★6★ 試作品の魔剣
すごくひどい目に合った……ぶたれすぎてどこが頬なのかわからないんだけど。
まさかこんなところでクリスと再会するとは。というかここは王都から離れた森だぞ。
さっきまでクリスは瀕死だったのにすっかり元気になっているし、どうなっているんだよ。
「ったく、変なことをしてるから殴っちゃったじゃない。助けようとしてたなら早く言ってよ」
〈最初から言っていたんじゃが……〉
「日頃の行いが悪かったんじゃない? アンタってスケベそうだし」
アルフレッドがぐぬぬっと唸った。
まあ、クリスの指摘はあながち間違ってないから、言い返せないのも仕方ないだろう。
「それよりクリス、お前どうやってここに来たんだ? さっきまでヤバかったはずだろ」
「何時間前のことを言っているのよ、アンタは? 身体の疲れや傷は妹の魔法で回復してもらったのよ。あとここ、転移石が置かれてるから登録さえしていればすぐに移動できる場所だから」
「え? マジ?」
というかクリスに妹がいたのか。そっちの情報のほうが驚きなんだが。
「ま、私は預けていた剣の手入れができたって連絡を受けたから来たんだけどね。いつも通りなら頑張りすぎて倒れていると思ったからパンを買ってきたんだけど」
「そうなのか。俺達はてっきりこの人が何かに襲われたのかと思ったよ」
俺が素直に勘違いしたことを話すと、静かに会話を聞いていた鍛冶師の女性が大笑いをした。
それはなかなかに豪快なもので、恥ずかしさよりも照れを感じてしまったよ。
「いやー、悪いね勘違いさせちゃって。アタシ、武器のことに集中すると何もできなくなっちゃうタチでさ。ご飯を食べることすら忘れちゃうのよ」
「気をつけてよね、レオナード。前にも同じことがあったじゃないの」
「だから謝ってるじゃんか。ホントごめんねー」
鍛冶師レオナードはちょっと申し訳なさそうな顔をしつつ笑っていた。
クリスの言葉を信じるならば、この人は前も同じように倒れていたんだろうな。
いや、この感じだとしょっちゅう倒れていそうな気がする。
ある意味、この人は大丈夫なのか?
「それよりも冒険者くん。君はどうしてここに来たんだい?」
「シキといいます。俺達はあなたのお姉さんの紹介を受けてここに来ましたよ」
「姉ちゃんに? 何があったんだい?」
俺は素直にクエストの内容について話した。
あ、カッコ悪いことはできる限り隠してだけどな!
「なるほどねー。あの子もヤンチャができるぐらい大きくなったんだ」
「まあ、どうにかこうにか見つけて助けましたよ」
「それは迷惑をかけたね! あ、よかったら武器を見ていくかい? 姉ちゃんを助けてくれた礼を兼ねて安く提供してあげるよ」
「いいんですか!?」
「いいよいいよ。あ、でもランク相応になっちゃうかな。できるならいいのを見せたいんだけど、ギルドが規定を守れってうるさく言ってくるからねー」
「いえいえ、十分ですよ」
こうして俺は鍛冶師レオナードの武器を見せてもらうことになる。
彼女は基本、オーダーメイドで武器を作ってくれるそうだが生活するために作り置きしている武器があるそうだ。
見てみると、どれも一級品といえるものばかり。
特にミスリルでできたロングソードはすごかった。
一応、格安価格を聞いてみたが、とんでもない価格だったため当たり前のように俺は諦める。
「うーむ……」
何の効果もないとはいえ、一級品のロングソードですら買えないとは。しかも格安になったのに。
これじゃあ魔剣なんて夢のまた夢の話だ。
まあ、ランク35の俺じゃ魔剣を手にするのは厳しいってことか。
「どうしたんだい? もしかして期待外れだったかい?」
「いえ、どれも一級品で目を奪われますよ」
「ならどうしてそんな浮かない顔をしているんだい?」
〈こやつは魔剣が欲しいじゃよ〉
