Ep2-夜が来る

枝が交差してほぼ見ることが出来ないがその枝の隙間から金色に輝く夕日。やけに高くしなりのある草むら。はるか上空にある枝に成っていたダークブルーに輝き甘い香りを撒き散らす果実。本当に深い森だ。馴染のある青く農民のような服を見ても何も思い出せない。だが記憶を無くしてもリゲロン…この名前は口から発する度に家に帰ってきたかのような安心感を得られる。せっかくだし思いっきり連呼してみよっか!。

「ーーリゲロンリゲロンリゲロンリゲロン!」

2分後……

「リレロンリレロン!!ッゲホッゲホ! 」

200回ほど連呼したが終盤はもうリゲロンではなくリレロンになっていた。それと唾が変なところに入ってきてしまった。まぁ楽しいしいっか。森を散策とは言っても結局は木と草と小魔物くらいしか見えてこない。飽きちゃうよね。どこからかとても大きな滝の音が聞こえてくるけど大きすぎて方角も分からないしとにかく歩き回るしかない!

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

あれから2時間程たっただろうか。今は自分が分かる言葉だけでしりとりをしている。何故そんなことをするかって?それは自分の知識量ならどこまで行けるかの限界へ挑戦中をするためだ。あと暇つぶし。それはそうとしてずっと歩きっぱだったからか足がいつの間にか折りたたまれていた。

「ちょっとだけ……ちょっとだけ休憩しようかな。」

座り込んでしまった僕はふと空を見てみる。森が暗くて分からなかったが気づけばすっかりあったはずの空の金色がいつの間にか濃い青へと変わり果てていた。そしてスタートラインをはるかに超えた位置にいる月。だがそれよりも僕の目を釘付けにした存在があった。

「ーーこれが星!…… 」

そこには夕方に見た夕日よりも更に綺麗な宝石が空に散らばっていた。宝石ほし背丈が余計に高い木さえなければ満点の星空を見れていたのだろうか。こんな綺麗な夜空を見ていたせいだろうか。

「あの星ならきっと……きっと昔の僕も知ってるんだろうな。」

星が人を覚えている?そんなことがあるわけがない。でもそんな子供じみた考えになるくらい忘れることが出来ない景色だった。さぁ、休憩は終わりだ、再開再開♪

夜が深くなり少し怖くなってきた僕は気晴らしにしりとりを続けていた。

「ーーサ……サブトルゴッドーード……ドはトでもいいからーートリスダムーーム……ム? ……」

※サブトルゴッド・・・ヤギ系魔物

しりとりによって眠っていた記憶が呼び起こされる。しかし自身の記憶についてはやっぱりない。

バサッ!ーーーカーカーカー

突然周りに止まっていた鳥達が一斉に空へ飛び出した。しりとりをしていた僕に襲いかかる嫌な予感。僕は警戒心のギアを最大限に強める!しかしもう遅かった、僕は判断を間違えたんだ。

グサッ

空気を切る何かの音と共に感じたのは鋭い痛み。膝を地面につけながら言葉にできない痛みをうずくまりながら体験した。既に痛みで体中の力が抜けていた。必死に首を動かし痛みの源を辿ってみる。肩に目を向けてみると元々青色の服だったはずが今は赤く染まっていた。そしてその血の赤の中心にあるのは元々僕の体の一部だった赤をつたらせている細くとても鋭利な針だった。それを見てしまった僕は惨い痛みと底なしの恐怖により体の主導権をうばってしまった。そして後ろから聞こえる足跡。針を擦らせたような金属音。そして知らない男の声。

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