第2話 ヤバ過ぎるレインボーマジック

 この日は土曜日。

 少し遅い朝のランニングに出かけようと、いつものようにアパートの敷地内でストレッチをしていた。


「良太くぅん。おはようございまぁす」


「も、桃地先生?」


 階段を駆け下りて来た先生は、なんともセクシーなスポーツウェアだ。

 体にぴったりフィットしたトップスの裾からはおへそががっつり見えていて、ショートパンツとの相性が抜群じゃないか。

 意外にもスタイル抜群。


「どうしたんですか?」


 昨日までは普通にピンクのジャージだったのに。


「一緒に走るのです。私も、体育祭は800メートル走に参加するのです」


 そう言えば、男子も女子も、800メートル走は、教師枠が1枠準備されている。


 その場でランニングする先生のポニーテールが揺れる。胸も大きく上下に揺れる。


「あ~、そうじゃなくて」


「はわ?」


「あ、いや、なんでも。確か美惑も白川さんも800メートル走出るって言ってました」


「はわわ! そうなんですか? 負けられません」


「あはは~。じゃあ行きましょうか?」


「ちょっと待って! その前に!!」


「へ?」


「ストレッチするのです」

 桃地先生はそう言って、俺に向かって両手を伸ばした。

 その手を掴むと、グイっと上げて、体側を伸ばす運動。

 お互いに引っ張り合って、なぜか笑い合うまでがセット。


「はい、反対」

 グイグイと引っ張りあって

「うふふふ」「あはは~」。


「今度はバックトゥバックリフトです」

 背中合わせで、お互いの両腕を絡め、背筋と腹筋を伸ばす。


 俺は勢いよく先生を背中に乗せた。


「きゃあ」と嬉しそうな悲鳴を上げて、バタバタと足をバタつかせる。

 狙い通り。

 楽しそうな声に、俺のテンションも上がる。


「うんしょ」

 頑張って俺を背負う先生。

 華奢で押しつぶしそうで怖い。


「先生無理しないでね」


「大丈夫なのです」


 スッキリと毒素が抜けたみたいに軽くなった体で、その場で数回ジャンプして

「じゃあ、行きますか」


「行きましょう!」


 大通りに出て、いつものコースを走る。


「あ、あの、先生?」


「なんですか?」


「あの、距離が……おかしい」


 まるで二人三脚かってぐらい、ぴったりと俺の横に寄り添って走る先生。

 明らかに、昨日と様子が違う。


 告白して、タガが外れたのか?


 しかし、直接触れ合う肌はすべすべで、もちもちで気持ちいーーーー。


「はわ? いけませんか?」


「いえ、全然いけなくないです」


 ふっふ、はっは、ふっふ、はっは。


「あの、先生。はちみつレモン美味しかったです。ありがとうございました」


「はわわわぁぁぁ、嬉しいのです! まだたくさんあるのです」


 先生は更に体を擦り寄せる。


 子犬みたいでかわいい。

 今にも甲高い声できゃわわわんと鳴き出しそうだ。


 なんだか頭がぼーっとしてきた。


 なんだか自分の体じゃないみたいに、カッカと芯が火照り出す。

 なんだか視界も歪んできて………


「先生……」


「ほわ? 良太君? どうしました? 顔が赤いのです。良太くん! 良太くん!」


 霞んだ視界に先生の顔が間近に迫る。

 バタンと、音がした。

 俺が倒れたんだ。


「良太君! 良太君!!」


 先生はずるずると俺の体を後ろから引っ張りながら、木陰に移動させた。


「今日は少し暑かったので、バテちゃったのでしょうか? 良太君? 大丈夫ですか?」


「せ、先生……俺、先生に……首輪付けて、一緒に、お散歩したいです」


 おいおい、俺、なんて事言ってんだ?

 先生に首輪って、そんなの妄想すらした事ないぞ。


「はわわわぁ、嬉しい。首輪付けて良太君とお散歩なんて、夢みたいなのです」


「ほ……ほんと? お、俺の、ワンコになって、くれますか?」


 おいおい、やめろ、俺!


「はい! 喜んで。ご主人・さ・ま」

 先生は耳まで真っ赤にして、心から嬉しそうに笑った。


 はっと我に返り、頭をぶんぶんと勢いよく左右に振った。


「ちが、あの、先生。これは、ちがって、その、何て言うか、体が勝手に」


「はわぁ、これ、かわい」

 先生は早速スマホを取り出し、通販サイトで首輪を物色している。


「こういうのも、いりますよね?」

 先生が見せた画面には、女の子が犬になれるコスプレセット。

 耳に尻尾に、肘、膝まで隠れるふわふわの足。

 首輪にはセクシーなガラス飾りと太目のチェーン。


「あ、いやいや、ちが、あの」


「ポチ! 購入完了なのです」


「ちょっと待って、先生、ダメ、絶対。それ、キャンセルしてキャンセル!」


 先生は途端に悲しそうな目をして、スマホをぎゅっと抱きしめた。


「キャンセルなんて、絶対に、しないのです」


 先生その気になっちゃったよ、どうする俺?


 なんでこんな事になってるんだ?


「あー!!」


 もしかして……


 ちゃら神の仕業か?


 レインボーカラーのお守りは、そういう事??

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