「お、おいアルフレッド」
〈じゃが、ただの一級品で手が届かないから悶々としておるのじゃ。これだから思春期のガキは盛んでいかん〉
「誰が思春期のガキだ。年中発情しているようなお前に言われたくないわ」
〈なんじゃとー!〉
俺はアルフレッドといがみ合う。
そんな俺達をクリスは呆れたような顔をして頭を左右に振る。
まあ、アルフレッドの言う通り諦めきれなくて悶々としているのは確かだ。
しかし、格安価格になって買えないとなると諦めるしかない。
「魔剣ねー。ランク35だと提示できるものは――あっ」
唐突にレオナードが何かを思い出したかのように部屋の奥へ走っていく。
どうしたのだろうか、と思って見つめていると彼女は何かを抱えて部屋の奥から戻ってきた。
「シキくん、君のランクでは商品として提供できる魔剣はない。ただ、そうでない魔剣なら譲り渡せるよ」
「どういうことですか?」
「試作品ってことさ。腕を磨くためにアタシは魔剣を作ることがあるんだ。といっても実験するみたいなものだから大抵は使いようがない。だけど、そんな試作品の中でまともな魔剣を提供してあげよう」
レオナードがそういって見せてくれたのは一つの短剣だった。
剣身は真紅に染まっており、見るからに危ない雰囲気が漂ってくる。
「これは魔剣。名前はそうだね、シュラってつけようか。モンスターやトラップなどによってダメージを受ければ受けるほどとんでもない攻撃力を発揮する魔剣さ」
「へぇー! それはすごい」
「ただし、ダメージを受けていないと効果を発揮しない。死にかければ死にかけるほど強くなるけど、元気ならただの短剣、いや状態によってはナマクラになってしまう代物さ」
つまり、自分の生命と引き換えに攻撃力を高めてくれる魔剣か。
とんでもない諸刃の剣だな。
でも、これは使いようによってはとんでもないバケモノになるぞ。
「いくらですか? これ、欲しいです」
「タダであげるよ」
「え?」
「それは試作品の中でもまともなほうだけど、商品としては微妙さ。そもそも性能がイマイチ。いつかは処分しようと考えていたんだけど、一応魔剣だから取り扱いに困っていたんだよ」
「だからってタダってのは――」
「じゃあもっとランクを上げたら新しい武器を買ってくれ。それで交渉は成立だよ」
参ったな、そんなことでいいなら交渉を飲むしかないじゃないか。
「わかりました。頑張ってダンジョン攻略して、またここに来ます」
「よし、じゃあ交渉成立だね」
こうして俺は【魔剣シュラ】を手に入れた。
まさかお金を使わずに欲しかった魔剣を手に入れられるとは嬉しい限りである。
「さて、帰るか」
〈やれやれ、今日はそろそろ休みたいわい〉
「何言ってるんだよ。これからダンジョン攻略だ」
〈勘弁してくれ、シキー〉
俺はレオナードに礼を言い、意気揚々に王都へ戻ろうとした。
だが、外へ出ようとしたその時にドアがひとりでに開かれる。
なんだ、と思って視線を上げると、そこには面倒臭い奴が立っていた。
「これはこれは。誰かと思えば底辺冒険者じゃないか」
豪華なマントに身を包み、ブロンズの髪をなびかせ淡麗な顔しているにも関わらずヘドが出そうな笑顔を浮かべている男。
俺を理不尽にパーティーから追い出した後見人の貴族【リヒト・リンベル】が目の前に立っていた。
俺は思わず顔を歪めると、リヒトは楽しそうな笑顔を浮かべる。
「一人になった気分はどうだい、シキ・ウォーカーくん?」
やれやれ、なんでこんな場所でこいつと鉢合わせるんだ。
今日はある意味、ついてないぜ。
そう思いつつ、面倒な奴とのご対面に俺は盛大なため息を吐き出したのだった。
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