★3★ どこまでもトラブルは続く
アルフレッドのせいで俺はとんでもないモンスターと戦うことになった。
そのモンスターとは【テイオウグモ】という名前で、猛毒を持つ恐ろしい奴だ。
口には猛毒を流し込むために鋭くなった牙があるし、クモ特有の粘着力がある糸を使うからとても厄介である。
本来ならもっと上の階層にいるテイオウグモなんだが、まあ対峙してしまっては仕方がない。
俺は剣を抜き、臨戦態勢を取る。
それを見たテイオウグモはそんな俺を見てすぐに身体を上昇させ、姿をくらませた。
〈むっ、逃げおったか?〉
「んな訳あるか。気を引き締めろ。来るぞ!」
俺は周囲を警戒しながらテイオウグモの攻撃に備える。
あいつの攻撃方法は確か、カモフラージュを織り交ぜての死角からの襲撃だ。
マズいことにここは草木がこれでもかってぐらいに生い茂っている。
つまり、あいつにとって攻撃し放題の土壌でもあるんだ。
どこから攻撃が来るかも予測が立てにくい。
ホント嫌になるな。
――ザザッ。
唐突に後ろから迫る音が聞こえた。
思わず振り返るが、そこにあったのは木の枝だ。
――ザザッ。
また音がした。
反射的に振り返ると今度はポーチが落ちている。
もしかしたらテイオウグモにやられた冒険者のものかもしれない。
――ザザッ。
三度の音が響く。
俺は反射的に盾を突き出すと、途端にガチンッという音が響くと同時に身体が後ろへ滑る。
振り返るとそこにはテイオウグモがおり、何やら楽しそうに牙をカチカチとぶつけ笑っていた。
「コノヤロー!」
俺は剣を振るが、テイオウグモには難なく躱されてしまう。
そのままテイオウグモはまた姿をくらませ、どこかへ隠れてしまった。
それと同時に何かが落ちてくる。
よく見るとそれはクモの糸でグルグル巻きにされた人間だ。
動かないからたぶん死んでおり、よく見ると噛まれた箇所がたくさんある。
「あいつめ」
テイオウグモは知能が高い。
これをわざわざ見せつけたということは、俺を挑発してるってことだろう。
お前もいずれこうなるってな。
〈なかなかに酷いの。これぞ弱肉強食じゃのぉー〉
「のん気なこと言ってる場合か。どうにかしないとこの死体の仲間入りだぞ」
〈それは困る。仕方ない、お前にクモ取りの方法を伝授してやろう〉
そういうとアルフレッドは落ちてきたポーチに目を向ける。
何をする気だ、と思っているとアルフレッドはこんな指示を出した。
〈奴は知能が高いようだからの、あのポーチを利用するぞ〉
「利用するって、どうやって?」
〈クモは巣に敏感じゃ。獲物を逃さないためにもそうならざるを得ないといえばいいじゃろう。じゃが、自分より強い存在が現れた場合は逃げなければならん。つまり、巣から伝わる振動で相手の力量を推し量っているんじゃ〉
「でもあいつ、頭がいいぞ。それに俺を直接襲ってきた。そんな単純な手に引っかかるとは思えないが?」
〈普通はじゃな。まあ、どうにかしてやろう。ということで踏ん張れ〉
踏ん張れって。
おい、どこ行く気だよあいつは。
俺はどこかへ消えていくアルフレッドを呼び止めようとした。
しかし、その行動に隙を見出したのかテイオウグモがまた襲いかかってくる。
「くそ、どうにかしろよアルフレッド!」
どうにか噛みつき攻撃を躱し、俺は剣を振るがやっぱり躱されてしまう。
このままじゃジリ貧だ。
俺がやられるのも時間の問題かもしれない。
追い込まれていく中、テイオウグモが俺に攻撃を仕掛けようとした瞬間だった。
「ガッ?」
唐突にテイオウグモの動きが止まった。
そして俺に襲いかかることをやめ、どこかへ姿を消してしまう。
なんだ、一体どうしたんだ?
