Ep-5 崖っぷちでとびっきり

勝ちを確信し確実に命を絶ちに行くには十分なほどの速さでディパイロが迫ってくる。

「あとは全てを乗せるだけ!」

知りたいことはわかった。

ピポンッ!

ステータステーブルを閉じ僕も迎撃の体勢に入る。ディパイロが右手を空高く上げ僕の胴体に目掛けて勢いよく振りかざす……でもね

「はぁぁ! 」

グサッ!

確かに針は僕を貫いた。ただし貫いたのは僕の右手だ!

「お前…!右肩を二度も貫いて使えないはずじゃ……!」

「君との戦闘が長すぎてもう動かせるまで回復したんだよ!」

嘘だよ。回復してるわけがない、何なら立ってるのがやっとだよ。動かしたときもすごく痛かったよ。でもここで犠牲にできるのは右手だけだ。この最後の作戦に必要なのは体の犠牲!なぜなら…

「クッ!抜けろ!」

相当深く刺さった右手の針は簡単には抜けない。最後の力を振り絞って右手を固めたんだ。じゃあ反撃の時間だ!右足を大きく踏み出して限界までねじった体を戻し爆発したかと思えるくらいの剛拳を飛ばした。ディパイロはとっさに針を右手から離し、新しい針を生成しかけていた。そして腕を交差し拳を受ける体勢を整えていた。

グキッ!

そんなもので僕を止めることはできない。ディパイロはしっかり防御をしていた。だが拳に触れた途端骨が折れると音ともにディパイロの両腕を潰していた。でもこれだけでは右手のお釣りは返ってこない!

「せぃやぁぁぁ!」

電光石火とも言える速さで振り上げる僕の左足はやつの交差した両腕にかけて砕かんと言わんばかりの踵落としを見せる。そしてディパイロの腕を完全に壊した。

「グハッ!」

踵落としの衝撃で腕がしびれ、大きいはずの体が僕と並ぶくらいの大きさに丸まっていた。完全にさっきの意気揚々とした殺戮者の影はなくなっていた。だが反撃を企むその紫色の目は僕から目を離していない。体勢を立て直す前に決着をつける!血管が隆起するほど強く握った拳は紫色に輝く。僕のとっておきを魅せてやる!

最終工程デルニーファゴネクト!!!」

「グァァァ!」

命を掛けた最後の拳……それはディパイロを大きく吹き飛ばし後方の木へ強く衝突した。何故死にかけの僕がこの威力でパンチできたかって?それにはある「スキル」が関係している。さっきステータステーブルで見た「集める夢レーヴェロンテモース」というスキルの効果は「覚える」「変換する」「繋げる」ことができる。ディパイロが毒属性を扱う事により体には何種類もの毒が入り込んだ。そしてその毒を理解した体は「紫薬族第四魔法ベルポイズン★」を獲得していた。これが「覚える」。

「集める夢」が発動してから常に左手は謎の紫のオーラを纏っていた。これはさっき覚えた「紫薬族第四魔法★」を体に纏っていた。だから魔法を使ったからMPが29/55に減っていたのだ。だが単に体に魔法を纏うのではなく魔法の効果を消しステータスへ変換していたのである。だからステータスが50前後になっていた。これが「変換する」

では最後に「繋げる」これは短期間に動作を無駄なく繋げることでどんどん威力を上げていくというものである。高速の二連撃によってディパイロの針も一本目より二本目のほうが簡単に折れた。それにこの効果を驚異的たらしめる技がある。それは繋げていた技を途切らせてしまう代わりに纏っている魔法の効果を発動しながら蓄積した威力を大幅に拡大して攻撃を繰り出すことができる「最終工程デルニーファゴネクト」という技だ。最後に放ったのもこれである。吹き飛ばされたディパイロをもう見ることしかできなかった僕。もう起き上がらないでくれと祈るばかりだがそんな祈りも叶わない。

「ーーぁ……………ぁ………毒を扱う魔族が毒に汚染されるとはな……」

拳を打ち込んだところを見ると元々薄紫な肌でもわかるくらい濃い紫になっていた。きっと僕の「紫薬族第四魔法★」によるものだろう。フラフラと立ち上がったディパイロはこんなことを話した。

「おぃ……クソガキ……これ以上命を掛けるのは馬鹿のやることだ……この両腕の借りは次必ず返す!忘れるんじゃねぇぞ!!このディパイロがお前を殺す!この戦争勝つのは俺ら魔族だ!!」

そう言い残してフラフラになりながらもこの場から去っていく。

「ーーあぁ…………」

ドタンッ!

糸が切れたかのように仰向けに倒れる。生き残ったんだ、僕は生きることができたんだ。戦いに勝ったことへの喜びが頭の不安、痛みを塗り消してしまった。そして雨が振り始める。服が濡れてしまわないように普通は雨宿りするものなんだろう。でも僕はこれが勝ったものへの称賛だと思った。そう、この長い夜から抜け出したことを褒め称えるんだ。そうして安心と喜びに満ちると眼の前が暗くなった。

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