第5話 美惑、メシウマにされる

 Side—良太


 美惑のインスタが更新されたのは、テストの真っ最中だった。


 テスト終了と同時に、急いでその書き込みへとアクセスした。


 乗っ取りによって投稿された誹謗中傷は、予想通り最悪の事態へと転がり続けて、もうSya-Oなんてどうでもよくなってて。

 投稿主である美惑への誹謗中傷に発展している。


『デビュー前に終わってしまうの草』

『デビュー前に人生も終わってしまうの草』

『芸能界から永久追放されろ。あ、まだデビュー前かwww』

『リリースに向けたローンチだろw 事務所の指示か?』

『炎上商法乙~』

『この娘知ってる。高校同じー』

『よし! 晒そう』


 急がないとまずい。

 いくらなんでも、美惑の心が折れてしまう。

 日常を晒されたりなんかしたら、美惑の青春が詰む。


 俺は予定通り、インスタの投稿をスクショしてNexに投稿した。

『※拡散希望。

 黒羽美惑と同級生の者です。彼女は今、とても困っています。美惑のNexのアカウントは乗っ取られています。件の投稿は彼女の物ではありません』


 と同時に、雨音が俺の投稿をリポストした。

 勢いは美惑には遠く及ばず、一桁台からなかなか進まない。


 B組を覗いてみると、美惑の姿はなかった。


 雨音の話だと、保健室に行ったきり帰って来なかったんだそうだ。


 保健室に行ってみると、あんずちゃんの姿だけが見えた。


「あんずちゃん」


「はわ! 良太君!」


「美惑は?」


「しーっ」

 あんずちゃんはそう言って、人差し指を口の前で立てた後、カーテンで仕切られているベッドを指さした。


「事があまりにも大きくなってしまって、ショックで具合が悪くなってしまったのです」


「そっか。えっと、インスタの書き込みはもうNexにアップ済みだから、これ以上見るなと伝えてもらえるかな」


 あんなリプライ見ちゃったら、余計に具合悪くなるだろう。


 あんずちゃんは顔の横でOKマークを作ってこう言った。


「大丈夫。本人はログインできないですから。私も拡散しておくのです。良太君は安心して、テスト頑張ってください」


「うん。わかった、ありがとう。それと」


「ふ?」


「美惑の事、お願いします」


 あんずちゃんは、両手で大きな丸を作って見せた。



 2限目、3限目と過ぎ下校時刻がやって来た。


 俺の書き込みは、リポスト数34。

 あまり伸びていない。


 雨音も偉そうにフォロワー数自慢した割に、あまり役に立たなかった。

 A組もB組も、いや、学校全体がさほどNexのアカウントを持っていないのだ。


 今、登録させて拡散協力させたところでたかが知れている。


 拡散されてほしい正しい情報は拡散されない。

 拡散されてはいけない誤った情報は拡散される。

 それがネットの世界だ。

 やつら、情報の真偽なんてどうでもいいんだ。

 おもしろければなんでも食い物にしては祭り上げる。


 こうしてる間にも、美惑に対する誹謗中傷は勢いを増していく。


「くそ!」


 頭をくしゃっと掻きむしった。その時だった。


 ポンと数字が増え、たちまち数字が動き始めた。


 40→60→85→149……。


『サンタプロ推し活部長さんにフォローされました』

『サンタプロ推し活部長さんがあなたの投稿にいいねしました』

『サンタプロ推し活部長さんがあなたの投稿を引用リポストしました』


 サンタプロの関係者か?

 けど推し活部長だから、ファン代表みたいなものか?


 推し活部長さんのページにアクセスしてみる。

 ポストを見てみると、件の美惑のポストには無反応。


 引用には

『ポプラブ美惑ちゃんのアカウントが乗っ取られています。Sya-Oに対する発言は美惑ちゃんの物じゃない! みんな拡散やめて! 誹謗中傷もやめて!』


 そのポストは、たちまちいいねやリプライが付き、リポストはあっという間に1万を超えた。


「ふ~、推し活部長すげー! 一先ずこれでなんとかなりそうだ。ありがとう、推し活部長さん!!」


 RRRRR……


 スマホが着信を知らせた。

 スクリーンにはあんずちゃんの文字。


「もしもし?」


『良太君。さっき、美惑さんの事務所の社長さんから電話があったのです』


「事務所の社長から? な、なんて?」


『美惑さんは寝ていたので、私が対応して、美惑さんの容態を伝えました。今から社長さん直々にお迎えに来るそうです』


「そっか。じゃあ、安心だな」


『会っておかなくていいのですか?』


「え? どうして?」


『社長さんはしばらくの間、登校はさせられないっておっしゃっていました。学校も安心できないし、外には出せないって。心配しておられるようでした。もう、簡単には会えなくなってしまうかも……』


「え? そんな……」


 美惑に会えなくなる?

 そんなの、いやだ。


「すぐそっちに行く!」


 俺は、保健室へと走った。

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