第3話 NTR?

 Side—ラブコメ神


 ムフフ。

 今回は、ラブコメ神視点にてお送りするぜ。

『神視点』という物に疎い読者のために注釈を入れて置くとしよう。


『神視点』というのは、漫画や小説において、全知全能の語り手が物語を語る視点のことだ。

 これにより、読者は固定された登場人物にとどまらず、全員の内面を知ることができる。

 しかも、過去も現在も全てを知っていて、語ることができるマルチな視点。

 それが『神視点』だ。



「プログラム10番、2年生全員によります二人三脚です。2年生の皆さんはスタートエリアにお集まりください」


 おっと、二人三脚始まりのアナウンスが流れた。

 男女でペアになった選手たちの入場だ。


 良太といのりは肩を並べ微笑み合いながら位置に着く。

 一方、今回はライバル同士。

 美惑&雨音ペア。

 雨音も、美惑もなんだか面白くなさそうな顔をしている。


(クソっ。黒羽美惑も白川いのりも、桃地杏までも、双渡瀬の彼女だなんて。何がどうしてそうなった? なんで俺が非リア充みたいになってるんだよ! 許せん、双渡瀬のくせに。ギルティ! ギルティーーーーー!!)


 雨音、悔しそうですね。

 いいとこ一つもなかったはずの良太にいいとこ全部持って行かれたわけなので、そりゃあそうでしょう。


(んもう! 良太ったら、いのりといちゃいちゃしちゃって。ばかばかばかばかー。あたしに、勝手にキスしたくせに……)


 美惑は頬をピンクに染めている。

 いい仕事したな、俺!!


「第一走者、スタートラインに並びました」


「位置に着いて、よーい」

 バン!


 破裂音と共に各ペア一斉にスタート。

 良太&いのりペアは、なんだかちょっとぎこちない。

 800メートル走で転倒した後遺症か?

 いのりはなんだか足を引きずる仕草をしている。


 一方、美惑&雨音ペアは順調に歩みを進めている。

 息ぴったりだ。

 と、思ったら。


「おーーーーっと、先頭を切っていたB組、雨音、黒羽ペア転倒しました」


 これはわざとだな。

 雨音の捨て身の作戦だ。

 雨音が、仰向けに転がった美惑に覆いかぶさるようにして、耳元で何かささやいている模様。


 ごめん。悪い!!

 なんと言ってるのか、よく聞こえなかった(神視点の意味ーーーw)


 美惑は、頬を赤らめて顔を背け。

 そして、うなづいた。


 こ、これは、もしや。


 ここ文化清松学園の男子一番人気と言えば、雨音光輔だ。

 その雨音に、耳元で甘い言葉を囁かれたら、さすがの美惑も、落ちるのか? そうなのか?


「C組一位でゴールしました! 息ピッタリでしたね」


 次々にライバル達がゴールする中、良太といのりは4位とパッとしない戦績。


 そして、ドンケツで悠々とゴールしたのは、雨音、美惑ペアだ。


 良太の視線は、いのりを通り越し、美惑の姿を捉えている。

 動物的な本能が働いてるのか。

 ゆらゆらと揺れる瞳が物語るのは。


(なんだ? 美惑の様子が変だ。目が合ったのに、すぐに逸らした。雨音の肩にもたれて、耳元で何かささやいた。え? 何これ? どういう事?)


「美惑……」

 良太がぼそりと呟いた声は、会場の喧騒にかき消された。


 その後も、何やら雨音といちゃいちゃ。とびきりのアイドルスマイルを見せる美惑。


 産まれてからずっと、良太しか見て来なかった美惑の目に、今、この時、魅力的に映っているのは、雨音なのか?


「生徒の皆さんにお知らせします。これを持ちまして午前中の競技は全て終了となります。これより40分間の休憩に入ります」


 午前の部終了で、お弁当タイムだ。


 良太たちは――。


 どうやら杏ちゃんも合流して屋上へ向かったらしい。

 女子たちの手には、それぞれ大き目の弁当箱。


 良太は足を引きずるいのりに肩を貸している。


 ちなみにいのりちゃんの足が痛いと言うのは、作戦じゃないぞ。

 本当に、けっこうな負傷をしてるのだ。

 ここまでよく頑張った。


 良太、いのり、杏の後ろから3歩ほど遅れて美惑が階段を上る。


 普段は開放されていない屋上だが、体育祭の時だけは特別だ。


 ただ、日差しが強いので生徒たちからは不人気な場所であるため、利用者は少ない。


 杏が、ガラガラガラっと扉を開ける。


 ガラーーーーン。


 誰もいない。


「はわわわぁーーーー。貸し切りなのです」


 杏ちゃんは相変わらずの天然ぶり。


「熱そうね」


 いのりは太陽を見上げた。


「でも広々使えて最高じゃん。風はけっこう冷たいし」

 良太もなかなか女子の機嫌を取るのが上手くなってきたぞ。

 ちょっとだけだけど。


「ごめん。あたし、他で約束しちゃった。お昼3人で食べて」


 美惑は弁当箱を両手に持ったまま、くるっと踵を返した。


「は? なんで? 美惑。どういう事?」


 美惑は良太の声に反応しない。


 小さくなっていく背中を、良太は茫然と見送った。

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