ。それより本当におらんかったのか?〉

「いなかったよ。いたとしても逃げたんじゃないか」

〈そうか。まあ、どちらにしろ介抱せんとな。それじゃあ次はズボンを――〉

「ちょっと待て。それはさすがにマズくないか?」


〈バカモン、何を言っておる! 服を着たままでは身体に負担がかかるから脱がせるんじゃ! 全くこれだから近頃の若モンは。大変お盛んなもんじゃ!〉

「お前には言われたくないわ! ったく、なら手伝ってやるよ。えっと、ズボンを脱がせばいいのか?」


 俺はアルフレッドの指示を受け、服を脱がせようとした。

 だがその瞬間、ガチャリという音が耳に入ってくる。


 顔を向けるとそこには、ブランケットを左手に下げたクリスの姿があった。


「…………」

「…………」

〈…………〉


 無言で俺達はクリスを見つめる。

 クリスもまた俺達を見つめる。


 いや待て、これヤバくないか。

 だって端から見れば俺達は抵抗できない女性の服を脱がせようとしているんだ。

 それはつまり、クリスから見てもそう見えるってことだよ。


「な、何をしてるんじゃアンタ達はぁぁぁぁぁ!!!!!」

「うおぉぉぉぉぉ!!! 誤解だぁぁぁぁぁッッッ!!!」

〈ただの人命救助じゃ! ぬわぁぁぁぁぁッッッ!!!〉


 こうして俺達はクリスにボコボコにされた。

 ちなみに倒れていた鍛冶師の女性はただお腹を空かせすぎて動けなくなっていただけらしい。


 それならそうと言ってくれ。

 おかげでひどい目にあったじゃないか。

 トホホ……

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