異常食欲者4


正直なところ、今までミチコ家には幾度となく侵入してきたので、彼にとって侵入自体はとても簡単なことなのであった。



「さっさといただいて帰るか」



そう言って一階へ続く階段へ向かった。



アハハハハハハハハハハッッ!!



相変わらずみちこの下品な笑い声が居間から響いてくる。



「いつもどおりお気楽なババアだ」



そう悪態を吐きながらジルはまた四つん這いで移動し始めた。

いい加減二足歩行しろと言いたいところだが、彼は一度四足歩行をしてしまうと、自分が4足歩行の生物だと思い込んでしまい2足歩行のやり方をしばらく忘れてしまうのだ。哀れ也・・・。



そしてジルは一階へと続く階段へたどり着くと、物音たてずにゆっくりと階段を降り始めた。

だが、鼻息は異常に荒い。目も充血している。汗もすごい。


彼の食への執着心がそうさせている。

まったくもって気持ちが悪い。



無事に階段を降りきったジルは、一目散に食卓に向かった。



アハハハハハハハッ



テーブルの上には食べてくださいと言わんばかりに、わざとらしくトーストが鎮座している。


もう焼き上がってからしばらく経っているのだろうか。冷めているようだ。

フォークとナイフ、目玉焼、そしてバターまで付け合わせてある。

トーストに対しても手を抜かない姿勢は、ミチコの品の良さを表していると言えるだろう。



だが、そんなことは気にせずジルはトーストを鷲掴みし、野犬のように噛り付いた。



アハハハハハハッッ


後に言っていたことだが、彼いわくトーストの味はゴムボールにハエをすり潰したような味だったようだ。



「ハフハフエロへエロヘッへヒッヒッッ」



しかしジルはとてもエロそうに笑いながら、トーストを食い散らかしている。


アハハハハハッ


とても迷惑なことにほとんど口に入っていない。

文字通り食い『散らかして』いる。



しばらくして、部屋中がパンの食べかす塗れになった頃。



その時は唐突に訪れた。



スゥ・・・・・・・と、


先程までミチコ家に充満していた陽気な雰囲気は、陰湿な沈黙に変わった。



ビクッ!

ジルの研ぎ澄まされた感覚がわずかな変化に反応した。



「マズイ!」


二つの意味を込めてジルはそう言い放った。



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