第4話 絶対に負けない幼馴染
Side—良太
俺と美惑を後部座席に乗せた軽自動車は、国道に向けて軽快に走り出した。
ボディカラーはピンク。内装も所々にピンクがあしらわれていて、桃地先生にこの上なくよく似合っている。
しかし、目立つ。
「良太、風邪かな?」
美惑が俺の額に、手のひらを貼り付けた。
「風邪に、睡眠不足に、極度のストレスだろうね。でも、随分爆睡したし、先生が作ってくれたお粥のお陰で、ちょっと元気出たかな。体は随分軽くなったよ」
「なんでそんなに具合悪くなっちゃったんだろ?」
お前のせいだよー!!
「ぐぬっ」
「裸であんな事しちゃったから?」
美惑は悪びれる様子もなくそんな事を言うもんだから
「はわっ!!」
桃地先生は後部座席を振り返り。
同時に、キキキキーーーと、車体が左右に大きく揺れた。
「うおぉぉぉ!! 先生! 前向いて、前!!」
俺は急いでシートベルトを締めた。
バックミラー越しに、見えた美惑はニタァと笑っている。
確信犯だな。
美惑は先生を動揺させるため、わざとあんな発言をしたんだ。
それはそうと、先生のこの反応はなんなんだ?
よほど
まさか……。
いや、やはりと言うべきか。
先生は、処女だ!
「ねぇ、先生」
美惑が運転席のシートに身を乗り出した。
「はい、なんですか? 美惑さん?」
「先生って彼氏おらんと?」
キュルルルルルーーー
と、タイヤが横滑りしながらカーブを曲がった。
「先生、ブレーキブレーキ!」
「はわ、はわ、大丈夫なのです。先生はこう見えても、18歳の時に運転免許を取得したのです。シートベルトを締めて、し、しっかり掴まっておくのです」
言ってる事、矛盾してるだろ。
「こほん。美惑さんの質問にお答えします。恋人は、今はいないのです。そのうちできるのです。もう運命の人はすぐそこなのです」
「運命の人って、絶対に結ばれるっちゃんね。結ばれなかったら不幸のどん底に陥るらしいよ。だから絶対にその人と結婚しないとだよ」
「そ、そうなのですか?」
「情報ソースはどこだよ?」
「アニメ」
「そんなの作り話だろ」
「作り話じゃないよ。だって絶対不幸だよ。好きな人と結ばれないなんて、一生不幸だよ?」
「まぁ……そう、だよな」
俺にとって、運命の人って誰なんだろうか?
ビビビっと恋に堕ちたのは、やはり白川なんだが。
まるで、目に見えない誰かにドンっと背中を突き飛ばされたように、俺は彼女に堕ちたのだ。
「運命の人じゃない人を好きになったらどうすればいいんだよ?」
「そんな事はあり得ないのよ。でもね、運命を最初に感じるのは、女の方なんだって、男は鈍感だから、気付かないんだよ」
「じゃあ、そのうち、この人が運命の人だ! って思えるって事?」
「そだよー」
「男から好きになった場合はどうなんだよ?」
「それは、運命じゃないよ。勘違いだよ」
ジャリジャリと玉砂利を踏む音が車を震えさせ
「さぁ、着きました」
先生が車を駐車場に入れた。
運転席を降りると、俺側のドアを開けてくれた。
「すいません。今日は色々お世話になった上に、こうして家まで送ってもらって」
「そんな事っ」
先生は顔を赤らめて、手を口元に当てた。
「さぁ、行きましょう」
俺の腕を掴んだ。
「先生の肩に捕まって」
そう言って、グイっと腕を自分の肩に回す。
「いや、いいって。先生、本当、そういうの……」
まずいんですよ。美惑の前で……。
グイっともう片方の腕が引きずられた。
「私が、良太を支える!」
「いえいえ、私が」
「いや、一人で歩けるからっ」
「いけません! 無理はダメなのです。先生にしっかり掴まるのです!」
「あー、先生! ストッキング伝線してる」
突然、美惑が叫んだ。
「はわっ? どこ? どこ?」
先生は慌てて足元を気にしだして、その隙に美惑は俺の胴体にしがみついた。
「行こ、良太」
なんだこれ?
どういう事だ?
「先生、伝線大丈夫?」
俺が訊ねると
「ちょ、ちょっと、先生は一旦自分のお部屋に戻るのです。後で、親御さんにご報告に行きます」
見たところ、ストッキングはピカピカだが。
美惑はぺろんと舌を出し、してやったりの顔。
「どういう事だよ? なんで先生に意地悪するの?」
美惑はふんと鼻を鳴らし
「本当これだから男って」
そう言って、グイグイと俺を引っ張りながら家へと向かった。
白川が、うちを訪ねてきたのは、およそ2時間後の事だった。
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