おまけのSS ドルオタ女子高生
「はっ、はっ、はーーーーっ!! ふ、ふ、双渡瀬、先輩」
興奮冷めやらぬ朝。
憧れの美惑ちゃんを探すのに一生懸命で、全然前を見ていなかった。
うっかりぶつかったのは、あの! 双渡瀬先輩!!
双渡瀬先輩を知らない一年はいない。
目を閉じればすぐに、あの体育祭の時のドラマティックなシーンが脳内に浮かび上がる。
2年の徒競走で颯爽とテープを切り、力尽きたようにグランドの真ん中に仰向けに倒れ込んだ先輩。
「良太―!」
と走って来て、抱き着いたのは、美惑ちゃんだった。
あの! あの美惑ちゃんだったのだ。
そのまま二人の唇はゆっくりと吸い寄せられるように重なった。
まるで学園ドラマのワンシーンのように、その光景に全米が、いや、全学園が歓喜した。
「一年生?」
「は、はい! 1年C組、村崎ことりです!」
先輩が差し出した手を掴んだ。
「ごめんね。ついよそ見しちゃってて」
「い、いい、いいえー。私の方こそごめんなさい。ぼーっとしちゃってて」
「怪我はない?」
「はい、双渡瀬先輩も、怪我はないですか?」
「あ、うん。大丈夫。あ……あの」
先輩が繋がっている手に視線を落とした。
「あ、すいません、つい」
先輩が貸してくれた手を放すのを忘れていた。
恥ずかしさで頬が火照る。
「一年は一階だよ。二階には2年の教室しかないけど、大丈夫? 何か用事?」
道に迷ったとか思われたかな?
さすがに、入学してから4ヶ月が経とうとしている。
それはない。
「美惑ちゃん、じゃなくて、美惑先輩、一目見たくて。私、ファンなんです!」
「ああ、美惑ならB組、そこの教室だけど、この頃あまり登校してないよ。忙しくしてるんじゃないかな」
「そうですよね。いいんですいいんです。軽はずみに私なんかが逢いに来ていいわけないですよね」
「そんな事ないよ。俺、幼馴染だから紹介してあげるよ」
「いえ! 大丈夫です」
迷惑な顔をされたら死ねるぐらいショックを受けそうで、逃げ腰になってしまった。
それに、学校でドルオタバレは避けたい。
アイドルに夢中になってる女子なんて、到底理解されないに決まってる。
美惑ちゃんを初めて見かけたのは去年の夏。
普通にこの学校の制服着て歩いてる所を見かけて、この学校に志望校を決めたのだ。
中学は不登校を拗らせて、授業はほぼ毎日リモートだった。
通信のある高校を、と思っていたけれど、美惑ちゃんが通うこの高校なら毎日頑張って登校できると思ったのだ。
校内で見かける事はあまりないけれど、同じ制服を着て、同じ高校に通っている、それだけで学校は楽しくなった。
「先輩は、美惑先輩の彼氏なんですよね? 体育祭の時……見てました」
「あははー、そうだったけど、今は違うんだ。ふられちゃったんだ」
そう言った先輩の顔は、無理に作り笑いしているのが見え見えで、痛々しかった。
「そうなんですか?」
「うん。でも仕方ないよ。彼女はアイドルだし、恋愛は禁止だから。遅かれ早かれ別れなきゃいけなかったんだ」
「そんなの、建前なのに。どうせみんな恋愛禁止なんて掟、守ってない」
「まぁ、そうなんだろうけど……。っていうか、なんで美惑の事知ってるの? まだ公式チャンネルのアイコンでぐらいしかビジュアル公開されてないのに」
「あ、えっと……それは……以前、テレビで見たんです。可愛すぎる女子高生って紹介されてて。その時にアイドルの卵だって知りました」
「ああ! そうか。美惑は有名人だもんな」
「一目でファンになりました。昨日、ダンスや歌を初めて観て、テンションが上がっちゃって。もう歌もダンスも覚えました! いつでもライブで合いの手入れられます」
「へぇすごい! 合いの手ってあれ、どうやるの? 難しい?」
「いえ。そんな事は……」
「教えて! 俺も、ファン一号として美惑を応援したい」
元カレがファン一号なんて素敵!
そんなこんなで、放課後、双渡瀬先輩の家にお邪魔する事になったのだった。
先輩は不器用ながら、一生懸命で、とっても優しかった。
友達を作るのが下手な私を海に誘ってくれて。
しかも、美惑ちゃんも一緒!!
何の予定もなかった夏休みが、キラキラ輝く宝箱になった。
早く夏休みが来ないかな。
おっとその前に、テストも頑張らなきゃ!
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