01 散歩

 

 中途半端な自分が嫌になる。

 自分がどうしようもなくダメなやつだと自己嫌悪に陥る時期がある。

そう、たとえばテスト週間の時とか。

 テストとは授業で学習してきた内容を覚えているかそれを試される場。でもそれ以外にも、押し伸ばしてくる誘惑の手を振り払いながら勉強できるか試される場でもある、と思う。

 どれだけ背けようとも、僕の目の前にあり続けるのだから。


 明日は期末テスト最終日。

 それだというのに、窓辺の景色が夕焼けに染まりつつあるというに、今だにセミの鳴き声が鳴り止まないことにイラつきながらも、僕は勉強机に座ってひたすらに教科書とノートを開いては交互に睨めっこをしている。

 三日間に分けて実施される期末テストのうち、最終日は土日を挟んだ月曜日だった。さらに日本史、家庭科、国語とどれも暗記さえしていれば点が取りやすい科目ばかりだったので、僕は土曜日から初めれば余裕でこなせれるだろうと高を括っていたわけだが、余裕があると人間ダラけてしまうものだ。座ったはいいものの、教科書を開くこともなくシャープペンシルを持つこともなくやる気が沸くのを待ってただ時間だけが過ぎていった。結局土曜日は一度も手をつけることなく暗くなったことを理由に----明日の午前から本気を出せばまだ取り返せるだろうと----早々に切り上げた。

 で、今である。

 ご覧の通り、勉強机の前でようやく教科書とノートを開いて、シャープペンシルを持って、勉強している最中である。----いや、ようやく始めたばかりである。

 自業自得だと、滑稽だと笑う人も多いだろう。

 僕自身でさえ、どうしてあの時から始めていなかったのだろうか、後悔と怒りで自分の首を絞めてやりたい。

 だからといって嘆いていても仕方がない。

 今どうするか、それだけを考えればいい。

 でも言い訳ではないのだけれど、自室にこもって勉強をしたことがある人なら、漫画やライトノベルにゲーム機が近くに置いてある状況を前にして、ちょっとだけのつもりで手を出してしまう経験は誰にでもあるのではないだろうか。

 結局のところ言い訳になってしまうのだけど、僕の自室には趣味で読んでいるオカルト雑誌から少年漫画がしまわれた本棚がすぐ脇にある。

 これは朝から何も食べていない状態で香ばしいステーキの匂いを嗅ぐのと同じ心境だろう。無意識によだれが垂れてしまうほどの空腹感から、ステーキに手を出さない人間はいないだろう。ましては、空腹は最高のスパイスというように、一度は読んだことのあるものばかりだけど、なぜか勉強をサボってまで読む漫画はたとえセンスのないギャグシーンだろうと格段と面白く読めてしまう。

 そんなこんなで貴重な日曜日の午前も潰してしまい、昼食後もなかなか手につけることもなく、窓の景色が暗くなって初めてやる気というか、絶望感が沸いた。


「......はは。ど、どんだけやれば今日寝れるんだよ」

 

 まずは全体の把握が大事。

 そう思って、テスト範囲について書かれた紙を見て僕は青ざめてしまった。

 日本史はある程度覚悟していたものの、いざ範囲を確認してみると100ページ近くあることに僕は言葉を失った。家庭科はフィーリングでもいけるかと思っていたら、ミシンの部品や縫い方など、そんなとこまで勉強する必要があるのか疑問に思うほど細かい部分がテスト範囲だった。

 唯一国語だけは日本史や家庭科と比べると暗記すべき量も多くはなかった。というか国語だけが余裕だった。それは国語を担当する西野は僕が所属するオカルト研究会、通称”オカケン”の顧問ということもあってこっそりと教えてもらったのだ。(西野と呼び捨てにしていることはまた後で話すことにする)

 家庭科はもはや捨てるとしても日本史と国語は赤点を取るわけにはいかない。ので、国語は後にしつつ、日本史から手をつけることにする。


「............」


 一時間が経つ。


「............」


 二時間が経つ。


「............んん〜、ちょっと休憩しよ」


 とりあえず一問一答のドリルを元に教科書を読みながら進めていくものの、頭に暗記されていったとは思えない。

 散歩でもするかな。

 気分転換、気分転換。

 諦め、現実逃避、逃げ。


「はは......あはは----はは、あはは、はっはっはー」


 壊れたミッキーマウスみたいに笑ってみた。

 もはやどうしようもないだろう。

 事実を受け入れる。うん。気分が爽快爽快。

 開放的だー。

 イェーイ!

 やっほー!

 ピース! ピース!

 ヘンテコダンスをかましながら、自室から階段へと降りる。

 るんるんとしたテンションで、スマホと懐中時計を持って僕はそのまま家を出た。ちゃぶ台の上にラップのかかったご飯と父さんのメモ書きが残してるあることにも気づかないまま。




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