〈お、作戦成功したようじゃな〉
突然のことに俺が拍子抜けしていると、森の奥からアルフレッドが顔を出した。
よく見ると持っていったポーチがない。
「何をしたんだよ?」
〈さっきのポーチを別の巣に引っかけてきた〉
「ハ? それだけ?」
〈そうじゃ。さっきも説明したじゃろ。クモは巣に敏感じゃと。その性質を利用しただけじゃ〉
「利用しただけって、ポーチを引っかけただけじゃ獲物とは思わないだろ」
〈なぁに、それは森の恵みを利用してひと工夫したわい〉
なんか嫌な予感がするが、まあいいか。
ひとまず無駄に体力を削られずに済んだからいいことにしよう、うん。
〈それよりもレディを助けなければ!〉
「あー、そういやそうだったな」
俺とアルフレッドは天高くに存在するクモの巣を見上げる。
そこにはまだ脱出しようともがいている少女の姿があった。
一体何が起きてあんな高い場所に引っかかったんだろうか。
まあ、それは助けた後に聞くとしよう。
「助かったわ、ありがとう」
赤い髪を左サイドポニーにした少女をどうにか俺達は助け出した。
暴れ続けていたためか、全身がクモの糸でベトベトだ。
よく見ると丈の短いベストに短パン、腰には短剣を備えている。
おそらく冒険者なんだろう。
「なあ、一応聞くがどうしてあんな高いところに引っかかってたんだ?」
「トラップで落ちたの。ほら、たまにあるでしょ【落とし穴】っての。あれに引っかかっちゃったのよ」
「その落ちた先があのクモの巣ってことか」
「もう噛みつかれないようにするために大変だったわよ。動きを止めたら襲われるから、頑張って暴れたし」
テイオウグモは無駄に知能が高いから、獲物が弱った瞬間じゃないとトドメを刺さないからな。
その習性を利用したんだろう。
まあ、俺達がここに来なかったらこの少女は餌食になっていたんだけどな。
〈ケガはなさそうじゃな。ワシの心は喜びでいっぱいじゃ、レディ〉
「ありがとっ。それより、なんか不思議な本ね。もしかしてモンスター?」
〈いいや、違うさ。ワシはレディの騎士じゃ。そうじゃの、お望みとあらば夜は獣にやってやろう!〉
「それは遠慮しておくわ」
少女はアルフレッドを軽くあしらう。
しかし、アルフレッドはなんだか幸せそうな顔をしていた。
まあ、アルフレッドのことは別にいいか。
「アンタ誰かとパーティーを組んでるのか? もしよかったら合流するまで送るが」
「うーん、組んでいるにはいるけど、たぶん外に出たと思うかな。だから問題ないわよ」
「そうか。じゃあ俺達はクエストがあるからここで」
「クエスト? どんな内容よ?」
「間違ってダンジョンに迷い込んだ子どもを探しているんだ。魔法で場所を突き止めたから、そこへ向かっていた途中さ」
「魔法で? ふーん」
まあ、そんな反応だよな。
俺だって外野だったら『そんな魔法があるんだ』ってしか思わないよ。
〈そうじゃ! せっかくだからレディの名前を教えてくれ。ワシはアルフレッド。今はこんななりじゃがこれでも賢者じゃ! こっちのみすぼらしい冒険者はシキという名前じゃ!〉
「誰がみすぼらしいだ。本のお前に言われたくねぇーよ」
「仲がよさそうね、アンタ達。私はクリスよ。ま、何かの縁だしまた会ったら情報ぐらい交換してあげるわ」
こうして俺はクリスと出会う。
そしてこのまま解散し、迷子の子どもを探しにいこうとした時だった。
「ガガガガガガガッッッ!!!!!」
とんでもなく怒ったテイオウグモが戻ってきたのだ。
何やら身体の色が変わっているし、見たこともない禍々しい黒い何かを放っている。
なんでこいつ、こんなに怒っているんだよ。
「お、おいアルフレッド。お前何をしたんだよ」
〈何って、ゆらゆら揺れている植物にポーチを引っかけてクモの巣を刺激しただけじゃが?〉
「植物? それって紫色の花を咲かせてたか?」
〈そうじゃ。なかなかにキレイじゃったぞ〉
「バカヤロー! それは【アジナシアジサイ】だよ! テイオウグモが一番嫌いな花だっての!」
〈そうじゃったか。キレイだから花見でもすると思ったわい〉
「んなことするか!」
テイオウグモはなぜかアジナシアジサイが大嫌いだ。
一説には俺達が感じ取れない臭いを感じ取り、怒り出すと言われている。
まあ、今はそんなことどうでもいい。
「ガガガガガガガッッッッッ!!!!!」
「ちょ、ちょっと。完全に怒ってるわよ!」
「逃げるのは無理そうだな」
〈あんなにキレイなのに。好き嫌いはいかんぞ!〉
アルフレッドは放っておこうか。
ああ、完全に逃げられなくなったじゃないか。
どうしてくれるんだよ、これ。
こうして俺達は激怒したテイオウグモと戦うことになる。
ホントどうしてくれるんだよ、これー!
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