第4話 え? ハーレム??

「なんでも、神のお告げがあったそうよ」

 母はそういいながら、キッチンで洗い物をしている。


「か、神の、お告げ?」


「それでね、今朝一番に白川さんのお母さんから電話があって、この方角に娘を住まわせるのが一番いいみたいだって。

 白川さんの家から南南西の方角。

 うちのアパートなら住宅街だし、警察署も近くて治安もいい。学校までのアクセスも悪くない。

 何より敷地内に大家さんが住んでるっていうのもポイント高いって。

 しかも、同級生や学校の保健の先生までいるなんて、この上ない環境だってそりゃあもう興奮されてたわよ。

 まだ17歳の娘の1人暮らしなんて、いくら神のお告げって言っても、大層な決断よね」


 俺は少し遅い朝食のサンドイッチを、美惑と一緒に頬張る。


 まさか、チャラ神の仕業じゃないだろうな。


「ふわぁぁぁぁあああ」

 コーヒーの表面に、チャラ神の満面の笑みが浮かび上がっているぅぅぅううう。


 これはリアルか幻覚か?

『ラブコメだよ』

 という幻聴が聞こえた。


「ひえええええ」


「どうしたの? 良太。そんなに怯えて」

 美惑はミルクたっぷりのカフェオレを啜った。


「い、いや。なんでもない」


「ほら、あなたたちも食べ終わったら引っ越し手伝ってあげて」


「「はーい」」


 食器を片付け、美惑と一緒に早速外に出た。

 トラックの荷台から、白川とお母さんが二人で荷物を搬入している。


「手伝います」

 お母さんに駆け寄り、段ボールを引き受ける。


「あら、ありがとう。助かるわ」


「手伝ってあげるわ」


 美惑は白川の段ボールを引き受ける。


「ありがとう」


「勘違いしないで。良太のママに言われて手伝いに来ただけだから。あんたなんかと仲良くする気はないんだからね」


「仲良くして欲しいなんて一言も言ってないけど」


「「ふ、ふんっ」」


 そんなやり取りが聞こえる。

 前途多難だな。


「私も手伝うのです」


 杏ちゃんも階段から降りて来た。


「あらあら、養護の先生」

 白川のお母さんは、杏ちゃんに丁寧にお辞儀をした。

 5人がかりでの作業は、あっという間に捗り、およそ30分ほどでトラック一杯に積まれていた荷物は全て搬入し終えた。


 室内では業者が家具を組み立てている。


「じゃあ、私はこれで。息子……あ、いのりの弟の習い事があるので失礼します。今日は本当に助かりました。今後とも娘をよろしくお願い致します」


 丁寧に挨拶をして、二つの菓子折りを置いて、白川のお母さんは帰って行った。


「双渡瀬君、ありがとう。とても助かった」

 そう言って、菓子折りを一つ差し出した。


「ありがとう」


「これは先生に」

 もう一つの菓子折りを杏ちゃんに。


「私までもらっていいのですか? ここで開けてみんなで食べましょうか」

 そう言って、丁寧に包装を外す。


「こんな時に、雨音は何やってんだ? なんであいつ手伝いに来ないんんだ?」

「え? 雨音君? 雨音君が、どうして?」


 白川はクエスチョンマークを顔に貼り付けた。


「え? だって、その……彼氏だろ」


「え? 私の?」


「そう、付き合ってるんだろ?」


「付き合ってないわよ」


「え? ええええ????」


 横に目をやると、美惑がペロンと舌を出した。


「あれれ~? 私の勘違いだったかしら?」


「お前えええええええ」

 って事は何? 俺と白川さんは純粋に両想い?

 これが噂の両片想い?


 しかし、俺は美惑と付き合っているていだ。


 無駄に偽装彼女。


「家具の組み立て設置、終わりました。確認してこれにサインをお願いします」


 業者が汗だくで白川に書類を差し出す。


「はい、ありがとうございました」


 サラサラとサインをして、業者に渡した。


「先生も美惑さんも、ありがとうございました。お茶にしましょう」


 キッチンのシンクに置いてあるレジ袋から缶コーヒーや、ペットボトルのお茶を出し、業者にも配った。

 逞しい男たちは、嬉しそうに白川からお茶を受け取り

「お嬢ちゃんかわいいねー、名前は?」

 と訊ねるが、雪の女王が発動した白川は、それを無視した。


 俺は美惑を外に連れ出し

「どういう事だよ! 雨音と白川さんが付き合ってないって。いや、付き合ってるって」


「だから、勘違いよ。聞き間違い。そのお陰で、良太だって毎日筋トレ頑張れたでしょ。なかなかいい体になったやん」


「まぁ、それは、感謝してる」


「はぁ~あ、じゃあ、これで偽装彼女終わりだね」


 美惑の顔は見た事ないぐらい切なそうで胸を締め付ける。


「幸せに、なってね。良太。私は良太が誰と付き合ったって、ずっと良太の事だけ想ってるから」


「美惑……」


「じゃあ、私、レッスン行くから」


 そう言ってこちらに向けた背中は小さく震えていて――。


「美惑! ちょっと待って」

 俺は思わず声をかけていた。


 何を言うつもりだ? 俺。

 こんな時にかける言葉なんて持ち合わせてないんだが……。


 俺は美惑の手首をガシっと掴んで引き寄せていた。


 ん? どうした? 俺。


「俺は、美惑を不幸になんてしたくない。白川さんの事も、杏ちゃんの事も。みんなを幸せにしたい」


 ななななな、何言っちゃってるんだよぉぉぉおお。


「いや、ちがちが、あの、体が勝手に」


「杏ちゃん? どういう事? 良太」


 そこへ白川と杏ちゃんがやってきて

「お菓子広げたの。一緒に食べましょう」


「俺は、美惑が好きだ! 白川さんの事も、杏ちゃんの事も好きで、誰か一人なんて選べない」


 やめろ、やめてくれ、チャラ神ーーーーー!!!


「だから、三人とも、俺の彼女になってください!」


 俺のばかやろーーーーーー!!!!


「何言ってんの? 良太」


 美惑の目が三角に尖った。

 ですよねぇ~。


「私はOKなのです」


「杏ちゃん」


「私も、いいよ。こそこそ影で浮気されるよりマシかな。よろしく、双渡瀬君」


「白川さん……」


「はぁ? んもう! しょうがないわねぇ」


「美惑さんは、どうするんですか?」


「別れるの? 双渡瀬君と」

(↑未だ美惑が俺の彼女だと思っている白川)


「わ、別れるわけないでしょ! 良太がそこまでいうなら、彼女でいてあげるわよ!」


 こうして、めでたく??? 3人が俺の彼女になったわけだけど、これってハーレム?

 否、修羅場の予感しかしないんですけどぉぉぉおおおおおおーーーーー!!!

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